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林業×ドローン 森の問題を空から解決

つい数年前までは「なにそれ?」と見たことも聞いたこともない未知の存在感がありましたが、
今ではだいぶ身近な存在になってきた「ドローン」。

趣味として個人で持たれている人が増えていたり
旅番組では、施設全体の映像や雄大な自然の美しさをダイナミックな映像で届けたり
オリンピックの会場で夜空を彩ったり
災害地など危険な場所の調査に使われたり  などなど
実に様々なジャンルで活用されている場面が見られるようになりました。

そんなドローン、実は林業の現場でも使われているんです!

今回はそんな「林業×ドローン」のお話です。


ドローンを山で使う難しさって?

私は、後でご紹介するいろいろなシーンでドローンを使用してきました。

社内でもドローンを飛ばす人が少ないこともあって
ドローンを飛ばして写真を撮って計画を立てる役に立ったり
「この日に飛ばしてくれへんか?」とお願いされたりするとやりがいを感じる一方で、

思っていた写真や動画が撮れないばかりか
何回か墜落させてしまったりと苦い経験もたくさんしてきました。

そんな私が身にしみて感じた
どのようなシーンであっても重要になってくることが、
飛ばす前の事前の準備・確認』です。

ドローンの操作自体は本当に簡単ですので
若い人でゲームをやったことがある人であれば、数分で覚えて飛ばすことができます。

しかし難しいのは、同じ条件で飛ばすことができないことです。

場所が変われば、障害物となる電波塔や高木があったり、電波が入りにくかったり、
場所が同じでも、その日の天候で風が強かったり、気温が低かったり(低すぎるとバッテリーの調子が悪くなります)、日差しがまぶしくて写真の写りが悪かったり、
不安要素をあげればきりがありません。

そういった条件を事前に知ったうえで、安全を確認したうえで初めて飛ばす判断をしています。
「今日はドローンを飛ばすぞ!」と意気込んで山に登って、
いざ現場に着いてみたら風が強いからやめとこう、なんてことは日常茶飯事です。

画像2
余裕そうに見えて、実際は手汗ダラダラで緊張しながら飛ばしてます

作業員がリモコンの操作で飛行することが多いですが、
アプリを使用して飛行するエリアを選択することで、その範囲を自動で飛行するシステムもあります。

日本の広大な山林を調査するためには必須の方法になるのは間違いないですね。


林業×ドローン なにができるの?

それでは、林業の現場ではどのように活用されているのでしょうか。
ここでは、フォレストバンクで実際に取り組んできた活用方法を紹介します。


(1)航空写真

まず最初に、シンプルですが、上空からの写真を撮ることです。
フォレストバンクだけでなく、他の林業会社でも圧倒的にこの使用方法が多いと思います。

ドローンが活用される前は、
 ● 町や県など外部の方が撮影した写真をもらう、または、買う
 ● 自分たちでヘリコプターを飛ばして撮影してもらう
 ● Google Earthを使用する

ぐらいしか方法がなかったと思います。

いずれの方法であっても、
 ✕ 他者の撮影のためほしいエリアの写真が手に入らないことがある
 ✕ 山のギリギリの高さでは撮影できないので詳細がわからない
 ✕ 撮影後の時間経過により森林の状態が変わる
 ✕ 依頼するとなると高額になってしまう

として、航空写真としては活用が難しかったようです。
※当時はそれしかなかったため有用ではありましたが…

しかし、ドローンを使うことによって
 〇 自分たちの欲しいエリアを好きな高度・角度で撮影することができる
 〇 自分たちのタイミングで飛ばして撮影できる(天候を考慮して別日での撮影ができる)
 〇 ドローン購入後はそれほど追加の費用が掛からない

となりました。

特に、ほしい場所のまさに『今』の状態を確認できるというのは画期的です!

