【小説】バベルの塔 三話

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 ウインドウを閉じて(目を背けるとも言う)、改めて見渡すと、街並みが綺麗だ。
 俺と同様に、ウインドウをとじて天を仰ぐ人もいれば、淡々と確認しているもの、おっしゃあ!と言ってるものもいる。

 喜んでいるのは、きっと職業と性質が合っていたり、スキルが良かったりするのだろう。

 でも、妬ましくなんかはないはずだ。

 今後の成長方針により、いくらでもピーキーに出来るし、堅実に行くこともできる。

 性質とスキルの組み合わせ、相性や状況次第で、能力値やレベルだけでは測りきれない不確定要素が多く、ある意味不平等で、ある意味平等に誰しも主人公となる機会がある。

 それが、言語を集めて頂を目指す、この世界のコンセプトでもある。

 とまぁ、提供側としての説明はできるわけだ。


 しかし、ログインした身からするとーーーーーー

 それはわかってるんだよ!
 でもな、違うんだって!

 と言いたい、というか言おう。

 平等ではないものの、性質もスキルもその特徴はあれ、自分に合って使えるものなのだろう。
 ただ、それが機能的に使えるかどうかより、どんな意味かの方が心にくるんだよ。


 
 とはいえ、グズグズしている暇もない。気をとり直して、もう一度見てみよう。

 属性:闇
 性質:臆病者・優柔不断・裏方
 技能:索敵(サーチ)・盗む・マッピング・幸運(ラック)・闇系モンスター捕獲(テイム)率アップ・闇魔法適正(中)・危機察知(小)・睡眠耐性・空腹耐性・恐怖耐性・精神力補正(中)・体力補正(中)
  ―2/2―


 まず、属性から。属性は、基本『火・水・地・風・光・闇・無』の7種類で設定されている。


 何らかの条件を満たすと、『炎』だとか『氷』などに変化することがあるらしいが、それは俺の担当ではなかったので詳しい仕様は覚えていない。わかっているのは、誰もが知っていること。

 属性としては、自分の属性のみ使うことができるというわけではない。ただし、その属性が最も得意となることは間違いない。
 簡単に言うと、属性には相性があり、自分の属性に近いほど、その属性の魔法やスキル、道具を使う際の効果減少率が低い。

 闇 ⇄ 光
 水 ⇄ 火
 地 ⇄ 風

 自分の属性の闇、として考えると、闇属性は効果は減少する事なく扱え、水属性と地属性については8割の威力(2割減)となる。
 少し遠い、火と風については5割の威力(5割減)となり、光に至っては2割(8割減)のなる。また、道具については光に特化したものは使えない。

 つまり俺は、光属性については、特殊ではない道具がなんとか使えるが、魔法やスキルは覚えると効率が悪くなり、闇系の魔法やスキルに特化する方が威力面のみでいうと効率が良いと言うことだ。

 これは、ウインドウの属性を更に押下することで見ることができる。

 (しかし、『闇』か……まぁありだな、盗賊(シーフ)だし、その上級職には暗殺者(アサシン)とかもあるはずだし、悪くないな。元々夜型人間で暗いほうが落ち着くしな)
 この点については頷く俺。

 

 さて、問題の性質......を開く前に、スキルや見てみよう。ウインドウを操作すると、内容が見える。とはいえ、名前でわかるものばかりではある。

 索敵、盗む、マッピング、幸運までは、まぁ職業と属性からのシステムスキルの様だ。テイムについてはわからないが、ランダムだろう。
 テイマーという職業が無いのだが、その分誰しもモンスターをテイムして仲間にすることはできる。低確率だが。

 人と組んだ方ができることは増えるものの、ソロでも成長のビルド次第では十分やっていけるし、相性の良い相手をテイムできればその夢も広がる。

 最後の方は、おそらくリアルスキルだと思う。というか耐性系は絶対にそうだ、心当たりがありすぎる。
 また、闇魔法について、そう思う理由は存在する。

 例えば、剣道の達人や、弓道の達人はそれぞれ、片手剣だったり両手剣だったり、弓だったりのスキルがつくはずだ。
 他にも、話術だったり、職人系のスキルもそうだし、通訳であれば、解放される前からの言語学スキルなどもある。

