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EUROの日本放映が中々決まらなかった理由をUEFA側の懐から探る

欧州サッカー選手権(以下、EURO)の日本放映が中々決まらず、海外サッカーファンの間では北朝鮮以下の視聴環境だなんだと揶揄(やゆ)されてきましたが、WOWOWとAbemaが土壇場(どたんば)で放送を発表し、事なきを得ました。

しかし、ここまで交渉がもつれた理由は何だったのでしょうか?日本側の事情としては円安によるコスト増という分かりやすい理由がすぐ考えつきます。一方のUEFAはどんな事情があったのか、例のごとく10%のデータと90%の妄想力で分析していきたいと思います。


UEFAは売上も上がる、コストも上がる

UEFAの売上高は基本的に右肩上がりです。4年に1回の欧州選手権があるたびに売上高が急増するため、EURO開催年で比較してみましょう。2大会前のEUROが開催された15-16シーズンは45.8億ユーロ、コロナ禍による変則開催となった前大会の20-21シーズンは57.2億ユーロ、そして今回のEURO大会の売上高が計上される23-24シーズンは67.2億ユーロの見込みです。1サイクル(基本は4年)ごとに売り上げを10億ユーロ(1,700億円相応)増やしています。民間上場企業だったら、経営者はカリスマと持ち上げられて間違いない売上高の伸びと、成長期間の長さです。

この売上高推移を見ると、「おいおい、そんなに好調なら日本向け放映権料何とかしろや」、「アジアの視聴者からふんだくってるから、売り上げがいいんじゃないの?」というお叱りのご意見が聞こえてきそうです。
 しかし、UEFAにとってどうしようもないことがあります。そうインフレです。欧州は日本以上に物価の上昇が早く、コロナワクチンが普及し始めた2021年を起点に20%以上物価が上がっています。

インフレが上がれば、コストが上がります。例えば、UEFAの人件費(直接雇用分)は21/22シーズンから22/23シーズンにかけて+17.2%上昇しました。UEFAはこの他にも審判派遣代、広告を含むイベント開催費用、システム費用などなどを負担しており、これらは当然、欧州の物価情勢に合わせて値上がります。

さて、改めてコロナ禍後のUEFAの売上高の伸びと物価の伸びを比較してみましょう。なんと伸びがほぼ同一であることが分かります。つまり、UEFAとしては基本的にコストが増えた分を転嫁していっただけで、利益を懐にヘッヘッヘッヘという気持ちはないと思われます。

※EUのインフレ率は2024/6/10時点で23年4月分までのみFRED、セントルイス連銀にて入手可能のため、21年6月vs.24年4月で計算。UEFAの売上高の伸びは20/21シーズン vs. 23/24シーズン(見込み含む)で計算。UEFA Financial reportおよびFREDを基にフットボール経営分析マンが作成

そもそも、UEFAは協会組織のため利益のほとんどを分配金として欧州各国のクラブや各国のサッカー協会に配布します。売上高に占める分配金と連帯金の合計の割合は80%を超えており、利益はほとんどの残らないかマイナスです。UEFAのインセンティブとしては、しっかり売上を増やして分配金を増やすことなります。でないと、選手・監督費用を負担しているクラブや各国協会にシバかれます。ええ、間違いなく。

UEFAネーションズリーグの功罪

コストが増えた分、日本を含む視聴者に転嫁している。とだけ話すと、何やらUEFAが経営努力していないように聞こえるので彼らの立場を補足しておきます。
 UEFAの代表戦からの収益は、4年に一回のEUROで大きく稼ぐがそれ以外の年はほとんど収益がないというのが2017年まででした。そこで考え出したのが、UEFAネーションズリーグです。

 EUROの合間の試合もトーナメント方式にすることで盛り上げようという試みです。始まる前と後で平均して毎シーズンの売上高は1億ユーロ上がっています。ただ、EURO一発で10億ユーロ(年平均すると2.5億ユーロ)売上増を実現していること、選手への負担増を考えると個人的には「?」な施策に映ります。
 もっと言うと、欧州代表が他地域に招待されて親善試合をすることが難しくなり、代表による欧州域外のサッカー布教はおろそかになります。代わって布教はクラブ頼みとなるわけです。欧州域外でお客を呼べるクラブは限られているので、布教ペースの鈍化を副作用として個人的に心配しています。

CL頼みに変化の芽(小さいけど)

UEFAの売上構造の弱点は、代表はEURO頼みでした。それより深刻なのはチャンピオンズリーグ(CL)頼みという弱点です。
 24/25シーズンの予算案を見ると、CLの売上高が22%増の約40億ユーロ!UEFAの売上高の80%を占める計画となっています。

ご存知の通り一本足打法の商売は、商売の幹が倒れた時のダメージが甚大となります。それを避けるためにも、UEFAはカンファレンスリーグ(ECL)を創設し、欧州リーグカップ(EL)とともにCLに次ぐ柱にしようとしています。
 ECL創設から3シーズンは売上高増に貢献せず、苦戦が続いてましたが24/25シーズンはELと合わせて売上見込み額が12%増の5.6億ユーロとなっています。依然として、CLの売上高はEL・ECL合計の14倍とかなり開きがあるのですが、過去3シーズンに比べれば縮んでおり一筋の希望の兆しが見えます。

 ただ、FIFAもFIFAクラブワールドカップの大拡張版を始める予定なので、クラブを巡る露出はFIFA vs. UEFAの対立構造が顕在化していくと予想されます。CLがFIFAクラブワールドカップに押される未来を考えると、よりEL・ECLが普及していくことがUFEFAの売上高にとって大事だと思います。
 そんなわけでがんばれフィオレンティーナ!では本日もよりサッカー生活を!

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