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EURO2024 Grp.E ~Rumania vs. Ukraine~

EUROのグループE初戦は、ルーマニア vs. ウクライナ。
戦禍を経てのウクライナと2016年大会以来の出場となったルーマニア。


スタメン

お互いに親善試合からの大幅なメンバー変更はなし。
ウクライナはZinchenkoやMudrykなどのタレントを擁する。
ルーマニアは中堅クラブで活躍するプレイヤーが多くいる中で、個の力ではなくチーム力で挑む。


ルーマニアのコンセプト

守備に回ったのはルーマニア。
守備隊系はベース4-1-4-1(中盤4枚はフラット)のミドル~ハイプレスくらい。前半の最初の数分は前プレかけて追いかける形を見せていたが、数分すぎるとミドルで構える形にしブロックを敷くことに。
アンカーのM.Marinはライン間に降りるプレイヤーの監視やフィルター役になり、中盤の統制を保つ。

相手のビルド時、アンカーが空いてしまうことになるがそこはあまり気にせず、引き込ませてサイドや自陣から対応をスタートする。引くことの狙いとしては、サイドでの数的優位の対応も挙げられる。ウクライナはワイド1枚で1v1に持ち込もうとしてくるが、ルーマニアとしてはサイドに持ち込ませてSB・SHで2v1で対応しようとする。さすがに2枚と対峙することになったアタッカーは下げるかロストするかくらいの選択肢に絞られる。=ウクライナンのアタックを機能させない。
左右どちらのサイドでも数的優位の対応をし安定した守備を継続。この対応で守備はほとんど解決する。+押し込まれても自陣で枚数を確保できるので簡単に破られることもない。

4-1-4-1のブロック
サイドでの数的優位の対応

さらに、守備で印象的だったのは球際のクラッシュ。
特に自陣での球際への意識は高く、タテパスが入ったり中央で保持するプレイヤーがいればすかさず体を当てに行く。ボールを奪うよりも相手のバランスを崩して自由に持たせないようにしている。選手同士の距離感も近いのでボール周辺はすぐに囲い込める。相手に与える威圧感もある。
球際の強さが際立つが全員の守備への意識やトランジションにおいては、見事なハードワークが実施され守備の隙を見せない。守備さえやれば良いという感じか。

このクラッシュがあるからこそ、相手がビルドしてきても持たせてOKなのだろう。そうして自陣に入り込んできたところをクラッシュ!で回収するか下げさせるか。下図のようにエリアを決めてクラッシュを試みる。


攻撃・保持時に関しては、ビルドは2+3,4で開始。前進に手数をかけずにタテへ素早くシンプルに敵陣に入り込もうとする。最終的な目標点は右前か。ここに集めて仕掛けるというシーンが多かった。
右サイドは活発でアンダーラップ・オーバーラップと動きがある。

守備は引くことがベースになっている中で、アタックはカウンターを仕掛けることも多くある。自陣で奪ってからは素早く敵陣に運び込んで全員でラインアップ。ここでのハードワークにも光るものがある。

ルーマニアのビルド


ウクライナのコンセプト

対するウクライナは前半から保持の時間が多い。
ビルド時は2+1がベースで、アンカーの位置に入ったStepanenkoが降りてCHはタテ関係になるイメージ。CB+アンカーの三角形で組み立て、両SBは降りてサポートしながら。

ウクライナのビルド入り口


出口は大外にあててで、前進後はサイドからの切り崩しかロングでのウラ返しだが、サイドアタックが主流になっていそう。サイドはスペースがあるので1v1の仕掛けへ持っていける。このサイドでの仕掛け人はSBかSHなわけだが、左サイドは単純にSHのMudrykが仕掛けるが、右サイドはSBのKonopliaがワイドにとってSHのTsigankovがインサイドに入る。またはその逆でワイドにフリーを創出する。SHとSBの入れ替わりが激しい。=SHとSBの関係性。しかしこれはルーマニアの守備に対しては効果を発揮できていないように感じる。

サイドからの切り崩しを狙う


しかし、前述の通り、サイドで1v1を仕掛けようとするつもりでも相手は2枚かけて対応してくる。なので孤立しサイドを破ることは難しくなる。
効果的なサイドアタックができずに、中央でも球際を詰められアタックらしいアタックは見られない。

という中で25分あたりから3-2-5へのシステム変更を敢行する。
左SB Zinchenkoが最終ラインに介入し3枚になる。さらにタテ関係だったCHは横並びになる。そして最前線に5枚配置しなんとかブロックを崩そうと試みる。
とはいっても、ブロックを崩すための工夫とは言えず、結局サイドに預けてもいままでと同じように孤立し1v2の構図でチャンスメイクできない。さらに相手の氣に飲まれ…

