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foresDiary:誰が為のおしゃれ

2022/10/03

 濃緑のビジョップスリーブに、申し訳程度にベルトを添えたパンツ、カサカサと耳元で音が鳴るイヤリング。着たことのない服やアクセサリーを身に付けるといつもよりもましてテンションとやる気が上がる。自分のためでもあるけど、気になる人───異動前の先輩の存在を意識してからは世間一般でいうおしゃれをし始めた気がする。服を新調し、しっかりメイクをし、眼鏡からコンタクトに変える。印象がガラリと変わると周りも驚いてくれて嬉しかった。でも肝心の先輩には今まで何も言われてこなかった。

 この日はいつもより1時間早い出勤。たかが1時間、という人もいるだろうがこれが私にとってはつらいことだらけで、人は多いし外はガヤガヤうるさいし行くだけで疲れる。でも大事な仕事のためにこの日だけは身を粉にした。

 職場に着く。「先輩が話しかけてくれない」「つらい」なんてことは考えないようにした。というか考える前に目の前には山積みの仕事。片付けるのに精一杯なのである。精神科でもらった薬を口に放り込んで体内で溶かす。しばらくすると仕事にしか集中しない機械になる。過集中───そんな油断が禁物だったとのちに後悔する。

 私を呼ぶ声がして振り向くと先輩だった。いつも通り顔は見られないままだが3週間ぶりに隣にいる現実が飲み込めなくて思考停止。ボーっとしていると先輩は驚いた声で「なんか今日めちゃくちゃおしゃれじゃないですか!」なんてことを言う。周りがその大きい声にビックリして私を見てきてじわじわと恥ずかしくなった。しかし今まで頑張って来たおしゃれをようやくはじめて褒められたことにより内心嬉しくなっていた自分もいて、感情がグルグル混ざる。その感情を押し殺すかのように平然を装う。でも結局は「ありがとうございます」で終わってしまう。上手い返し方って何があるのだろうか。

 どうやら先週頼んだ封筒が届いたけどどうするかという話だったので、元配送課(異動前の課)の権限を活かして倉庫に置いてもらうことにした。まぁ権限というより先輩にかなり気に入られているからできることだと自負しているけども。

 たった数分の出来事だったけど、鬱状態がスッ…と消えていった。なんてことだ。同時に明後日に迫る誕生日にちゃんとプレゼントを渡せるかも不安になった。メルカリ大ベテランの先輩からしてみたら梱包なんてめちゃくちゃだしそこでマイナスポイント付けられたらもう立ち直れない。でもそこが私の味でもある。丁寧じゃないことも知ってるのにお話してくれるじゃない。でも他の人にもそうしているかも…いや、考えすぎか。

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