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#7 突然の倒産から学んだ「責任」の重さ。伊藤章さんが伝える「便利な世の中において、疲弊しないためのセルフマネジメント」

for 20's第7回目のインタビューのお相手は、NPO法人国際ボランティア学生協会IVUSA理事の伊藤章さんです!IVUSAでは、組織管理全般およびフィリピンでの環境保全や減災教育、海ごみ問題対策キャンペーンなどの事業を担当されています。

そんな伊藤さんに、20代の羅針盤となるような経験談やマインドセットを聞いてきました。

【伊藤章さん】
愛知県出身。京都大学卒。地域でのボランティア活動と教育機関での学習とを結びつけた「サービス・ラーニング」のプログラム開発や普及にかかわる。IVUSAでは、組織管理全般およびフィリピンでの環境保全や減災教育、海ごみ問題対策キャンペーンなどの事業を担当。学生が社会課題を理解するためのワークショップや研修なども実施している。


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<聞き手・ライター:桝井孝一・金子圭介>



1. 20代前半の経歴

農学部を卒業後、文学部へ


for20's第8回目の取材のお相手はNPO法人国際ボランティア学生協会IVUSA理事の伊藤章さんです!本日はどうぞよろしくお願いします!(インタビュワー・桝井)

ありがとうございます!よろしくお願いします!(伊藤章さん)

早速ですが伊藤さんは20代前半の頃どのように過ごされていましたか?

20代の前半は大学生活が中心になります。砂漠化防止や植林に関して興味があり、京都大学の農学部林学科に在籍し、林業全般について学んでいました。ですが、学んでいく中で自分がやりたいこととは違うなと感じ、卒業後に3年生から入り直す形で、文学部哲学科に所属し、宗教学を専攻していました。

大学を入り直されたんですね!また、農学部から文学部に行かれたとのことで、何かきっかけがあったんですか?

これまで高校時代からずっと理系だったこともあり、文系に関して興味がありました。そこで、どうせ入るなら文系色の強い文学部が良いなといった理由です。ですが、大学の授業にたくさん出るというよりは、独学で学んでいったことの方が多かった気がします。卒論についてもそこまで厳しくなかったので、自分で論文を書き、口頭試問で質問に回答する形で終わりましたね。

大学には属していたものの、ご自身で学びたいこと、興味のあることを追求されていたんですね。

2. 20代後半の経歴

関東への進出間際、突然の倒産


その後大学を卒業され、20代後半はどのように過ごされていましたか?

特に就職活動を行なっていたわけではないのですが、知り合いに誘われて社員数5名ほどの中小企業に入社しました。今でいうとベンチャー企業ですね。業務内容は簡単に言うと何でも屋のような形だったのですが、メインの事業としては大学生向けのマーケティングや商品開発を行なっていました。なので、大学生が今どんなことを考えて、どんなことにニーズがあるのかを文献やデータから調べていました。実際に街中で学生に声をかけて、グループインタビューをしたこともあります。また、大学生向けの企業のイベントがある時にお手伝いに行ったりしていました。

大学生向けの業態の企業に入社されたんですね。お知り合いの方に誘われた際、決め手などあったのでしょうか?

決め手というよりは、就職活動において、履歴書を書いて、面談で品定めされるといったプロセスがあまり好きではなかったというところが大きいのかもしれません。なので、学生時代にアルバイトで関わっていたその会社に入社した、という流れになります。今でいうと、インターン先の企業に入社するような形ですね。ただ先述の通り、規模の小さい会社だったので、特に社員教育のようなものはなく、見様見真似で業務に取り組んでいました。

学生時代に独学で勉強されていたところと近しい形ですね。

そうですね。また、当時の1990年代後半は、若者の凶悪犯罪が多く発生したこともあり、大学生の実態調査自体は結構ニーズがありました。そのため、関西だけではなく関東にも支店を出すことになり、私も一人で関東に引っ越して、お客さんを開拓していました。その他にもいろいろ準備しているときに、会社が潰れてしまったんです。

そんなに急展開で倒産されたんですか!事前に何か知らされたりしなかったんですか?

