はんのう森林みらい塾 Session3 実施レポート
2024年2月24日(土)〜25日(日)の2日間、「はんのう森林みらい塾」のSession3 「森からはじまる weekend」が開催されました。
2023年度、秋から冬にかけての3週末、計6日間にわたって開催される塾の最終回となるSession。今回は林業のリアルにフォーカスし、「自伐型林業」の施業地を訪問。伐採の模様を見学する等しました。最終回ということで、2日目の午後は塾生が一人一人、本塾で学んだことと今後の抱負を発表しました。
本稿では、当日の模様をダイジェストでレポートします。
日本の林業の歴史的背景と現状を学ぶ
1日目の会場は、2016年より「地球のしごと大學 自伐型林業学部」の研修会場となっている日本自動ドア技術学院。午前中に、任意団体「里山ればれっじ」の代表であり飯能市森林づくり推進課の職員でもある淀川茂さんと、地球のしごと大學の田中新吾さんによる座学レクチャー。午後は、自伐型林業学部の研修林を見学した後、チェーンソーでの玉切り体験を行いました。
淀川さんのレクチャーのテーマは「現在の森林と林業が、どのようにつくられてきたか」。林業の課題を考えるのに必要な前提知識です。
淀川さんによると、欧州では集約化・機械化による効率化でコストを圧縮し、林業が収益性のある産業として成立しているが、日本ではコストが売値を上回る状況で、行政からの補助金を使って差分を補っている状況なのだとか。コスト減と価格UP、両方の取り組みが必要だと考えさせられました。
また、「森林や木材を使う知恵や意識が失われてしまった」ことが、淀川さんの問題意識であり、今回の森林みらい塾が林業に特化した塾ではなく、広く森林活用を考える塾として企画されたねらいにも繋がっているようです。
レクチャー後にはグループに分かれて意見交換を行いました。
林業の課題について現場目線での話が行われているグループ、森林の活用策についてアイデアブレストをするグループなど、グループのメンバーに応じて多様な話が展開されていたようです。
半林半Xというライフスタイルを実現!自伐型林業について学ぶ
2コマ目の講義はNPO法人地球のしごと大學 副理事長/プロジェクトデザイナー 田中 新吾さんが、地球のしごと大學と自伐型林業についてお話しされました。
講義の中で自伐型林業のプロモーションムービーも視聴しましたが、高齢のご夫婦が生活の一部として小規模な林業に取り組んでいる姿が描かれていました。安全のための技能は必要なので、プロフェッショナルな仕事であることには変わりはないのですが、イメージとしては畑仕事に出る農家といった感じ。兼業副業でできる点は、受講生たちにとっても自分が携わるイメージが湧く、身近に感じるポイントだったようです。講義の後の意見交換タイムでは、ご実家の持つ山林で自伐型林業を行う構想を語る受講生の姿がありました。
この日は、惣菜工房「お飯“菜”」のお弁当で昼食。食後の珈琲は毎回ご協力いただいている百瀬拓也さん(森見ル焙煎所)に出張いただきました。今回は百瀬さんからオーガニックコーヒーについてのプチ講義もいただきました。
道作りから始まる林業の山を見学
午後は、地球のしごと大學自伐型林業学部の研修林として使われている山を、講師の岩田雄介さんのご案内で歩きました。
現在は駐車場と資材倉庫として使用されている日本自動ドアの土地は以前は野球場で、研修林はネット裏の人の立ち入らない斜面だったそうです。地球のしごと大學のメンバーが、草を刈り、道をつけて、少しずつ整備を進めて林業の山に復活させました。
隣の土地との境界線である尾根筋まで上って降りて、山の見学は終了。つづいて、電動チェーンソーを使っての「玉切り」体験を行いました。
チェーンソーの操作は初めての受講生がほとんどで、岩田さんなど講師の指導を受けながら丸太を玉切り(輪切り)に挑戦しました。
最後に、屋内の教室に戻り、この日の振り返りを行った後、1日目のプログラムは終了となりました。
講座のクライマックスは伐採見学!
