海のボールパーソンとお話してきた。
※この記事は2017年8月に、当時私が運営していたブログにアップしたものです。現在、レンタルサーバーの契約が満了となり、見ることができない状態となっているため、noteに再掲することにしました。
ギラヴァンツ北九州は今年、ミクニワールドスタジアム開業以来、初めてJ2の舞台を戦うことになりました。これまで以上に、ミクスタを訪れる方々がホーム・ビジター共に増えると思います。この機会に是非ご覧いただき、素敵な裏方の存在を知っていただけたらと思います。
※記事の内容は、2017年取材時点のものになります。現在と異なる点があるかもしれませんが、予めご容赦ください。
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2017年、北九州に多くのサッカーファンの心を躍らせる、素敵なスタジアムが誕生しました。同時に、ここでしか考えられないある「スタッフ」も登場しました。
彼の名は「海のボールパーソン」
今回、8月26日の「ギラフェス」と銘打ったFC琉球戦の前に、北九州市漁業協同組合長浜支所を訪問しました。その時のお話がとても面白かったので、少し長くなりますが会話形式のままご紹介します。
【登場人物】
・Nさん弟(以下N弟)…前週の試合で史上2回目の海ポチャボールを回収した漁師さん。これまでも何度か出動されている。
・Nさん兄(以下N兄)…この日、初めて海のボールパーソンに挑戦する漁師さん。めちゃくちゃ気さくで、面白い方。
・Kさん…組合長さん。海のボールパーソンに関する取材は悉く断っていたのに、何故か素人である私の依頼だけOKを出してくださった、神のような方。
・Yさん…当日偶然いらっしゃった、同僚の漁師さん。
・footysab(以下F)…私です。
F「早速ですが、みなさんは以前からギラヴァンツ北九州というサッカークラブをご存知でしたか?」
一同「うん、知っとったよ。」
F「試合を観に行ったことはありますか?」
Y「自分はまだ本城で試合をやっていた頃、まだJ2の時に2回くらい行ったかな。地域で応援してくださいって声かけがあって、招待券もらってね。」
N弟「俺らは観に行ったことないなあ。」
F「普段からサッカーと深く関わっていたわけではないんですね。漁師の仕事をされていて、海のボール拾いなんてまず考えられなかったと思いますが、このお話をもらった時どう感じましたか?」
一同「どうって、ねえ(笑)」
F「土日まで駆り出されて、面倒くさいなとか感じませんでしたか?」
N兄「いやいや、それは全然ないよ。」
K「強制じゃないし、行きたくない人は手を挙げなきゃいいだけの話やしな。」
F「みなさんのおかげで試合運営ができるので、感謝している人も多いと思いますよ。ところで、試合当日はどのような流れで準備していますか?」
N弟「船を出す前にエンジンとか、動作をチェックするね。」
N兄「俺もさっきキミが来る前に確認したよ。」
N弟「18時からの試合だと、大体16時半くらいには船を出すよ。お客さん入れる時間によって変わることもあるみたいだけど。」
(この日のボールパーソン、優漁丸は16時半ぴったりに長浜支所を出発していました。)
F「そうなんですか。自分、6月にもミクスタに試合観に来ていて、たしかその時は第5秀丸…」
N弟「あれ俺の船や!あの紹介の時な、カメラでズームされてたのに、アナウンス聞こえなくて手を振れなかったんや。本当は何かしなきゃいけなかったのに(笑)」
F「えー(笑)あの試合で船を見ていて気になったんですけど、ポジションを探るかのような動きがあった気がします。船内で試合映像見ながら動かしたりしているんでしょうか?」
K「あんなん、ただ風に流されているだけやないの?」
N弟「風で流れてるだけや(笑) 映像も見てないよ。試合中はスタジアムの隙間からギラヴァンツの応援団が見えるところにいることが多いね。そこにいれば、大体どこにボールが落ちてもわかるし。」
N兄「(今日初めてだから)ちょっと後で指示してくれ(笑) どの辺おったらええか、全然わからん(笑)」
(南側のスタンドの近くに位置取り、北の方を見ているそうです。)
F「隙間からサポーターは見えても、試合内容は見えないですよね」