3-2-5への変化


守備時は4-4-2,4-3-3の陣形で構える。notハイプレスで構えがベース。
しかし結構スルスル抜かれて前進を許すような守備の実態である…

ウクライナの守備陣形


奇襲ルーマニアプレス

試合が動いたのは29分、ブロックを敷き続けていたルーマニアだったが、ウクライナがバックパスしたことを皮切りにプレスに出る。その結果、ウクライナGK Luninが蹴り出したボールは右サイドのManに渡る。そして横パスを受けたStanciuが豪快に狙ったミドルシュートがネットに突き刺さった。
キャプテンの一撃で守備に勤しむルーマニアがショートカウンターから先制。

ブロックを敷いていたルーマニアだったが、このタイミングでプレスをかけることによって先制点を引き出した。引くだけでは攻撃に転じにくい中で、タイミングを見計らって奇襲プレスでボール奪取した。全員の意思が統一されていることも相まって、チーム全体で相手に対して圧力をかけることができた。


後半の振る舞い

後半も同じような展開が続く。
守備に徹するルーマニアと攻勢に出るウクライナの構図は変わらず。

攻めるウクライナだったが、ブロックを崩せるような感じでもなく、やりきれずにロストしたり攻撃がストップしたりともどかしい。
そして、その流れの中で53分、自陣で奪ったルーマニアはカウンターへ出る。速攻で押し込むとボックス前でのこぼれを、R.Marinが振りぬきGET!狙い通りの引いてからのカウンター一発がハマりリードをさらに広げる。

その後も引くルーマニア vs. 攻めるウクライナの構図でペースは変わらない。ルーマニアの守備の堅さと集中は相変わらずである。


ウクライナは保持している(持たされている)が崩せないのは、前線のアクションが少なくブロックに対して小さな隙間を作れないことが関連しているか。もちろんチャカチャカ崩そうとしても、どこかのタイミングでルーマニアの球際クラッシュにあう可能性はあるが、リードが広がった今、そんなことは気にしていられない。
話が少し変わるが、ポーランドと対戦したオランダは、緻密なアクションを繰り返しながらポーランドのブロックに隙間を作り出し、そこをきっかけにゴールを奪ったというシーンもあった。それができるかどうかが強豪国との差異であろうか。

また、ロングでウラを端的に狙おうにも相手は引いて守っているので敵陣には枚数が揃ってしまっている。となるとウラのスペースはカバーされているので放り込んでも意味がない。回収されるだけである。前線が引き出したりしてスペースを生んでいるならば、例えば大外から走り込んでチャンスにしようとなるのならわかるが、アクションなしでいきなり狙うというのは無謀になってしまうのでは。ビハインドがある中ですぐにゴールへ向かいたいのはわかるが、ゴールまでのアプローチの仕方とその確実性を高めたい。


広がるリード

2点のリードを持つルーマニアはさらに57分、ショートコーナーからサイドをえぐるとクロスに合わせたのはDragus。あっという間の得点ラッシュでリードは3点に。カウンターからの得点だけでなくデザインしたCKから得点を奪う。

その後もウクライナは反撃しようとするもパンチはなく。
3-0でルーマニアが初戦を快勝。


総評

引いて守りながらもカウンターで敵陣に出てリフレッシュするというバランスのとれた戦いを披露したルーマニア。守備の集中が生み出す攻撃力も魅せた。カウンターに出るということは、押し込みやチャンスを作るということだけでなく、自陣にこもっているだけではいつか限界がくるという中でその状況を発散する役割も兼ね備えている。とにかく、奪ってからは自陣を離れて自ゴールから遠くへ運ぶという決まりを全体で共有できていたように感じる。そして、そのための相手に持たせて引き込ませてからのクラッシュやサイドでの数的優位の守備。明確な対応とそれを実行し継続する結束があったからこそ、今回の勝利につながった。(ワールドカップのモロッコのような戦い方にも見えなくはない?)

破れたウクライナはアイディアを引き出す力のなさが目立った。
保持するところからサイドに展開する流れは良いのだが、そこからのファイナルサードでの振る舞いの問題、アイディアの枯渇で苦しんでしまった。そして、中途半端な攻撃でロストしカウンターを喰らう。ブロック→カウンターという中堅トレンドの餌食になった。
ここからどう修正するのだろうか…

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