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『スモールビジネスの教科書』 (武田所長著)

戦略系コンサルティングファームから独立後、20以上のスモールビジネスを展開し、それぞれ売上数百万~数十億を実現している武田所長氏による著書。著者は、トレンディ・ハイリスクなベンチャー投資ではなく、「安定・着実」に売上100億円程度を目指すスモールビジネスを推奨し、スモールビジネスの事例や手法を紹介している。

著者はスモールビジネスの魅力を、ベンチャービジネスとの対比で次のように述べている。

外部の株主もおらず、成長の義務も売却の義務も背負っていない。
自分の生き方を高い自由度を持って選ぶことが出来るのだ。

100%自己資本なのか、外部資本を入れるのかは相当に大きな違いを生む。スモールビジネスで得られる自由度は外部資本が入った瞬間になくなるものも多い。常に説明、説明、説明となるのだ。
企業価値というのは1つの評価数値であるが、要するにこれは、投資家にどう思われているのかという数値である。投資家からは永久の成長を求められ、常に現場との軋轢に悩む。これに対してどの程度の犠牲を払う価値があるのか。

IPOを目指すようなベンチャービジネスは、ベンチャーキャピタルなど外部投資家からのプレッシャーや説明責任にさらされ、かつ、永久的な成長を要求される。一方、スモールビジネスは自分の資金の範囲内で、全てを自分でコントロールしながら、自由度の高いビジネスをすることができる。

本書には、スモールビジネスを成功させる考え方や手法が紹介されているが、著者の主張は気持ちの良いほど潔いものである。

著者はスモールビジネスには、ベンチャー界隈でよく言われている「イノベーション」や「差別化」は不要であると唱える。

スモールビジネスでは革新的なビジネスモデルなんて求めないし、特殊な技術も必要としない。十分に他社が努力し実証したビジネスモデルにコンテンツを付与し、美味しい顧客セグメントに当てはめるだけである。
差別化、明確な強み、これはあるに越したことはないが世の中で売れている製品を見てみよう。差別化という観点でクリアに語れるものはどの程度あるか。何故その商品を選んだのか聞かれた顧客は、差別化という観点でどの程度語れるのか。「偶然紹介されて……」「最初に見つけたから……」「営業の寄り添い具合が違った……」そんな言葉が返ってくるだろう。(中略)そんなもので数十億円の売上には至るものなのだ。
新たなビジネスモデルの第一発見者でありたい、その手法で成功したいと願うのはビジネスの成功を妨げる。成功例をマイナーチェンジさせるという考えに徹しなさい!


著書は、スモールビジネスの根源的な強さについて、「ステイスモール」を意思決定している点にあるという。

スモールビジネスの根源的な強さは「ステイスモール」を意思決定している点にある。ステイスモールを意思決定しているからこそ、弱いプレイヤーしかいない小さな市場を全力で叩きにいけるのだ。ベンチャービジネスはスケーラビリティの追求がないと投資を正当化出来ないため、この勝負は出来ない。構造上そこはスモールビジネスの独壇場となるのだ。
スモールビジネスは強い!大手や成長を目指すベンチャーには取ることが出来ない戦略を、積極的に取ることが出来るからである。スモールビジネスが対象とする市場には、大企業やベンチャーが参入したいと考えるような規模がない。本気でビジネスに取り組む人の密度は極めて薄い状態にあるのだ。


本書には、スモールビジネスの様々な武器が紹介されているが、その1つが「属人性」であるという。

基本的にスモールビジネスの武器は「自分」である。特に、スモールビジネス立ち上げ初期は属人性で戦うことを基本とする。属人性はスモールビジネスの参入戦略として最高である。仕組みとして大手企業に立ち向かうことはほぼ不可能であるが、属人的な各個撃破であれば十分可能なのである。
属人性のある戦略は大手企業にしてもベンチャー企業にしても、スケーラビリティを追求しなければならないという観点から歓迎されない。スモールビジネスの場合は逆である。属人性の存在はスモールビジネスを成立させる素晴らしい条件なのだ。
過去実績がさらに実績作りの機会を呼び、特定の実績が雪だるま式に膨らんでいく。膨らんだ過去実績は様々な市場への展開チャンスを与えてくれる。これがスモールビジネスを牽引する個人として、意識すべき基本動作である。


上記以外にも、本書にはスモールビジネスを成功に導くための考え方が多数紹介されている。本記事の最後に、著者のスモールビジネスに向き合う姿勢についてのメッセージを紹介する。スモールビジネスは、Amazon、Google、Teslaなどに通じるメガベンチャーのような華やかさやメディアからの称賛があるものではないが、当たり前の仕事を当たり前にする誠実さが成功につながる地に足のついたビジネスである。

これについては「誠実に商売に向き合う誇り高いスモールビジネスオーナーと見られたい」というふうに考え直して欲しい。イノベーティブ、リスクテイク、リーダー、そんなキーワードからは選択的に離れるべきなのだ。「自分は普通に求められているものを普通に納品する」これでよい。当たり前と言われることが出来れば実は世の中の上位0・1%くらいにはなれる。いや、さらに上位かもしれない。スモールビジネスの運営にイノベーティブやリスクテイクなど全く必要ないのだ。普通に努力して欲しい。

スモールビジネスを成功させ、自由で平穏な生活を送りたい方には必読の書である。

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