 このシステムは、公式にも例として載っていた。ここで、少し疑問に思い想定していた事がある。

 この世界に存在しないであろう技術に対してのリアルスキルは何なのだろうかと。
 それは、PC関連。ソフトであれ、ハードであれ、その技術を持っている人間はたくさんいるはずで、むしろ経営側からすると、顧客対象としてはその業界の方が多いはず。

 そして、都合よく現実にはない技術がこの世界にはある。
 魔法だ。ある意味VRの世界は情報の密度という意味だと現実世界より緩い。

 0と1で作られている世界だからこそ、アクセスする言語さえあれば、『光あれ』で光は出せるし、『炎よ』で炎を出せるわけだ。
 つまり、この世界を形作るための技術を持ったものこそ、魔法使いと呼んでも差し支えないはず。

 という妄想なわけだが、外れてはいないと思っている。
 もしかすると、現実でも聖書などの海が割れたとかいうあり得ないだろ偉人系は、現実世界を改変する言語を持ったいたのかも、と浪漫も捗るわけだ。

 さて、とうとう語り尽くして性質にきたわけだが。そうはいっても、性質についてな能力値などはあまり説明はできない。


 何故かというと、この辺のパラメータ設定は、基本的なルールを作り、ネット上の人間を表す言葉を抽出、意味付けをし、パラメータに反映しているからだ。
 それが全員に対して数えきれないパラメータとテストをもってして実行出来るのも、世界最高峰の演算能力と思考能力を持つ『アル』がいるからこそである。

 公式には、この世界に生まれ落ちたすべての人に存在する、その人間を表す三つの単語。

 それが、性質であるとされている。


 つまり、人を表す単語として、すぐに思いつくところでは『勇敢』や『豪胆』等、色々あるわけだ。人に対して、思いつく言葉なんてたくさんあるだろう。

 
 それが、『臆病者』って……いや間違ってはいないが、うん、そりゃあね、自分からやばいものには関わらない、長いものには巻かれますよ俺は。
 効果は、索敵範囲大幅アップ・逃走時速度大幅アップ・罠感知大か。

 ............使えるな。喜べないが、盗賊というスキル、闇という属性にかなりのシナジーがありそうだ。



 『優柔不断』も、性格としては、確かにと肯けてしまう。勢いで行動してしまうことも多いが、時間が与えられると悩みに悩んだ末に結局コインとかで決めてしまう。
 効果は、柔術効果大・斬撃系耐性大。

 ……っていうか、これ言葉の意味関係なくないか!? いや、漢字は間違ってはいないのだが、誰がうまいこと言えと? 
 むしろ、こういうパターンもあるのか。
 そして、この耐性はでかい。

 『裏方』……これは、性質なのか? 
 あれか、俺はAIに見破られるほど裏方オーラが出てるのか? ……そうですよね、すみません。
 効果は、パーティメンバーへのアイテム使用効果アップ・補助呪文効果継続・隠密効果大幅アップ・モンスター遭遇率軽減。
 
 ……あぁ、裏方だ、特に最後二つが存在感無いって言われてるみたいで哀しい。
 確かに主役ではないですけど、高校の時の文化祭の催し物では照明補佐でしたけども。

 しかし、全て強力だ。
 心をえぐりながらも納得させ、そしてメリットも大きい。

 これなら、レベル差があっても、気づかれず近寄って音もなく仕事をこなす理想の形が体現できるかも。

 
 
 …………それにしても、『アル』の作った性格テストはどれだけの精度なのだろう、他の人も気になってきた。哀しいが、俺を表す3つの単語としては的確すぎる。


 でも、きっと的確すぎるのは良くないだろう、そうに違いない。うん。
 戻ったら問題点(タスク)リストに上げておくこととしよう。例えすぐ消されたとしても。
 
 
 俺はその時そう固く決意をした。
 結果的にそんな余裕はなくなったわけだが。

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