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「アナリスト」が日本のサッカーを変える、のか︎!? 2019

これは「スポーツアナリティクス Advent Calendar 2019」の24日目の記事です。

1.はじめに

サッカー日本代表のW杯優勝を実現するためには分析の力がカギと考え、現場でその中心的役割を担うべきサッカーアナリストの育成とその価値向上について、2019年も考えたり取り組んだりしてきました。タイトルについて結論から言うと、「変えなきゃいけない!」ということなんですが、どうやって変えていくかということを新しい視点で考えることができた2019年になったかなと感じています。

特に、データを駆使した分析をもっともっと活用するためには、もはやサッカー現場にいる人間だけでは難しいのではないかという結論に至っており、データ分析の専門家の方々との連携をいかに機能させるか、をずっと考えていました。

そこで出会ったのがSports Analyst Meetup(以下、spoana)。イベント全体の様子は、スポーツアナリティクス Advent Calendar 2019の初日を飾っていただいたu++の記事をご参照いただきたいのですが、ここでは、私自身がそのspoanaのライトニングトークに3回にわたって登壇してお話させていただいた資料をベースに少々アップデートを加え、サッカーのアナリスト育成についてまとめてみました。

漫画「Dr.STONE」のクロムの名言、「俺の科学は、経験値だ!!!」のように、私の場合は現場で試行錯誤しながら経験してきたことが自分の武器だと思っているので、それを共有していろんな方々に知っていただくことで、スポーツアナリティクスがさらに盛り上がるであろう2020年に向けて勢いをつけられればと思っております。

2.spoana #1「日本サッカーにおけるアナリストのリアル」

日本サッカー界で分析の有効性にスポットライトが当たり始めたのは、1996年のアトランタ五輪や1998年のフランスW杯だったと記憶しています。それ以降、分析という仕事を担当するスタッフをコーチングスタッフに組み込むことは、各年代の日本代表やJクラブ等のトップレベルでは一般的になってきていますし、今では、アマチュアや大学サッカー部でもそのようなスタッフを配置することは珍しくありません。チームや役割によって「テクニカルスタッフ」「分析担当」「アナリスト」等、名称は様々ですが(これも1つの課題)、そのスタッフのメインの仕事はというと、当時から変わらず、主観による映像分析と映像編集です。

テクニカルとアナリスト

テクニカルに求められてきたこと

これは今も大きくは変わっていませんが、ここ数年、特に2018年のルール改正によってベンチに電子通信機器の持ち込みが可能になってから、その役割に少し変化が起きています。次の試合に向けて対戦相手を分析することに加えて、自チームの試合中にスタンドもしくはベンチでリアルタイムの情報を得て、それを監督やコーチに提供する、という役割を担うことも多くなっているようです。

こういうこともあり、これからのサッカーアナリストに必要なことを、
(1)脱・映像編集係
(2)DORAえもんアナリスト(Data × Output × Realtime × Adjust)
(3)鯛でなく鰈
(※SLAM DUNK参照)
とお伝えしました。

3.spoana #3「サッカーと一般企業のデータ分析」

サッカー現場でも、分析にデータを活用することが徐々に求められてきていますが、なかなかその効果が十分に発揮されていないことが課題として挙げられます。どうやればもっと活用できるかを考えるために、視点をサッカー以外に持って行ってみようということで、一般企業のデータ分析事情を調べてみました。

自分的にヒットしたのが、大阪ガスのデータ分析組織であるビジネスアナリシスセンターの所長を務められていた河本薫氏(現・滋賀大学データサイエンス学部教授)の著書「最強のデータ分析組織」「会社を変える分析の力」でした。

・「勘と経験」にプライドを持ちデータ分析には懐疑的な現場の人間の心を開く
・日本企業には優れた現場力があるため、データ分析に頼らなくても現場の経験と直感で経営できる。そのため、自然な流れではデータ分析の活用は進まない

とか、サッカーの現場そのものじゃん!。実際に河本氏の講演を聞いたり直接お話をさせていただいたりもしましたが、一般企業もサッカーと同じ課題を持っているということを知りました。その解決アプローチもとても参考になるもので、

勘も経験もデータも

という考えに至り、次のような仮説を立ててお伝えしました。

不正解を選ばせない

ちなみに、これに付随して、DORAえもんアナリストは「DORAEもんアナリスト(Digital Operation with Real Analog Engine)」にアップデートされました(笑)。

この回のライトニングトークは、自分としてはかなり大きな意味があったと思っています。データ分析の専門家として活躍される皆さんの話をこの場で聞いていなかったら、別のスポーツを参考にすることはあっても、他業界を調べるという考えには至らなかった気がします。