ドローン_作業道
普段歩いている山でも空から見るとまた違った姿に見える

上の写真では、森林の中に細い筋が見えるかと思います。
これは、自分たちが開設した「作業道(車や重機が通って作業するための道)」です。
この時は、道と道の間の森林の状態を知りたくてドローンを使いました。

伐倒の進み具合も一目瞭然

動画も撮れるので、周辺を大まかに撮影して
会議室に投影して気になる箇所で止めてアップして確認する、なんて使い方もしています。


(2)材積量調査

山からとれる木がどれくらいあるのか数値で知るために『材積(立米:㎥)』というものがあります。
「材積(㎥) × 樹種ごとの材の単価(円/㎥)」で販売金額が決まるので、
「この作業現場から何㎥の木が採れるか」というのは売り上げ予測に直結する大切な数値です。

そんな重要な材積ですが、従来の計測方法は困難を極めました。

  • 作業現場の面積と樹種・樹齢から経験則で求めるしかない

  • 作業現場に行って1本1本の樹高を測定して計算で出す

  • 熟練の山師の方に見てもらう(ベテランさんは割と正確に値を出してくださる!)

  • 伐って搬出して市場に来て初めてわかる

などなど、熟練の技術と膨大な時間がかかっていました。

しかし、ドローンによってオルソ画像(※)を作成することで、おおよその材積を算出することができるようになりました

オルソ画像は、わかりやすく言うと「位置データを含んだ写真」です。
ドローンによって連続写真を撮って1つの画像として処理することによって木の正確な位置を求めることができます。

木の樹頂点(先端の最も高い部分)の高さのデータを求めることができます。
「樹頂点の高さ - 地表面の高さ = 樹高」で樹高を求めることで、樹高から計算で材積を求めることができるようになります。

作業現場全体のオルソ画像
拡大してポイントを打つことで、木の頂点の位置データが取得できる

まだまだ一般化されていませんし、精度がどれほどなのかも研究中の技術ではありますが、
計画、特に材積による売り上げ予想や収支計画を立てるうえで今後重要なデータになることは間違いないと思います。

※オルソ画像の詳しい説明は下記のリンクなどを参考にしてください。


(3)風倒木・施設破損調査

台風などの大雨・強風・暴風雨のあとに心配なのが「風倒木」による被害です。
風倒木とは、字の通り「風で倒れた木」のことで
受けた風によっては、途中で折れたり、根から掘り起こされたりします。

他にも、土砂崩れによる道の封鎖やその可能性のある場所など
人が近づくと危険な災害が発生している、発生する可能性があるところの調査に使用しています。

ドローンで撮影した風倒木被害現場  太い木であっても強風にあおられて折れてしまっている

また、防護柵やチューブと呼ばれる植林で植えた苗木を保護するための獣害防止施設の破損状況の調査にも使用しています。
特に防護柵は植林した現場を一周ぐるっと囲っているので、
人が確認すると1日がかりとなってしまう作業も、ドローンを使えば10分ほどで確認ができます。

防護柵の設置状況の調査  支柱や網の目の破損状況を確認できる

こういった調査を早期に行えることは、シカなどによる苗木の食害被害を防ぐだけでなく、
人が現場調査するのが危険な可能性のある個所に入って行ったり
被害の規模を人が現場に入る前に確認することで
修繕に必要な最低限の道具を持っていることができたりと、人への負担を軽減する
ことにも繋がっています。


(4)架線の設置

私たちが林業を行う那賀町はどこも急傾斜地ばかりです。
そのため、山に道を作り、車や重機を使って作業する方法ができない場所も多いです。
そこで行われてきたのが「架線集材」という山にワイヤーを張って木を運んでくる方法です。

山の2箇所をワイヤーで結んで、その間をキャリア(丸太を吊ってくる装置)が行き来して
重機の入れない山奥から木を運んできます。

架線集材の様子  ワイヤーを使って木を運んでくる

この、一番最初の線(釣り糸を使っています)を引っ張る作業をドローンが行っています。
ドローンがワイヤーを設置したいところを通ってくることができるため
理想通りの位置に持ってくることができます。