N弟「試合は見えないね。電光掲示板が見えるから、良いシーンは見えるけど。あと高く上がったボールは意外と見えてるよ。」
F「試合中に気を付けていることってありますか?」
N弟「試合中はボールが見える位置におらんといけんし。あとスタンド下の通路を行ったり来たりしてるお客さんにも結構気を遣うよね。」
N兄「あそこは柵が低いし頑丈やないからな。俺も多分ボールより観客の方に気を使うわ。子供も多いしな。」
(海はよく見えますが、子供でも乗り越えられそうな簡易的な柵。海のボールパーソンは観客の安全も気にしています。)
F「先週、ナイトゲームで実際にボールを取った時のことですが、ボールがヒュッとスタンドから飛んで来てもわかるんですね。」
N弟「わかるわかる。一応チームから連絡来るし、無くても歓声でわかる。試合の歓声と明らかに違う。ワー!の質が違うからね。」
N兄「うわー!それめっちゃプレッシャーやん(笑)」
Y「へえ〜。海に出る〜って感じのボールだと歓声でわかるもんなのな。」
N兄「俺がそれをボレーシュートでスタジアムに返す…」
Y「できるか!(爆笑)」
N兄「この船長うまっ!ギラヴァンツの選手よりうまっ!みたいな(笑)」
Y「そういや、1試合で3球外に出たら1つ貰えるって噂もあるけどホントなん?」
N弟「ん?わからん。」
F「そんな噂まであるんですね(笑)」
※真相は定かではありません。
(長浜支所からミクスタまでは目と鼻の先の距離です。)
F「そうだ、せっかく漁師さんにお話を伺える貴重な機会なので、お魚の話を聞きたいです。ここではどんな魚を捕れますか?」
N兄「いろいろ獲れるよ(笑) 年間通して。」
F「有名なお魚とかあります?」
N弟「そりゃたこだね、関門海峡たこ。あれはブランドものだからね。」
(漁協の敷地にも張り出されている看板商品、関門海峡たこ。潮の流れが速い関門海峡では、身が締まって育つので美味しいそう。)
Y「今日は朝市やっとんたんよ。」
F「え〜そうなんですか。もっと早く来ればよかった…」
※長浜支所さんでは毎月第2、第4土曜日に朝市を開催しているそうです。
N弟「でも、スタジアムでここ(長浜支所)の人がたこめしとか売っとるよ。」
F「え!ホントですか!」
(豊栄のたこめし(500円)関門海峡たこの歯ごたえはもちろん、たこと一緒に炊かれたごはんはほんのり海の香りがして美味しかったです。)
N弟「あと、たこカツバーガーとか。」
F「!!!」
N兄「たこカツバーガー?あいつそんなん作ったんか。一個食ってみたいな。」
F「ここ長浜支所さんで獲れたたこが、スタジアムで味わえるってことですね!!!」
(関門海峡たこを使用した、たこカツバーガー(400円)サクサクの衣と中の歯ごたえあるたこのハーモニーが絶妙な逸品。)
N兄「関門海峡たこ、NHKにも取り上げられとったしな。ただし売り切れ御免や。」
N弟「数もたくさん作れんしな。」
(おもむろに電話を取り出し、製造者に本日の在庫を確認するKさん)
N兄「いやあ、たこカツバーガー食ってみたいな。モスバーガーで出したらいいのにね(笑)」
K「おう、1つずつ取り置きしてもらったから、後でこの名刺持っていきな!」
F「ありがとうございます!!!」
(たこめし、たこカツバーガーはスタジアム内コンコースの売店で販売されています。海のボールパーソンの「本業」を垣間見ることができます。)
F「海のボールパーソンを始められてから、全国での反応がすごいですが、どう感じてますか?」
N兄「ってかそんなすごいん?」
F「いやあ、すごい反響ですよ。」
Y「あんなんに興味があるんやね。」
F「サッカー好きって結構感性豊かなんです(笑)」
N弟「ガチで変なことしちょったら炎上するけんね。」
N兄「カメラでアップになった時にお尻なんて出そうものなら・・・」
F「絶対炎上するんでやめてください(笑) みんな写真撮りますから。」
N弟「みんなスタンドからよう手を振ってくるけんね、あんまり知らん顔してると多分叩かれよる(笑)」
N兄「そっかあ、どうしたらいい?こんな汚れた作業着じゃダメだね?」
※出勤時はきれい目な、チェックのシャツに着替えてらっしゃいました。
Y「マスコットの着ぐるみでも借りとったらええん。」
K「暑いのう!はっはっは(笑)」
