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東京2020後のスポーツアナリティクスは、どのように展開していくか?

 これは「スポーツアナリティクス Advent Calendar 2021」の1日目の記事です。

1.東京2020を経た日本のスポーツアナリティクス

 「思ったほど大きな話題にはならなかったなー」というのが、東京2020オリンピック・パラリンピックを終えた日本のスポーツアナリティクスに対する私の感想でした。開催国として多くのメダルを獲得し、それを支えていた裏側にもたくさんのスポットライトが当たるはず、と大会前には期待していました。しかし、実際にはいくつかの競技における分析・IT/データ活用について取り扱ったものを目にする機会はありましたが、想像していたような大会後の姿にはなっていませんでした。特殊な状況下にあった東京2020だったので、話題が別のところに集まっていた影響を受けた結果という気もしました。一方で、スポーツの分析やデータ活用が目新しいものではなく一般にも認知されつつあるから、特別な話題としては扱われにくくなった可能性もあるのかなとも考えていました。

 そんな中で、先日、フェンシング男子フルーレナショナルチームアナリストとして東京2020を戦った、日本スポーツアナリスト協会(JSAA)理事の千葉洋平さんと、東京2020を経た日本のスポーツアナリティクスの今後の展開についてディスカッションさせていただきました。

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 千葉さん個人の見解としては、以下のように挙げられていました。

▶︎ 各競技におけるトップアナリスト(オリンピックスポーツの日本代表、ナショナルチームなどのアナリスト)に対する需要は変わらないだろう。ただし、その数が大きく増えていくことは考えにくい。予算が削減されるスポーツ組織が増え、アナリスト採用枠が減少することも大いにあり得る。

▶︎ 競技スポーツ現場の人材に必要なマインドやスキルの一つとして、スポーツアナリティクスを捉えていく必要がある。それらはアナリスト特有のものではなく、指導者や各スタッフに必須のものになっていくのではないか。

▶︎ スポーツアナリティクスを活用する範囲が、競技レベルが高いスポーツの指導者やスタッフに限らず、より広くなっていくことが予想される。例えば選手、ファンやサポーター、さらには娯楽としてスポーツを楽しむ一般層も含まれてくるだろう。

 概ね同意する内容で、特に二点目と三点目については、今年になって私が取り組んでいることにも通じる部分があるので、そこについて記していきたいと思います。

2.スポーツアナリティクスの民主化

 インターナショナルレベルやプロレベルの競技スポーツ現場でアナリストが活躍する姿が数年前から注目され、学生スポーツでも同様の状況になってきています。さらにここからは、スポーツアナリティクスの位置付けが、結果を出すためのパフォーマンス向上やスポーツ組織強化などを目的とするアナリストの専売特許としてだけでなく、もっと広義なものとして活用されていくのではないでしょうか。例えば、競技レベルや役割を問わず、スポーツに関わるより多くの人がスポーツアナリティクスのマインドやスキルを体験したり活用したりできる、スポーツアナリティクスの民主化が進んでいくと想像しています。

 スポーツアナリティクスの民主化と一言で言っても、様々な形が考えられます。その事例として、今年、私自身が取り組んだものをいくつかご紹介したいと思います。

 (1) 競技スポーツ指導者の能力の一つとして

 これまでも、試合やパフォーマンスを分析して指導現場に活かすことは各競技で行われていますが、より効果的な指導を行うために、アナリストが実践するようなレベルでのスポーツアナリティクスの理解と活用が求められるのではないでしょうか。これは、データスタジアム社主催のスポーツアナリスト育成講座Vol.7に登壇された講師の方々の話からも確認できたことで、Jリーグの現場では、プロのチームにおいて分析を主な役割としてチームを支えたスタッフ(アナリスト、分析担当、テクニカルスタッフなどの呼称)が、プロチームコーチや育成年代指導者としてその専門能力を武器にして活動している例がいくつもあるようです。

