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なぜ日本人は背水の陣に強いのか

「日本は背水の陣になった時に強いと思っている」

PIVOT 公式チャンネルの動画の中で、サッカージャーナリスト中西哲生さんがこのように話されていました。
これについて、私がサッカーで起こる現象を解釈するツールの一つとして使っているCQ(文化の知能指数)の観点からそのヒントを掴めるのではと思い、文章にしてみました。

サッカーにもビジネスにも共通する疑問


前述の動画「サッカー大展望2023」の中で、カタールW杯での日本代表の戦いぶりについて、PIVOTの佐々木さんから次のような質問がありました。

「なんで背水の陣にならないと日本人は本気が出ないんですか?」

ビジネスに詳しい佐々木さんから、サッカーに限らず全てに共通するものとして出された質問でした。※動画内34:45辺り


まず、話の前提となっているカタールW杯の日本代表の試合を整理します。

グループステージ初戦のドイツ戦、この試合で最低でも勝点1が欲しい日本代表は、防戦一方の中で失点して0ー1で前半を折り返すことになりました。また、グループステージ突破のために負けは許されない第3戦のスペイン戦では、前半の早い時間に先制点を奪われてしまいました。しかし、両試合ともその状況から2点を奪って逆転勝ちを収めました。

一方で、勝利は欲しいが引き分けでも悪くない第2戦のコスタリカ戦では、チグハグしたプレーが重なって敗戦。ノックアウトステージのクロアチア戦ではこの大会で初めて先制しましたが、その後は終始自分たちから勝負を決めるような手を打たず、同点に追いつかれてPK戦で敗退しました。

佐々木さんの質問は、この2種類の試合の違いを見てのものだったと思います。少し答えに詰まってから話されたサッカー専門家の中西さんと木崎さんのコメントを一部抜粋させていただくと、次のようなものでした。

▶︎ 木崎さん
「背水の陣になるとリスクはない。もうやるしかないから。背水の陣じゃない時はリスクを冒さなければいけないので、そのリスクのバランスが苦手なのかなと思う。」

▶︎ 中西さん
「リスクを冒さないといけないとなった時に冒せないんです。なぜ冒せないのかを解明しなければいけない。」


日本人がリスクを冒せる時と冒せない時


「それが解明できないと(W杯で)優勝できないです。」と中西さんが言われていましたが、日本代表のW杯優勝を目指す私としても全く同感でした。
動画の中でも言及されていましたが、リスクを冒せた時はドイツ戦とスペイン戦、冒せなかった時はコスタリカ戦とクロアチア戦、と私も捉えています。

では、日本がリスクを冒せた時と冒せなかった時とでは、何が違ったのか。
このことを、学術分野で確立されたCQの観点から考えていきます。


不確実性回避と達成志向


CQとは国ごとの文化的特徴を6次元でスコア化したもので、日本人はその中でも、知らないことや未知のことへの対応を示す「不確実性の回避」(92ポイント)と動機づけ要因を示す「達成志向」(95ポイント)の2つがめちゃくちゃ高いです。
参考までに、下のようにカタールW杯ベスト8各国と日本を図示しました。パッと見て分かるように日本はかなり独特な位置を取っていますが、実はこの8カ国との間に限らず、世界的に見てもこの2つの次元でかなり際立った特徴を持っています。

カタールW杯ベスト8各国と日本のCQスコア
※「経営戦略としての異文化適応力」を元に作成


それぞれの具体的な特徴を挙げると次のようになります。

<不確実性の回避の特徴>
・前例を探す
・構造やルール、情報、準備の必要性が高い
・失敗を恐れる。安全が必要。

<達成志向の特徴>
・仕事が優先され、長時間労働が予想される
・業績や成果に対する報奨を重視
・タスク完了、期限厳守への意欲や野心

CQラボ主催の講座資料 より引用

このように、不確実なものを避けて確実なものを求めたがる、かつ、やると決めたことはやり遂げないと気が済まない、日本人にはこのような文化的特徴があります。
リスクを冒すというのはこの特徴に反するものであり、そのため、日本人はリスクが冒せないのです。

ただ、失敗を避けるためにのみリスクを取るという側面の特徴もあります。

この特徴からは、今大会で最も避けなければならなかった「グループステージ敗退」という失敗に直結する試合で負けないために、ドイツ戦とスペイン戦ではリスクを冒すことができたのだと解釈できます。つまり、この2試合は、日本人がリスクを冒す行動をしやすい状況になっていたということです。

一方で、中西さんや木崎さんも言われていましたが、まだ失敗に繋がるわけではない状況(コスタリカ戦の0ー0、クロアチア戦の1ー0や1ー1)でリスクを冒して得点を狙って勝負を決めにいく、というのは日本代表には難しかったのだと思います。

以上が、背水の陣にならないと日本人が本気が出せない理由であり、日本代表がカタールW杯で背水の陣になって強さを発揮した理由と考えられます。


背水の陣の時と同じような力を発揮するためには?


ここで次の問いが生まれてきます。

背水の陣にならなくても、背水の陣の時と同じような力を日本人は発揮することができるのか?

これに関しては、中西さんは「背水の陣がいつも出せるようなベースをどう作るかがポイント」と、具体的方法も併せて話されていました。その中には、CQの観点から考えると面白そうな指摘がいくつもありました。この辺りは、また別の機会でお伝えできればと思います。

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