見出し画像

つまらない教科書を楽しく読むための医師が開発したアクティブ・ラーニング

受験シーズンということもあり、先週・先々週と暗記法・記憶法について書いてきました。

今回は「教科書の読み方」をテーマにお届けしたいと思います。
中高生時代を振り返って、興味のない教科書を読むのが苦痛だったという方は多かったはずです。ご多分に漏れず、私もです。
では、医学部受験、医師国家試験を突破するような人は、どのように教科書を読んでいるのでしょうか。
引き続き、黒澤孟司『医師が開発した聞いたら忘れない勉強法』から一部抜粋、本記事用に改編したうえでお届けします。

じつは、興味のない分野についてはまったくエンタメ性を感じられない、無機質極まりない教科書も、アクティブ・ラーニング(簡単に言えば能動的な学習)を取り入れることで、吸収力を上げることができるとのこと。
「アクティブ・ラーニング」などというと、こまっしゃくれた感がしますが、以下に説明するスキルは全然意識が高くないので安心してお読みください。

興味のない教科書を楽しく読むスキル① ディスる・茶化す

 ここからまじめにふざけるスキルについてまとめていきます。これもアクティブ・ラーニングの一種です。
 まずは「ディスる」。
 もともとは「無礼・失礼」という意味の英単語「Disrespect」から来ているネットスラングですが、教科書の覚えたい箇所をディスりながら読んでください。
 この手法が一番頭や才能を使いません。
 とにかく勉強しているという自覚を持たないで淡々と、粛々と、読んだ内容を理解し、茶化し続けます。
 難しい内容や自分の知らないことを読むのはストレスがたまるので、わかりにくい説明に対して徹底的にディスる・茶化すのです。そうすることで、覚えたい要素に対して印象をつけられるし、ストレスの発散にもなります。
 また、ツッコミには単純にディスる以外にも、さまざまな種類が存在します。客観的、共感的なものもツッコミは内包しています。言い換えることで、ボケている箇所を明確にするのが、ツッコミの役割です。
 自分の脳内に、お笑い芸人の霜降り明星の粗品(ツッコミ)を憑依させて、ひたすら、せいや(ボケ)ならぬ教科書の筆者にツッコミを入れるイメージです。
 例示してみましょう。教科書の気取った文章や小難しい熟語にツッコミを入れてみます(もちろん、ツッコミを書き出す必要はありません。頭の中だけでツッコミをしてください)。

◆教科書の記述:聖武天皇の治世になると、疫病や天災がたびたび起こった。
◆ツッコミ①:ちちちち、ちせいって! 一生に1回しか使わない!「一番偉くなったときに」でよくね?
◆ツッコミ②:ちちちち、ちせい! いいよね。響きがいい。上品だよね。天皇が主語のときについつい追加したくなるよね。「一番偉くなったときに」ってことね。
◆教科書の記述:税を逃れるため、口分田を捨てて、逃亡する農民も現れた。
◆ツッコミ①:くくくく、くぶんでんって! 一生使わない! 国から与えられた農地でよくね?
◆ツッコミ②:くくくく、くぶんでん! 口の形があたかも、田(4つの口)のようでいい言葉だねぇ! 中国の均田制からきてるんだねぇ。均等に分けられた農地なんだねぇ。
◆教科書の記述:朝廷は開墾を奨励し、743年に墾田永年私財法を出して、新しく開墾した土地を私有地にすることを認めた。
◆ツッコミ①:なじみ(743)の土地だよ。こんでん、えいねん、しざいほー。絶対に、韻を踏みたかっただけじゃん。これで、ええねん。私の財産ですぅ法。
◆ツッコミ②:なじみの土地だよ。(743)こんでん、えいねん、しざいほー。EN、ENで韻を踏んでいるねぇ。リズミカルでいいねぇ。これでん、ええねん。ぼくの財産。

 小難しい文章やいらつく説明は、ボケているのだ、ボケ倒しているのだと思って読んでください。ダウンタウンをイメージしてください。教科書とは、浜ちゃんのツッコミを待っている松ちゃんです。
 こうして、ツッコミを入れるうちに理解が深まります。なぜなら、自分事と思えなかったほど遠かった要素が卑近になるので、変換するインスピレーションが生まれるようになるからです 。

興味のない教科書を楽しく読むスキル② こじつけ・たとえ・パロディ化

 自分の人生や経験、興味とかけ離れた知識ほど、覚えにくいものです。
 それをより身近に実感するために必要なのが、先ほど解説した「ディスる」以外に代表的なものとして、「こじつけ・たとえ・パロディ化」があります。
 一度たとえたら、そのたとえを利用して、無理やりこじつけます。レッテルを貼って、いじりたおす。
 たとえを利用することで、そのたとえが持っている属性を容易に連想することができるため、芋づる式に思い出せるようになります。

