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16年前のNHKプロフェッショナル仕事の流儀:MITの石井裕さんとジェイミー

僕は農学部を卒業した後,CS系の研究室で博士号をとり,現在はデンマークでポスドクとして働いています.

デンマークでの研究生活も8ヶ月を過ぎ,仕事(暗号研究)のペースもつかめてきました.様々な国から来た研究者とオフィスを隣り合わせて研究をしていると,時々思い出すテレビ番組があります.

2007年2月8日(木)にNHKで放送された,プロフェッショナル仕事の流儀MITの石井裕さんを取り上げた回です.

これは,私が農学部卒業を間近に控えながらも大学院も就職先も決まっておらず,進路を決めかねている頃に見た番組で,結果的にこの番組に影響を受けてその年の秋にCS系の研究室に進学しました

MITの石井裕さん

石井さんといえば,HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)と呼ばれる研究分野でタンジブルビッツという概念を提唱していて,MITのメディアラボ 副所長も長く勤めていらっしゃるので,今ではコンピュータサイエンスに関わっている人には広く知られているのではないでしょうか.

プロフェッショナル仕事の流儀では,そんな石井さんがMITで働く様子が映されていて,学内を小走りに移動する様子,大学院生を指導する様子,PowerBook(Macbookの前身)の上に起動ディスクにした外付けHDDが載っている様子(石井システム)などが取り上げられていて,どの場面も面白かったのを覚えています.

起動ディスクとしての外付けHDDがくっついているのがかっこいい石井システム

*写真は以下より
https://ascii.jp/elem/000/000/096/96606/2/

印象的なジェイミー

その中でも特に印象的だったのは,ジェイミーという20代後半のPhDコース1年(日本でいう修士1年)の学生です.まず,彼は学部卒業後に世界を放浪していたらしく,ストレートに学部卒で入学したわけではないようです.

米国ではいろんなバックグラウンドを持つ学生を採用しているし,本人たちも気にせず応募するんだなと当時思いました.
学部卒業後の進路が決まっていない当時の自分に勇気をもたせるには十分でした.

番組内では,研究成果の出ていないジェイミーとミーティングする石井さんの様子が映し出されていて,第三者として見ていてもややピリピリしている場面になります.

「A+をあげられるかどうか,それは他の誰も思いついていない面白いアイディアかどうかなんだよ」と諭す石井さんに対して,ジェイミーは臆することなく「僕はA+++++のアイディアを話してるんだ」と返します.

鋼のメンタル

その時,「すげー!」と思いました.すげー!すげー!少しピリッとしたモードに入っている教授に向かって冗談を言えるメンタルが凄い.
番組は,二週間ほど経ってそれまでの議論を逸脱した新しいアイディアを持ってきたジェイミーのミーティングの様子が映し出されます.石井さんはそうした逸脱したアイディアを咎めることなく聞いています.

しかし,アイディアのスケールを拡大するために石井さんがアドバイスするも,ジェイミーは自分のアイディアに固執してしまって石井さんに咎められます.石井さん自身,ほとんどのアイディアはCやB,時々現れるBを磨いてやっとAになるかどうかと仰るように,Why?と問いかけ問題の本質を捉えるよう促します.

「もっと考えなければ」と語るジェイミーの姿を映して番組は終わります.

研究者はこうしてアイディアを生む

番組を通して,研究者の頭の中からアイディアが出てきて,それを磨いていく作業,Whyという問いを通して思考を深めていく様子にわくわくしました.こうやって新しい何かが生まれていくのか!面白そう!と思って,冒頭にも述べたように秋入学でCS系の研究室に入ることにしました.その後研究分野を暗号研究に定め今に至るのですが,そのあたりのことはまたいつか書こうと思います.

最後に

そんなジェイミーは今調べて見ると(HP),博士課程の途中で修士号を取得し,博士号取得前に研究室を去ったようでした.少なからず彼のメンタルの強さに影響を受け,こういう人が研究をしていったらどうなるんだろうと期待していたので少し残念ではありますが,退学後はアーティストとして活躍しているようで,やはり面白い人生を歩んでいるなあと思わずにはいられません.


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