二つの月を見た。【表参道街コンのミホちゃん】
ギリギリ選挙に行った帰り道、ふと空を見た。
弓張月の傍らに、・・・月?
いや、星?星にしては大きいな。やっぱり月と小さな月なのだ。
二つの月で、ピンときたのは、村上春樹の「1Q84」だ。
そうか、二つの月がある世界と仮定すると、ここは別の世界で、オレはふとした瞬間に迷い込んだのかもしれない。
じゃあ、おれにとっての青豆は誰だろう。
もう会えない人、強く心を動かされた人。
なんとなくミホちゃんのことが頭に浮かんだ。もう二度と会うことのないだろうミホちゃん。人生でトップクラスに可愛かったミホちゃん。
6年前以上のことなので、名前を出しても時効だろう笑
そもそも苗字を知らないし、どんな漢字でミホと書くかは知らない。それは美しい稲穂の穂かもしれないし、美しいのは海に映える帆かもしれない。当時の記憶をするすると手繰り寄せた。オーストラリアの穏やかな海の波打ち際みたいに。アーモンド小魚と、国産ニンジンを使ったジュースを流し入れながら。
ミホちゃんとの出会いは、初めて行った「表参道街コン」だった。
12月28日火曜日
会費7000円+クローク代500円(地味に嫌だな)
15人規模のやや小規模の街コンだ。
中学からの腐れ縁の友と参戦した。
世間は、まだ仕事モードでもあった。
・・・やれやれ。こんなに疲れるのか。初めて街コンに臨んだ感想だった。
5分話して、次のテーブルへ。同じ自己紹介を何度もする。
そこで、ひときわ目を引いて可愛かったのが、ミホちゃんだ。一目ぼれした。確か隣の子もすらっとしていてキレイ系だった。相棒も同じ気持ちだったのか、俺たちは、そこに全力を尽くした。
街コンがお開きになった瞬間、鎌田が、ミホちゃんグループに声をかけた。
「よかったらこの後新宿で飲みに行かない?」
ややしぶってはいたが、「まあ、いいですよ!」
しかし、入ったのは、いわゆるソフトぼったくり系の居酒屋で、
相場の+5000円くらいとられた。ぼったくり○ね!
家に帰って、さっそくミホちゃんに連絡をした。
1月中旬にご飯デートをすることになった。うれしくて舞い上がりそうだった。
12月31日。
特に理由もなく、近かったので鎌田の家に行った。
それとなく、あの後誰か誘ったのか聞くと、
「あー、ミホちゃんと1月2日に初もうでに行くけど?」
!?!?
何か負けた気がした。
初もうでだと!?!?
明らかに不機嫌になった俺に、鎌田は一言。
「その日、譲ってやるよ。」
!?!?!?
「だから、その日譲ってやるよ。おれが断って、お前がいけばいいじゃん。」
今考えたらめちゃくちゃな話だが、オレは鎌田を聖人だと思った。
そういうわけで、オレは1月2日にミホちゃんと初もうでデートすることが決まった。
デート当日
ちょうど29日に飲んでた大学のサークルの仲いい3人のグループが、今日のデートの服装チェックをしてやると言ってきた。
普通に灰色のジャケットで行こうとしたら、
「なんか安っぽい!」
そのあと、「バッグは持たない方がいい!」などと、いろいろご指摘(特に女子)が入り、キャメルのダッフルコート、黒スキニー、手ぶらで行くことになった。
待ち合わせの5分前につき、13時にミホちゃんが現れた。
「ごめん待った?・・・・なんで手ぶら?」
「あー、手が空いてた方がいいかと思って」
「・・・ふーん。」
この瞬間から、オレは一度もデートで手ぶらで行くことはなくなった。
原宿で、大学で仲良かった友達が教えてくれた「なんとかカフェ」に行く。
「わー探してくれてありがとね!うれしい!」
さがしてくれてありがとう。友よ。
そのあと、お目当ての明治神宮に行った。
めちゃくちゃ混んでた。でも楽しかった。
そのあと、なんか恋愛?で話題のおみくじがあるなんとか神社に行こうとなった。2kmあるのか。
なんかノリで歩くことになったのだが、俺のケータイの充電が途中で切れた。
その子に、グーグルマップをお願いすると、
「私、GPSが怖いの・・・」
理由は忘れた。なんか、偉い人にお金を借りてるとかなんとか?
「わたし貯金0円なんだよね!」
まあ、1年目だしそんなもんだと思った。
神社につく。
オレは大吉だった。その子は凶を引いた。めちゃくちゃ落ち込んでた。
新宿駅近くになって、映画でも見る?ってなったのだが、ふと明日3時起きで、中尾とむっちゃんと鎌田と、日の出を見に行くことを思い出した。
(夜中帰りの、朝3時起きはきついな・・・)
迷っていると、
「えー、行こうよー!」
ミホちゃんがコートの裾を引っ張ってくる。
オレは決断した。「ごめん、明日日の出見に行くから、今日は帰るわ。また今度いこ!」
「・・・うん、分かった。」
この決断がよかったのかは今でもわからない。一つ確かなのは、寝不足で運転に支障が出たか、寝坊して日の出に行けなかったことだろう。
何かを選ぶということは、何かを捨てなければならないのだ。
次の日、つまり1月3日、最高の日の出をミホちゃんに送ろう。と意気込んでいた。
ベストショット。
「見て、最高の日の出!今日もお仕事頑張ってね!」日の出の写真とともに、送った。
帰ってきたのは、スタンプ1こ。
当時のオレは、めちゃくちゃ落胆した。
しかし、今だからわかる。
仕事前に、楽しそうな写真送るな
その数日後、ミホちゃんを飲みに誘うと、
「ごめん、飲み会に行くお金がなくて・・・。」
そこは、じゃあおごるよ。というセリフが言えればどんなによかっただろうか。
しかし、バカで空気が読めない若かりしオレはこう言った。
じゃあ、ごはんに行こうよ。
当時の俺よ。
そういうことじゃない。
ごはんの方が確かに安上がりだ。
だが、違う違う、そうじゃ、そうじゃない。
そこから、音信不通になった。
めちゃくちゃショックだった。
なぜか、キレイ系の女の子とも連絡が取れなくなったそうだ。
回りくどい話をしたが、つまりミホちゃんは1Q84の世界にいるのだ。
もし、オレも1Q84の世界にいるのだとしたら、必ずミホちゃんを見つけ出せるだろう。
どうやって見つけるか。簡単だ。
ぼんやりと公園の滑り台から、月を見ている女の子がいたらきっとミホちゃんだ。彼女はまるでレンブラントが衣服のひだを描くときのように、注意深く月を眺めているだろう。
一つだけ確かなのは、
オレは頭がおかしくなっているということだ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?