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和歌山カレー事件・死刑囚の長男との対談を決行した理由

フォレスト出版編集部の寺崎です。

前回、新刊『抗う練習』(印南敦史・著)から、いまどきの「ロック(死語かもだけど)」と「抗う」ということについてつらつら書きました。

ところで、本書は後半部分で和歌山カレー事件の林眞須美・死刑囚の長男と著者とのロングインタビュー(対談)が収録されています。

なぜ、死刑囚の長男との対談なのか?

それは・・・「抗う」というテーマを、林さん(長男)は自ら体を張って、人生をかけて体現しているようにしか見えなかったからです。

林さんは母親が一貫して無罪を主張していることから、ご自身も無罪を信じる活動を続けています。
https://x.com/wakayamacurry

世間からの毀誉褒貶もあるでしょう。
心無い批判やバッシングを受けることもあるはずです。

それでもなお、いまだ和歌山市内に居住し、身分を隠しながらも「死刑囚の息子」としての活動を続けるのか。

我々はその生きざまの全貌をつかむため、和歌山まで片道4時間をかけて、林さんに会いにいきました。今日はそのドキュメントの一部をお伝えします。

***

2023年9 月24日初対面

向かいます。
5分ほどで着きます。
よろしくお願いします。

 林くんから返信が届いたのは、ホテルのロビーに到着したことをショートメールで告げた直後。そして、本当にぴったり5分でエスカレーターのドアが開きました。

「はじめまして、林です。遠いところまでお越しいただき、ありがとうございます」

 黒い服に身を包んだ長身の彼は、予想していたとおり、物腰が柔らかでとても礼儀正しい人物でした。少しだけ固い印象もありましたが、初対面なのですから当然かもしれません。ともあれ、さっそく別の階の部屋まで移動しました。
 室内には対面できる椅子とテーブルがなかったため、横に長い窓際のソファの端と端に並んで座るようなかたちに。「物理的な距離は近いのに、妙に距離を感じてしまうな」と感じつつも、お互いのことを探り合うような空気のなかで対談がスタートしたのでした。カーテンに遮られた大きな窓の向こうは、太陽の光で白く輝いていました。

印南 今回、「抗う」というテーマについて誰か抗っている人と対談しよういう話になったとき、すぐ思いついたのが林くんだったんだよね。前から「和歌山カレー事件 林 長男」名義のX (旧Twitter)も見ていて、強い人だなあと思ってたし。
  ありがとうございます。
印南 人ごとながら、本当に大変だったろうなと思って。あれだけのことがあったんだし、SNSで叩く人も多かったみたいだからね。
  でもモノローグ(本書の第1~4章)を拝見して、「印南さんも、ネット上では想像できないような思いをしてきたんだな」と感じました。
印南 そう言ってもらえると救われるな。でも、もちろん体験したことも、親子の関係も全然違うんだけど、抗っているという意味においては林くんと僕はどこか共通しているなと思うんだよね。
  そうですね。
印南 事件が事件だから、どうしても刺激的な話にばかり焦点が当たりすぎるじゃない。それは仕方ないかもしれないけど、でもその一方、林くん本人にしかわからない悩みもあるはずで。だからここではあえて、そんな状況下での林くんの抗い方に焦点を当てたかったわけです。
  抗い方……。
印南 うん、自分では意識していなかったかもしれないけれど、林くんはずっと抗ってきたように見えるんだ。強い人だなと思うんだけど、それも抗いによって培われてきたものなんだろうなって。こじつけじゃなくてね。個人的には、「もし林くんと同じ立場に立ったとしたら」って考えると、自分には持ちこたえられないんじゃないかなと感じてしまうんだよね。
  家族の犯罪だとかに巻き込まれた結果、うちの姉のように自死という選択をする方もいますからね。僕も、そういうことが頭をよぎったこともあったりはしたんですけど。
印南 ああ、それは当然だろうね。
  でも、母親自身はやっていないと主張し続けている。なのに自分がそういう選択をしたら……。
印南 矛盾が生まれるし、いろんな意味で悲しいことになってしまう。
  ですから、ずっと悩みながら、ちょっとずつ答えを出しているという状態です。
印南 でも、そういう感情を理解しないまま叩く人も多いよね。
  そういうこともあって、基本的に実生活では素性は明かさないんです。なのでいまだに、各メディアに出る際はサングラスとマスク姿です。和歌山で生きていると、「林真須美って知ってる? 昔めちゃくちゃ悪いやつがおったんやで」って話題をふられたりもするんですが、そのたび「へえ、そんな事件があったんですねぇ」とごまかしています。

知らないフリをしたり、素性を隠して生きる=嘘をつきながら生きるとなり 中々、人付き合いなんて出来ません 嘘から始まる友人関係に距離が縮まる事はなく、壁を感じるとよく言われます「でも本当の事を言うと君は僕から離れるでしょ? だから嘘をつかせてよ」といった感覚は理解はされないと思います

(2023年3月26日のX 投稿より)

「素性」とは、家柄や血筋、身分や職業、過去の経歴などを指すことばです。いうまでもなくそれは日常、すなわち日々の積み重ねによって成り立つもの。そう考えると、素性を隠して生きていくことがいかに難しいことであるかがわかるのではないでしょうか。

***

この対談のきっかけとなったのが、林さんが公表した『もう逃げない。~いままで黙っていた「家族」のこと~』(ビジネス社)という1冊の本でした。

この本を『抗う練習』の著者・印南さんがニューズウィーク日本版で紹介したことから、Twitter(現・X)を通じて2人の交流が始まったそうです。

なにかと悪者視されがちなソーシャルメディア(SNS)ですが、こうした出会いが生まれるメリットは素晴らしいなぁと感じます。

なお、今年2月、林真須美死刑囚の3回目の再審請求を和歌山地裁が受理しました。真実が明らかとなることを祈ります。

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