4.spoana #5「プロサッカー選手の肌感覚」

現場でいかにデータも使った分析を活かすかということが私の一番のテーマなので、実際に自分が見たり聞いたり感じたりしてきた範囲でにはなりますが、プロサッカー選手の肌感覚について、この回ではお話しました。

ピッチ上で戦うプロ選手はどのようにデータを見ているのか、例えばサッカーを楽しむファン・サポーターとはどう違うのか、これまで聞いてきた彼らの声から考えました。当り前と言えば当たり前なのですが、選手たちは比較的、下の図で言う青矢印のほうに重きを置いてデータを捉えているようです。

データの見方

彼らは、自分たちのプレーによって次の試合結果を良いものにすることを常に考えている。ということは、当然、データを活用する思考プロセスもそれに準ずることになります。

例えば、あるデータがリーグトップを叩き出していたとしても、それで良しとはせずに、

改善すべきプレーがまだまだあるので、プレーの質が上がればそのデータは変わるかもしれない。

と、あくまでプレーを改善することにこだわる。
また、別の例としては、

トレーニングでやっていたクロスを上げる位置は、得点に繋がるクロスのとは違うのでは、と感じていた。昨シーズンのリーグでのクロスからの全得点を映像で調べたら、思った通りだった。チームメイトにも共有して、自主トレーニングに反映させた。

と、自分のイメージを自分でデータ化し、プロとして結果を出そうとする。
一方で、データに慣れている外国籍選手でも、対峙する相手選手情報として一番必要としているのは、「データでは〇〇〇」というエビデンスを元にした論理的な説明ではなく、

大丈夫、お前のほうがスピードは速いから!

というメンタル的なアプローチの時もある(笑)。

データはあくまで四次元ポケットの中の道具の1つで、困っているのび太君の様子に応じて何を出してあげるか、時には道具は出さずに敢えて叱咤激励のみという方法も取れる、という「DORAEMONアナリスト(※アップデート中)」の存在が、選手にとっては重要なのではないかと思います。

5.情報に対する価値の置き方と意思決定プロセス

今後、どこかのタイミングでspoanaでもお話しできればと思っていることなのですが、アナリストを育成し、その活躍を促すためには、アナリストが仕事をする組織の意思決定についてもクリアすべき課題があると考えています。現状よく聞く話で、「データ分析の結果を有効活用できていない」「監督が変わったらクラブでデータを使わなくなった」等がありますが、これはアナリストや分析というよりも、その組織自体に課題があることも考えられます。そういう意味で、分析の組織作りに関しても知見を深めていきたいと思って諸々調べ、「情報なき国家の悲劇 大本営参謀の情報戦記」「日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか」とかを読み込んでいるところです。

組織ということに関しては、上記したようなコーチングスタッフの一員であるアナリストだけでなく、選手の評価や獲得等のチーム編成を担当する、いわゆる強化部にアナリストを置くJクラブが出てきています。こういった、データを活用した分析も使ってクラブの中長期的な成長を目指すという動きは、今までの日本サッカーではあまり無かったはずですし、今後もっと増えていくべきだと思います。
引き続き、組織の情報(=分析によって得られる武器)に対する価値の置き方と意思決定プロセスについては注目していきます。

6.最後に

今後も、アナリスト育成やその価値向上を通じ、日本サッカーの分析領域の活性化を加速させていく所存ですが、関連して、最近参加した2つのイベントの話をご紹介します。

(1)日本フットボール学会 17th Congress

大橋二郎氏(大東文化大学)による「ゲーム分析の温故知新」というセッションで、メキシコ五輪予選当時の日本代表のデータのお話がありました。トラッキングデータ(!)も取得していたとのことで、釜本選手の走行距離は約7.2kmだった、一番多い選手で約10.2km、等々。

取得方法については、現在の我々からするとコメントしたいこともあったりはしますが、そんなことよりも、超アナログだったであろう50年前に、ボールを持っていない選手の動きをデータ化しようという考えがあって、それを実現させた方々がいたということが驚きでした。このデータは日本蹴球協会の科学研究委員会が取得し、学術誌にも掲載されたそうです。故・長沼健氏や故・岡野俊一郎氏らが尽力されたとのこと。ただ、今の日本サッカー界を見ると、大きな動きには繋がらなかったようですね。なんとも残念でなりません。

(2)Tokyo Data Science Lab 2019-20

ここでは、データ活用を推進しようとしている川崎フロンターレの谷田部氏の言葉が強く印象に残っています。

スポーツの場合、とんでもない神風が吹いてしまい、データ分析をした全てが吹き飛ぶことがある。

まさに!、ですが、この辺を含めた「データ分析と現場のリアル」が抱える課題解決にこれからも取り組んでいきたいと思っています。


2020年も、よろしくお願いいたします!

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