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書籍の本文に入っている図は、誰がどのようにつくっているのか?

こんにちは。
フォレスト出版の石黒です。
テレワークがはじまり、ずっと家に引きこもっていることもあり、曜日の感覚が麻痺してきました。
毎日が日曜日のような、あるいは平日のような、メリハリのない生活です。
まあ、子どもが仕事の邪魔をしてきたり、家の中が寒いこと以外は、とくに不満はないのですが……。

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そんな中、私が鋭意取り組んでいるのが、6月刊行の新刊『図解 渋沢栄一と「論語と算盤」』の図版の作成です。
タイトル通り、渋沢栄一の人生と名著『論語と算盤』を100本ほどの図やイラストを交えて解説する本なのですが、こんな企画を立てておいて、私は図版をつくるのが非常に苦手なのです。

絵心がなさすぎる、字が汚い、というのが最大の理由ではあるのですが……。

書籍における図版の役割は、なかなか文章では伝わりにくいことを補足したり、複雑なプロセスを整理することにあります。その種類は幅広く、イラスト、チャート、グラフ、インフォグラフィックスとか、見せ方はさまざまです。
しかし、これをつくるには非常に頭を使います。まず、編集者自身が内容を咀嚼して語れるくらいに理解を深めることが前提となります。
そのうえで、以下のようなことを意識して図版をつくらなければなりません。

①抽象的な概念を、具体的な何かに置き換える。 
②ふつうのことを、新鮮に、面白く感じてもらう。
③グラフや数字に置き換えられないか考える。
④複雑な内容を、よりシンプルに。

...etc.

プロセスとしては、まずは編集者がエクセルやパワポ、手描きでラフをつくり、それをベースにデザイナーやイラストレーターに作成していただきます。
せっかくなので、参考までに上記4パターンの、デザイナーやイラストレーターにわたす前の私の手描きのラフを開陳いたしましょう。「渋沢の教え」がきちんとラフに示されているかどうか、チェックしてみてください。
普段、何気なく読み飛ばしている図版も、じつは編集者、デザイナー、イラストレーターが頭を捻ってつくっていることがわかっていただけるはず。それだけで、普通に読み飛ばしていた図版の感じ方も、少しは変わってくるかもしれません。
というか、本音としては、せっかく苦心してつくった図版がスルーされたら悲しいので、いっそのことここで紹介しておきたいだけ、だったりするのですが……。

では、さっそく順番に見ていきましょう。

①抽象的な概念を具体的な何かに置き換える。

渋沢の教え:『論語』を熟読していれば、人生において道を踏み外すことがない。

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さまざまな誘惑があるなか、論語を読みながら真っ直ぐ歩く人を表現しました。これはわかりますよね!?

渋沢の教え:自分の能力を冷静に判断したうえで、仕事を選んだほうが満足度が高い

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昔読んだ小説にあった「絶対に食べきれないほどの料理を目の前に並べられたときほど、食欲が失せることはない」みたいな文章から着想を得て、考えてみました。「二郎は大好きです」とエクスキューズを入れたいところですが、初めて食べたときに腹を壊して以来、行く気になれません。


②ふつうのことを、新鮮に、面白く感じてもらう。

渋沢の教え:どんな些末で退屈な仕事でも、与えられた仕事をきちんとこなしていくことで、運が開ける(上司からよい仕事が与えられる)。

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あるていど経験のあるビジネスパーソンであれば、誰もが納得する教えなので、あえて図版にするまでもないかもしれません。
しかし、「図解」と銘打ったこともあり、無理矢理にでも図にしなければならないときが、編集者にはあるのです。ラフはイソップ寓話の「金の斧 銀の斧」をモチーフにしたものです。この意図、伝わりますか?


③グラフや数字に置き換えられないか考える。

渋沢の教え:大きな志につながるように、小さな志を積み重ねなければならない。

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ラフでは縦軸を志の大きさ、横軸を時間というグラフにして、比較してみました。グラフにすると、直感的に理解しやすくなりますが、このラフはいかがでしょう?

④複雑な内容を、よりシンプルに。

渋沢の教え:道徳と経済(商売・金)を両立させなければならない。

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「道徳経済合一論」という渋沢の独特の概念です。
ふつうに考えれば、道徳と経済(商売・お金)は対立しやすいものです。しかし、それを「両立させるべき」と言い張る渋沢の考えをどう示すべきか? 
そこで使ったのが陰陽を示す太極図。陰と陽という対立するものが表裏一体であることを示すシンボルなので利用しました。「二律背反」で画像検索したときに、目に止まった図です。図版をつくる際に、画像検索はよく使います。
ただ、私の意図がが読者に伝わるかどうか、ちょっと不安です。

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以上、お恥ずかしい限りですが、5つの図版のラフをご紹介しました。
ここからデザイナーやイラストレーターが、新しいアイデアを入れたり、余計な情報を省きながら、完成度の高いものに仕上げます。
じつは、私に限った場合だと思いますが、完成した図版のほとんどは、元のラフの跡形がないほど別物になっています。

興味があるという奇特な人がいるならば、ぜひ完成した図版と上に紹介したしたラフを比較してみてください。
6月刊行の新刊『図解 渋沢栄一と「論語と算盤」』という本に載っているはずです。


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