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個人と同じように、企業やオフィスもまた都市部から離れていくのか?

先月末に発表された2021年の人口移動報告によると、東京23区でははじめて「転出超過」になったとのこと。つまり、東京近郊の自治体かもっと遠くに引っ越した人が多かったということです。
これは新型コロナウイルスによるテレワークの普及が影響しているのは確実でしょう。

事実、会社の同僚でも東京から脱出した人がいます。
私はというと、某地方都市に在住しています。
そんな話をすると決まって「やっぱりコロナ禍で移住を決めたんですか?」などと聞かれます。しかし、私の場合は、個人的なやむおえない事情でコロナ禍以前から一都三県から抜け出さざるをえませんでした。
したがって、こうした首都圏脱出の風潮を見るにつけ、時代を先取りしたような、時代が私に追いついてきたような、妙な気分になります。

さて、テレワークが広がっていくと、企業としては高い家賃を払ってまで広いスペースを確保する必要がなくなるでしょう。そして、個人と同じように、企業もまた都市部から脱出するムーブが広がるのかもしれません。

出版業界でいえば、2016年に創業し、ベストセラーを連発している出版社ライツ社さんは兵庫県明石市にあります。

さまざまな文化に触れやすい首都圏や大都市部にオフィスがあったほうが、「編集者の感性がうんたらかんたら……でいい」とかって思っていたのですが、どこからでも簡単に情報にアクセスできる現代においては、そうした優位性は下がっているのかもしれません。

人気YouTuberを見ればわかるように、地方に拠点を置いている人はたくさんいます。著者についても、以前は地方に住んでいる方だとアプローチするのが気が引けましたが、今は簡単にリモートで会議ができる時代です。
むしろ以前より著者とのコミュニケーションの垣根が下がった印象さえあります。
(飲ミュニケーションが減ったのは寂しい限りですが……)

ということで、企業にとっても、都市部にオフィスを構えることの必要性は薄れていくのでしょうか?
そのヒントとなる部分を吉野薫『これだけは知っておきたい「経済」の基本と常識』の中から一部抜粋しておとどけします。

アフター・コロナの都市のあり方

 コロナ禍は私たちの生活を大きく変化させています。とりわけ、オフィスで働く人たちを中心にテレワークが急速に普及したことが、私たちの社会を大きく変えたのではないでしょうか。
 実は日本政府はコロナ禍前からテレワークの普及促進を推し進めていました。2013年6月に政府が定めた「世界最先端IT国家創造宣言」には、テレワークによってワーク・ライフ・バランスを実現するために、テレワークの導入企業を増やすこと等がうたわれています。そしてコロナ禍がテレワークを否応なく推し進めた2020年以降、多くの人がテレワークによってワーク・ライフ・バランスの改善を図ることができた、と手応えを感じたはずです。
 それでは今後、テレワークはますます普及していくのでしょうか。さらには企業が多数集積する「都市」の存在は不要になっていくのでしょうか。
 これを考えるため、そもそもなぜ企業はこれまで、高い賃料を払ってまで都市にオフィスを構えようとしてきたのかを振り返ってみましょう。都市経済学の教科書ではその原理を「集積の外部性」と呼んでいます。企業は「たくさんの企業がオフィスを構えている場所に、自分の会社もオフィスを構えたい」と考える傾向がある、という意味合いです。
 その要因は三つに大別されます。一つ目の要因は「シェアリング」です。多くの企業が存在するということは、その中から自社の経営に必要となるバラエティ豊かなサービスを獲得しやすい、ということにつながりますし、逆にそのようにバラエティ豊かなサービスが存在するということは、自社を含め顧客となる企業が多ければこそ、ということになります。
 二つ目の要因が「マッチング」です。企業同士の関係性を構築したり、顧客との接点を設けたりするためには、たくさんの人と出会いやすいということが鍵になります。
 三つ目の要因が「ラーニング」です。企業内外におけるさまざまな知識、技能、ノウハウ等の中には、人と人とが面と向かって会うことによってのみ伝達しうるものが存在します。
 さて、テレワークの普及によって「企業が都市に集まる理由」は消滅する方向にあるのでしょうか。おそらく今後、「どのような業務がテレワークで置き換え可能なのか」という企業経営上の判断と、テレワークを実践することによる従業員側のメリットを比較考量しながら、企業はどこにどのような機能をもったオフィスを構えるのかを再検討していくことになるのでしょう。
 ちなみに都市経済学では、「集積の外部性」が存在しない経済のことを仮想的に「裏庭経済」と呼んでいます。これはすべての人が自分の家の裏庭で必要なモノを自給自足する世の中、というイメージです。現代の経済が高度な分業によって成立している、という事実には揺るぎはなく、したがってどれほどテレワークが普及しようとも、企業がお互いに集まって立地したがるという傾向が完全に消滅するとは考えられません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

(編集部 石黒)

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