Y「しかしまあ、みんなカメラで綺麗に撮りよるね。」
N弟「こないだなんて近くに落ちてきたから、結構早くボール掬い上げよったのに撮られてたからねえ」
F「ちょっと映像見てみます?」
(他にもSNSにたくさんアップされている映像を見ました。)
N兄「すごく綺麗に撮りよるね。」
F「先週の海ポチャボールは一発で華麗にキャッチしましたからねー。これは今夜のハードル高いですね(笑)」
K「ボールに傷付けんように〜とか言われよったし(笑)」
N弟「この日の観客3000なんぼやったけど、今日満員やし(笑)」
Y「上手く取れんかったら(ニコニコ動画のように)画面にヘタ!ヘタクソ!ってたくさん流れよる(笑)」
(一同大爆笑)
N兄「ボール上手く拾いきらんで野次られたら、多分キレるけー(笑)」
F「いやぁ、本当にこれくらい話題性抜群なんですよ。海のボールパーソン。」
N弟「第5秀丸の紹介のやつが、たくさん拡散されてるのはすごかったもんね。アレ怖いと思ったわ。」
F「自分がアップしたものも、瞬時にリツイートやいいね!の応酬でした。」
N兄「なら俺今回は1万いいね!くらい目指そうかな。」
N弟「俺はいいね!じゃなくて逆の押すわ(親指を下に向けながら)」
(再び一同大爆笑)
N兄「いやただね、ボール拾いだけど、やっぱ人間よ。命あるものが1番。」
N弟「ボールより人が落ちたら困るもんな。ボールは浮いちょるけど、人はそうもいかん。」
Y「地域で救難救済会って組織があるんよ。海の事故に備えて。きっとそういう目的もあると思う。海に人が飛び込んだとか、車が飛び込んだとか結構あるんだよ。」
F「そういった想いは、是非多くのサッカーファンにも知ってもらいたいです。」
N弟「日本全国、船を持ってる人ならそう思っとるよ。」
N兄「そうな。勝ったからっていって、飛び込まれると困るね。気持ちはわからなくないけど。」
N弟「ギラヴァンツさんが球拾いとして取り上げてるのはいいけど、こっちはちょっと趣旨が違う。スタジアムの中に人がおる分にはいいけど、(試合が終わって)一斉に人が通路に出てくるとやっぱり心配するよ。」
F「皆さんのそういった想いが聞けて、とても貴重な時間でした。ありがとうございました!今夜の試合もよろしくお願いします。」
その夜、ミクスタには今季開幕戦に次ぐ、J3史上2番目の記録となる13,880人の観客が集まりました。目標の15,000人には届かなかったものの、見た目ではほぼ満席で、アウェイ側ゴール裏の最後列にも立ち見客がいました。
結果も伴い、黄色に染まったスタジアムは最高の雰囲気。打ち上げ花火が大観衆の中での勝利に花を添えました。
わずか4分間で600発もの花火が夜空を彩りました。この花火の時間も、動員として海に出ている漁師さんがいたそうです。
こうして「ギラフェス」が成功に終わったのはクラブや選手、また多くの協賛企業の力も大きいでしょう。しかし、こうして文句も言わずに、裏方の仕事をしてくれる地域の人々にも支えられていたのです。
そんなこと知っているつもりだったけど、こうやって北九州の心優しい皆さんに出会って、改めて裏方で支えてくれる方々への感謝の気持ち、忘れないようにしたいと感じた次第です。
最後になりましたが、北九州市漁業協同組合長浜支所の皆さん、貴重な機会を本当にありがとうございました。またミクスタへ美味しいたこ、食べに行きますね。
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さて、今年6月には我らがジュビロ磐田も、ミクスタでのアウェイゲームに乗り込む予定でした。私もその時にはまた、関門海峡たこをいただきながら、漁師さんに感謝の気持ちを込めて手を振りたいなと、思っていたのですが……今のところ完全に白紙となってしまいました。
今季の開幕戦の様子です。開幕戦・ダービーマッチという好条件もありますが、とても良い雰囲気。やっぱり良いスタジアムは高いレベルの試合で使われるべきですね。他のJ2クラブとの対戦でも、良い雰囲気が作られることは間違いないでしょう。
世の中の混乱が収まって、ミクスタを再訪できる日が来ることを、心から願っています。
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