何もなかったですね。なので原体験として、組織に頼ってはいけないなと身に染みて感じましたね。そこから、人を雇うことの難しさは感じるようになりました。その後は、知り合いが所属している、文部科学省系の財団法人に転職しました。

3.大切にしている価値観や考え方

組織に頼らず、自分で責任を持つ


伊藤さんの中で、大切にしている価値観や考え方はありますか?

あまりポジティブな表現ではないのかもしれませんが、"人は独りなんだ"ということですね。自分に責任を持つのは自分しかいないんだというところは考えています。私は29歳で子供が生まれたのですが、本質的にいうと、家族くらいしか人の責任は持てないのかなと思います。なので、私の体験からもあるのですが、組織に頼ることは避けた方が良いと考えています。

人の責任を負うことは大変なことですもんね。おっしゃる通り、家族はまた違った存在ですが、仕事において人を雇うことに伴う責任は計り知れないと思います。

4.困難な壁にあたったときの対処法

俯瞰して物事を見る


困難な壁にあたったとき、伊藤さんはどのようにそれを乗り越えられてきましたか?

あまり乗り越えていくという感覚はないかもしれません。例えば所属していた会社が倒産した時も、自分が手掛けていたプロジェクトが白紙になっても、そこまで大きい問題だという感覚がなかったのかもしれません。私が受験勉強を行なっていたタイミングで、ベルリンの壁が崩壊するなど、世の中で大きな出来事がたくさんあったので、それと比べたら大したことではないな、といった感覚を持ち合わせていたのかもしれません。

そういったマインドを持ち合わせていたからこそ、何かが自分の身の回りで起きた時も、乗り越えるというよりはどこか俯瞰して見ることができるのかもしれないですね。

「そういうことも起きるよね」といった感覚に近いと思います。もちろん挫折もたくさん経験してきましたが、それによって何か自分の中で変わるようなことはなかったですね。1992年のリオデジャネイロ地球サミットの際のスピーチなど聞いて、感銘を受け、自分の中で盛り上がっても、どこか自分の中で一時的な盛り上がりなんだろうなという感覚を持ち合わせていましたね。

5.もし今20代に戻れるなら

なるようにしかならない


中村さんがもし今「20代に戻れる」なら何をしたいですか?

あまり戻りたいと思わないですね。今の知識やスキルを持って20代に戻ったとしても、50代になって好転している未来が見えないと思います。なるようにしかならないから仕方ないなと思いますね。

6.今の20代のメリット

希少価値が高い=社会的ニーズが高い


伊藤さんが思う「今の20代のメリット」ってなんだと思いますか?

純粋に、一人一人の希少価値が高いことではないでしょうか。私は1972年生まれなので、人口が1世代に220万人ほどいたのですが、いわゆる就職氷河期の時代で、就職浪人をしている方もいました。今は1世代70万人ほどで、多くの企業が人手不足に嘆いていることから、社会的なニーズが高いので、仕事選びに関しては不自由なくできるのではないかと思います。また転職をはじめとしたキャリア形成も非常に自由な時代になってきていますよね。

今は転職が当たり前の時代になりましたもんね。一昔前までは終身雇用の時代だったと思います。

終身雇用を前提としていたので、ネガティブな転職がほとんどでしたね。また、バブル時代に入社した方と比較した際に、先輩方が受けている恩恵を、なぜ3年ほど学年がずれただけで受けられないのか、といった疎外感を感じることも多かったです。今では考えられない話ですけどね。そういった意味では、その辺りの重荷がないのはメリットではないかなと思います。

今は会社に属するだけではなく、フリーランスなど自由な働き方ができますし、副業も可能な会社も増えてきていますもんね。

7.今の20代のデメリット

結婚へのハードルの高さと人生の選択肢のバランス


逆に伊藤さんが思う「今の20代のデメリット」ってなんだと思いますか?

