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「離婚後の共同親権とは何か」読書会#6 レジュメ

【前回】

<参考文献>
小川富之「「共同」監護(親責任(分担)を採用している国の経験」梶村太市・長谷川京子・吉田容子編「離婚後の共同親権とは何か」(日本評論社、2019年)108頁以下

問題の所在

共同親権制の導入は、「父母の離婚等の後における子と父母との継続的な関係の維持等の促進に関する法律案」(親子断絶防止法)「子供の福利を確保増進する基本法案」の延長線上にある。

しかし、父母が協調・協力して子にかかわれる環境を整備することで、子の健全な生育につながる」法改正の議論と、「共同親権制を導入することでこれが実現できる」かどうかは別問題である。

多くの国で共同親権制(Joint Parental Authority)が採用されていると指摘されているが、正確には共同監護(Joint Custody)⇒分担親責任(Shared Parental Responsibility)へ変わり、最近では世話(Care)の概念が多く使われる。
日本でも共同養育は現行法上可能。
一方で、日本の単独親権制は、海外の専門家から一定程度の評価も。

オーストラリアの家族法改革

1.1975年法
12か月の別居継続で破綻推定⇒世界で最も徹底した破綻主義
連邦家庭裁判所の創設
家族問題研究所の設立
「欧米諸国の多くは、このオーストラリアの家族法改革ともいえる対応に対してた強い関心を示し、その後の改正も含めて多くの国が何らかの形でそれぞれの国の家族法に影響を受けてきている。」

2.1988年・1989年法
養育費の算定とその履行確保のための法律
養育費の登録と徴収法
子どもの独立代理人、レジストラー、カウンセラー等の専門家介入、家族関係支援センターの介入等の関係整備

3.1995年法
監護・後見⇒親責任へ

4.2006年法
片親疎外症候群(PAS)の観点から、父母が均等に子にかかわることを重視
父権団体の積極的なロビーイングによって実現
しかし、児童虐待やDVに深刻な問題

5.2011年法
ファミリーバイオレンス、児童虐待の定義拡大
子どもの保護を父母の有益な関係構築より優先
ファミリーバイオレンス、児童虐待の申立てへの迅速な対応
子どもの意見聴取
フレンドリーペアレントルールの廃止

6.2019年報告書
オーストラリア法改正委員会は、「将来に向けての家族法(家族法制度の調査)」と題する最終レポートを公表し、子の最善の利益の内容として、虐待やネグレクト、家族暴力から子を保護することが最も重要な事項であることが一層強調され、また、これら家族法にかかわる諸問題、児童保護に関する問題、そして家庭内暴力ないし家族暴力が絡む問題に対して、裁判所による総合的、効果的な対応を促進するため、1975年連邦家族法により創設された第一審の連邦家庭裁判所を廃止、すべての州ないし準州にそれぞれの家庭裁判所を創設して同裁判所に解決をゆだねるべきとの勧告が示されている。(小川富之「戸籍事務関係者のための家事事件概説・アラカルト 第2回 共同親権制の議論について ①欧米諸国の多くでは共同親権制は採用されているか?」戸籍第983号・25-26頁)

【参考記事】

"欧米の共同親権制"は何をイメージしているのか?

198年代にアメリカの一部の州で採用された「共同監護」
欧米諸国で採用されていくように
⇒肯定的研究が多い

法改正から生じた諸問題

(イギリス)
均等に養育にかかわっている割合はわずか3%程度

(オーストラリア)
子の養育に関する争いが激化
高葛藤ほど「均等養育」の要求が強い
全体として大きな変化が生じていない
2006年改正前は、円満な話し合いで解決がされていたが、「均等養育」の認識が、父母間の紛争性を高めた
フレンドリーペアレントルールによる加害親からの危険
養育費の減額
転居制限による拘束性

日本における共同養育の実現に向けて必要なこと

・ 欧米は本当に「共同親権制」なのか?
・ 父母の適切なかかわりのための法整備
・ 現行法での共同養育の解釈論の整備

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【分野】経済・金融、憲法、労働、家族、歴史認識、法哲学など。著名な判例、標準的な学説等に基づき、信頼性の高い記事を執筆します。