ドローンで運んだ釣り糸からバインダー線(プラスチック製の紐)に結びかえ、
細いワイヤーに結びかえ、だんだん太いワイヤーにかえていきます。

対面の山の斜面から釣り糸を付けたドローンを飛ばしてきた様子
青い紐がバインダー線
釣り糸  ⇒  バインダー線  ⇒  細いワイヤー  ⇒  太いワイヤー へとかえていく
設置完了

ドローンがなければ、
線を引っ張りながら山の中を設置するという完全人力で行う必要があり、
その時間は場所によっては1日作業。
急斜面で木もたくさんあって歩きにくいうえに
ワイヤーは持ち上げるのもやっとなぐらい重いです。

そのうえ、計画していた場所とずれていたらやり直しになります。

一日中必死になって山を歩いていた作業が
ドローンを使うことで10分ほどで終わることを知ってしまうと、
もう昔の作業には戻れません。


将来の夢 こうなったらいいな!

ここからは、私が期待する近未来のドローンの活用方法について書かせていただきます。

資材の運搬

前述に関係する植林の防護柵設置や架線設置にも関係してきますが
林業の現場で使用する資材は意外と多く、そして重いです。

ドローンにつるして空から資材を運ぶことで
作業員の負担が減るだけでなく、作業時間まで短縮できます。

下の写真の資材だけでも重量は約5kg
それを担いで急傾斜地の植林現場まで何往復もして運んでいます

実証実験にて ドローンが植林の資材を運搬している様子

重量のある資材を長時間運ぶことができるドローンは
価格が高く、林業家が求める運搬レベルには達していないため
まだまだ一般的ではないと言わざるを得ません。

技術の進歩に期待です!


獣害対策

ドローンに赤外線カメラなど専用のカメラを取り付けることで
森林内にいるシカなどの動物の生息域や良く通るルートである獣道や住処を調査することができるそうです。

増えすぎたシカから苗木を守るために設置する罠も
動物が来ることがわかっているところに仕掛けることで
捕獲できる確率が上がることが期待できます。

植林現場の近くをうろつく鹿 
立派な角やクリクリの目に魅了されそうだが… 苗木にとっては天敵

また、その地域に暮らす生き物の生態を詳しく知ることで
むやみに駆除せず共存する方法を探ることもできるのではないでしょうか。


まだまだ未知数

ドローンの活用方法は日本だけでなく世界中で日々考えられています。
また、小型化や大型化、高性能で多機能なカメラの搭載などなど、技術の進歩はめざましいです。

ある国では、
伐った木をドローンを使って運べないか」「ドローンにドングリを積んで空からまこう
といった夢のようなことを本気で実験をしているところもあるらしいですよ。

今は「ウソでしょ~」「そんなの無理だよ」と思われるかもしれませんが、
近い未来には「そんなの当たり前」になっているかもしれません。

そんな期待感がドローンにはあります。


課題に感じていること

「まだまだ未知数」なためにドローンの使用経験者、特に林業現場での経験者が少ないことです。

操作自体は簡単で、それこそお子様でも操作できますが、
 木が生い茂っていてドローンを離着陸させるところがない
 風向きや強さ、晴れから曇り・雨に急になったりと天候が変わりやすい
 山を1つ超えると電波が遮断されて操縦不可能になる
 鳥や虫に襲われて激突する

などなど、山林特有の飛ばしにくさがあります。

そういったスキルの向上の機会や、経験談や失敗エピソードなどの情報交換の機会は少なく、
自分でブッツケ本番で経験していくしかないのが現状かと思います。

「うちはこうしてるよ~」「このときはこうしたら安全やで~」
そういった情報交換ができる場を作ることが、
実はドローンの技術進歩における一番の方法なのかもしれません。


著者:おおだいら

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