先ほど人口ボリュームが少なくなっているとお伝えしましたが、そことちょっと重なるところなのですが、結婚に対するハードルがとても上がっているなと感じます。昔に比べて、"最低限子供たちにここまでのことをしなければならない"といった、要求される基準がかなり上がっているように感じます。なので、親になることはすごく大変なんじゃないですかね。

僕も20代なので気持ちがわかるのですが、会社という組織への所属の仕方も含めて、強烈なしがらみを避ける傾向にある若者は多いと感じます。

自由な働き方や自己実現、女性のキャリア形成など、目標を持って取り組んでいる中、家族を持つと最優先させることが家族に変わるので、選択肢は減ると思います。そうしたときに自分のやりたいことと天秤にかけた際、結婚のハードルも上がっていることから、難しいと考える方も出てくるのではないかなと思います。また、出会いの選択肢としてマッチングアプリが一般的になったことや、SNS時代とも言われてますけど、テクノロジーの発達でコミュニケーションの形式が変わり、疲弊する機会も増えたのではないかなと思うんですよね。

確かに便利な時代にはなっているものの、苦労のレイヤーが上がったというか、恵まれているのかというとわからない部分ですね。

今は働こうと思えば働ける環境にあるし、生きていくことには困らないと思うんです。ですが、20代はアイデンティティの交換や、承認欲求などもあるので、他人との比較に敏感になる時期だと思うんですね。そうした繊細な時期に、センシティブさを助長する装置がたくさんあるというところは大変だろうな、と率直に感じます。

8.20代にご自身が影響を受けた人やモノ・コト

共感疲れを避けるため、自分自身をマネジメントする


いよいよ最後の質問なのですが、20代にご自身が影響を受けた人やモノ・コトなどありますか?

大学で宗教学の授業の際、仏教を勉強していたのですが、そこで受けた授業が印象的でした。例えば映画を見ている時、登場人物に感情移入することがあると思います。でも、仏教に限らず東洋思想の真髄もそうなのですが、それはあくまで"映画の登場人物と自己を同一視して同調しているだけであり、自分には関係ない話だから同一視してはいけない "ということがわからないと、苦しみから逃れられないといった講義を受けました。その時は腑にイマイチ腑に落ちなかったのですが、その後段々と腑に落ちるようになりましたね。

確かに、私も経験があります。20代だと、何が正解か自分で判断がつきづらいこともありますもんね。

そういったこともあり、先ほどの話にも繋がってくるのですが、同調しないことが大切だと思います。わからないときは何かに頼りたくなると思うんですが、それが今はスマホで簡単にできてしまうと思うんです。私は同調しやすいタイプだったので、社会で苦しんでいる人に対して過度に同調して、正義感のもと行動していたこともあったのですが、それに対する反省もありました。共感すること自体は良い事のように語られることもあると思うのですが、本当にいいことなのか。共感することに対して、それを断ち切らないと苦しみからは逃れられないということですね。

それこそ、今は「共感の時代」ですもんね。マーケティングをはじめ、それがビジネスになっているところもあると思います。

その辺に共感することは人間にとっていいことである反面、過度に考えが引っ張られることで、共感疲れのような状況になると思います。うまく自分でマネジメントしていくことが大切だと思いますね。

学生時代のお話からベンチャー企業での経験、2アドバイスやマインドセットなど、20代にとって勉強になる情報をいくつも教えてくれた伊藤さん。

個人的には、「テクノロジーの発達により、疲弊する機会が増えた」と言う言葉に、深く納得しました。今はSNS等が発達したことにより、情報が手軽に手に入る時代になりましたが、うまく自分自身をマネジメントして向き合う必要があると再認識しました。


〈取材・文・編集・写真=桝井孝一・金子圭介〉

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