1日目の晴天と打って変わって、2日目は生憎のみぞれ雨。とはいえ、学びへの熱意に燃える受講生たちにとっては、雨も障害ではありません。レインウェアに身を固めて山に入りました。見学させていただいたのは、剱持芳司さんと齋藤正宏さんが伐採を受託されている名栗湖畔の斜面。ハイキングで人気の「棒の嶺」の登山口からも近い場所です。二人はフリーランスの林業家ですが、飯能の現場では協力して仕事をしています。今回は、剱持さんと岩田さんで伐採を担当、齋藤さんが解説を担当されました。
冷たい雨の中ではありましたが、林業家の皆さんに入念に準備をいただき、非常に有意義な見学会となりました。
副業から本業へ。猟師兼カフェオーナーのライフスタイル。
山を後にして、この日のお昼は「ジビエールカフェ」(飯能市原市場1036-1)へ。宮城県出身のオーナー遠藤拓耶さんが、冷えた身体に嬉しい芋煮をご用意してくださっていました。
遠藤さんは、飯能へ移住して7年目。低山に囲まれたログハウス調のご自宅で、ご家族と生活されています。会社員としてメーカーに勤務する傍ら、移住を期に狩猟免許やBBQインストラクター資格などを取得。地球のしごと大學自伐型林業学部の卒業でもあります。2021年から、「飯能ジビエールプロジェクト」の屋号でワンコ向けのジビエジャーキーの製造販売や、出張BBQ事業を展開。2023年3月に、食堂だった物件を借り受けてワンコファーストのカフェ「ワンコカフェ&BBQ ジビエールカフェ」を開業し、会社員から個人事業主に完全シフトしました。さらに2023年末には「飯能ジビエ工房 鹿や」を開業し、念願の食肉事業もスタートしています。
飯能市では有害鳥獣対策として年間400頭以上の鹿や猪が駆除されています。飯能ジビエールプロジェクトでは、野生動物の命を無駄にせず、活用することを事業のベースにしています。野生鳥獣の利活用を中心とした複数事業を行い、しっかりと利益を生み出すビジネスモデルを構築、その利益を中山間地域の問題(獣被害、空き家、過疎など)の解決へ投じることをモットーとのこと。
森林資源を広い視野で活用する点は、森林みらい塾のねらいとも重なっています。塾生たちにとってもモデルケースの一つとなったのではないでしょうか。
成果発表と涙と決意の修了証書授与式
午後は引き続きジビエールカフェをお借りして、全3回のSessionの締めくくりとなる振り返りと、修了証書授与式を行いました。
振り返りは、ひとり5分の持ち時間で、①はんのう森林みらい塾で学んだこと ②今後取り組みたいこと を発表し、講師や他の参加者からコメントをもらうスタイルです。
例えば、東京都練馬区在住の大川戸聖宜さんは、飯能にあるご実家の山林について活用を検討するために塾に参加。自伐型林業に関心を持ち、まずは「地球のしごと大學」で実習を受ける決意を語られました。
なにかしたいけれど、何から始めたらわからない、そんな方が一歩を踏み出す接点に、森林みらい塾がなったようです。
東京都中野区在住の高藤いづみさんは、親戚の山林を相続するママ友との縁で林業に関心を持たれたそう。本塾に参加する前にも山梨県で林業塾に参加したものの、生業として林業家になることに迷いがあった時に本塾を知り受講しました。結果、まだ何ができるかはわからないけれど、「都会の側にいてもできることがある」と考え、裾野を広げる活動をしていきたいとのことでした。(いづみさんは、他の受講生有志と、卒業後も繋がるためのnote.を作ってくれました 放課後『はんのう森林みらい塾』 )
東京都羽村市在住の後藤英生さんは、森林や自転車を活用したアクティビティの事業構想について発表。一人一人のキャリアや関心と、森林がかけ合わさった時に、新しい展開が生まれる。そんな可能性を感じました。
栃木県在住の松本瑞月さんは、「山地酪農」をテーマに活動をしていて、森林活用のヒントを探しに本塾に参加。自伐型林業など山の管理が女性でもできることを知り、希望を持ったそうです。また、本塾のなかで食のプログラムを体験して、食育の場として森を活用したいと語られました。福島県での開業を目指す松本さんですが、飯能の人たちの飯能愛には心が動かされたそうです。
いろいろな背景の受講生が集まった森林みらい塾。受講生同士のコラボレーションも生まれていきそうな気配がします。
塾生たちの発表を受けて、飯能市役所の淀川さんと、塾長の鬼沢真之さんより、講評をいただきました。
淀川さんは
「皆さんが関わってくれたことが、飯能にとっての財産。場所は違っても繋がりを大事にしていきたい。そして、森林と直接の関わりのない方とも繋がりたいと思っている。森林や林業の歴史は個別の林業者ではなく社会全体の世論で作られてきた。世論は社会に生きるひとりひとりの意識からつくられる。このため、森林の関係者がよりオープンに仕事やその課題を伝え、関わる人たちもその情報をキャッチして広げていく流れができれば良いと思う」とコメント。
自由の森学園の理事長をつとめる鬼沢さんは
「教育に携わる中で、どうしたら受け身ではない主体的な学びを実現できるかを考えてきた。大人の学びは、自分たちが心から学びたいという思いがスタートの能動的な学びだ。今回、大人たちが本気で学ぶ姿に感銘を受けた」とコメントされました。
Session3を振り返って
最後に受講生の受講後アンケートの回答から、感想をいくつかご紹介します。
森林の多様な活用方法について考えるSession 1とSession 2を経て、Session 3では林業と、林業が抱える構造的な問題について学ぶ内容となりました。「森林資源はあるけれど、うまく使えない国、ニッポン」。確かに現状はそうなってしまっています。
一方で、地球の持続可能性が差し迫った問題になった時代だからこそ、昭和〜平成の時代とは違った視点で森林を考えられる。そしてそれぞれの立場で動いている人たちがいる。変革の萌芽はあちらこちらで見かけます。
受講生の誰かが言っていましたが、人が集まる場には明るい話題が起こり、人の気持ちを明るくするもの。ひとりひとりの持つ力は小さくても、森林みらい塾で繋がる方々が互いを生かしあい、大きな社会変革の流れを作って行けたらいいな、と思いました。
(レポート担当:大竹 悠介)
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