◆覚えたいこと:マキャベリ。
◆こじつけ・たとえ:「マキャベリ」→「芽キャベツ」。頭が五厘刈りで芽キャベツのようだ。
◆覚えたいこと:糖尿病のHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)という値の正常値。ざっくり、7未満が正常値で、7以上が異常値。8以上が危険な値。
◆こじつけ・たとえ:A1c(エーワンシー)の値を体温にたとえる。37度未満は正常、37度以上あると病気を疑い、38度で治療しないといけない。A1c(エーワンシー)が7以上で黄色信号、8以上で赤信号。
◆覚えたいこと:都道府県の形と名前。
◆こじつけ・たとえ:「東京都」→「メダカ」、「北海道」→「エイ」……と、都道府県の形をすべて例える。
◆覚えたいこと:「帰無仮説(統計学の仮説検定において、その当否が検定される仮説。否定されることを前提として立てられ、この仮説が棄却されると対立仮説が成立する)」という言葉と意味。
◆こじつけ・たとえ:ノリツッコミ。一度、ボケに対して、「そうそう、そうだよね」と同調しつつ、最後に「そんなわけあるか」と訂正する。この論理を統計においても応用して、小難しく命名したのが帰無仮説。

 このスキルは「これって、あれと似てる!」というインスピレーションで「Aという特徴」をまったく別の、しかしすでによく知っている「Bという特徴」にたとえて、記憶を助けるというスキルです。
 お笑い芸人の有吉弘行が、よく芸能人にあだ名をつけますが、やってることはあの要領です。お笑いコンビ品川庄司の品川祐に対して「おしゃべりクソ野郎」、タレントのベッキーに対しては「元気の押し売り」とあだ名をつけましたが、こじづけ・たとえとはいえ、妙な納得感がありますよね。

興味のない教科書を楽しく読むスキル③ イメージ化

 文章から得られるイメージを、なるべく具体的に映画やドキュメンタリーのようにリアルにイメージすることも有効です。

◆覚えたいこと:○○という病気は男性より6倍、女性に多い。40代が多い。
◆イメージ化:診察室が熟女だらけ。
◆覚えたいこと:「傾聴する」という言葉の意味。
◆イメージ化:耳ダンボ。
◆覚えたいこと:「薫陶を受ける」という言葉の意味。
◆イメージ化:小山薫堂(訓導)先生に感化され、生き方を京都風に変える。おいでやす。

 特に最後のイメージは、こうして文章にすると荒唐無稽でバカバカしいですが、みなさんも普段、さまざまな妄想をしているはずです。
 その妄想力を、ぜひ勉強にも注いでみてください。

■興味のない教科書を楽しく読むスキル④ 単純化

 実はこれが一番大切なことなのかもしれません。
 頭がいい人と悪い人の違いはここ。
 単純化させることができればどんな学問も容易に理解できます。
 理解できれば覚える対象が少なくなるので、理解していない人よりも少ない努力で記憶できるのです。
 工夫がいりますが、なんとか小難しい言葉を平易にざっくりと言い換えてみるのです。

文系のざっくり例
◆織田信長が台頭する。→織田信長が強くなる。
◆ブレインストーミングする。→みんなで一緒に考える。
◆ゲームチェンジャーになる。→流れを変える起爆剤になる。
理系のざっくり例
◆歳差運動(自転している物体の回転軸が円を描くように振れる現象)をする→コマまわしで軸がぐるんぐるん回り続ける。
◆4%が発症する→数%に出る。
◆40~60%にみられる→半分に出る。
◆信号強度が上がる→白くなる。ぴかっとする。
◆がんのステージ1~4→5年後に生きている割合を4分割し、ステージ1が最上段(80%以上)、ステージ2が上から2段目(60%)、ステージ3が3段目(40%)、ステージ4は最下段(20%以下)。

 複雑な内容をそのまま受け取ってしまうと、理解するまでの過程も複雑になってしまいます。できるだけシンプルにとらえることで、脳への負担を減らしましょう。

■興味のない教科書を楽しく読むスキル⑤ 語呂合わせ

 言わずとしれた技法、語呂合わせ。
 歴史の年号を覚えるには、この語呂合わせが最適な勉強法です。日本人ほど、自分の国の歴史の年号を記憶できる国民はいないと思います。それは日本語がとても、語呂合わせをつくりやすい言語だからです。
「鳴くよ(794)、ウグイス、平安京」という語呂合わせは、語呂合わせという領域を超えて、ポエムのような美しさを感じませんか。歴史の年号の語呂合わせに関しては、すでに昔からデータベースがつくられており、自分でつくり出す必要がありません。名作がたくさんありますので、それは別の本に譲ります。
 問題なのは、語呂合わせが存在しない学問領域で、どう語呂合わせを利用するかです。
 肝に銘じていただきたいのは、全部の項目を語呂合わせする必要はないということです。テストに出る内容で、どうしても覚えられないものだけを語呂合わせするのです。
 そう、語呂合わせは最終手段なのです。
「覚える対象を抽出する」という大原則がないと全部覚えなければならないという発想になります。導けることは覚える対象にしないという法則を忘れないでください。

教科書に載っている肖像に、いたずら書き、落書きをしたことがある人は多いことでしょう。
たとえば、「織田信長に髪の毛を付け足してイケメン風にした」「ザビエルの額に『肉』と描いた」といったふうに。私も似たようなことをやってました。
バカバカしい行為ですが、意外にもテストのとき、いたずら書きしたページのイメージが頭に浮かんできたりしたものです。
もしかして、これもアクティブ・ラーニングの一種だったのではないかと、上記を読んで感じた次第です。

(編集部 石黒)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?