 私が所属する岡山県サッカー協会では、育成年代指導者向けの分析講習会を開催し、指導に活かすためのサッカー分析力の強化に取り組んでいます。撮影機材準備及び試合撮影方法といった基本知識の獲得から始まり、試合分析からの情報収集、岡山県代表チームが戦う相手の分析、県大会の分析など、アナリストが担う役割の実践を通じて、そのマインドやスキルについて学ぶことができました。指導者の中には、現場で見聞きしたり独学で身につけたりした方法ですでに実践されている方もいらっしゃると思いますが、より専門的に整理された形で分析を学び直すことによって、指導者としての能力向上に繋がるのではないかと考えています。

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 (2) 学生の成長材料として

 スポーツアナリティクスのマインドやスキルを身につけることは、学生にとっても大変意義深いものだと考えています。

 自分やチームのプレーを映像やデータで振り返りながら行うトレーニングや、感情や経験だけに囚われない客観的なアプローチで課題解決に取り組む思考法などを学生時代から習慣化することには、学生選手たちの成長を促進させる働きが期待できます。

 また、スポーツへの関わり方には「する」「みる」「ささえる」があると言われていますが、「する」以外の関わり方を学生選手の頃に知ることで、スポーツの新しい魅力を発見して将来的に何らかの形でスポーツに携わる人材が増えるのではないかと思われます。下の写真は、とある高校で各運動部員を対象に行なったスポーツの分析についての授業の様子ですが、多くの学生が熱心に話を聞いてくれていました。

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 さらには、スポーツに深く関わっているわけではないものの、興味関心がある学生に対してスポーツアナリティクスに触れられる機会を提供することにも大きな価値があると考えます。

 私が大学で担当する研究室では、スポーツアナリティクスを扱ったゼミを行なっています。スポーツ専門の学部ではなく経営学部なので、なかには体育会系部活動に所属している学生もいるものの、選手としてプレーするのは高校までだった学生、サークルで仲間と楽しみながらプレーすることを重視する学生、スポーツ中継を観るのが大好きな学生、父親とサッカー観戦に行くのが好きな学生など、スポーツへの関わり方とその濃淡は多様です。彼ら彼女らがスポーツアナリティクスのマインドとスキルの学習及び実践を通じてスポーツ組織に貢献する経験を積むことを目的として、実際に岡山県内のスポーツチームなどと連携し、抱える課題に対して学生がその解決の一翼を担うチャレンジをしています。

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 (3) 他分野への応用事例として

 スポーツアナリティクスのデータ活用事例は、スポーツ以外の分野にも広く応用の効くものだと思っています。スポーツデータ分析「から」学ぶ、という感じでしょうか。幸いなことに下記のようなセミナーにも登壇することができましたが、受講者アンケート結果などを見ても、一般企業に勤めている皆さんのお仕事の参考として大いに利用できるという実感を得ました。

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3.競技スポーツのアナリストについても少し

 今回はあまり触れませんでしたが、個人的にはプロレベル以上の競技スポーツのアナリスト領域にも引き続き注力していきたいところです。

 千葉さんも言われていましたが、ポジションとしての重要性は変わらないものの、数的な需要が大きく増えることは当面は無いと私は予想しています。したがって、ここを目指す人は、これまで以上に少ない席を争うことになると思われます。ただ、捉え方を変えてみると、アナリスト同士の競争激化はアナリスト自身の価値向上のチャンスになるということかもしれません。現在トップアナリストである人やそれを目指す人同士の切磋琢磨によって、これまでのアナリスト像をアップデートしてスポーツ界に新たな価値をもたらすアナリストが誕生する、とか考えるとワクワクしてきます。所属する部活やインターンなどですでにハイレベルなアナリスト職に触れ、高いスキルを身に付けてそこに割って入ってくる学生が増えてくると、さらに面白そうです。実際にやりとりをさせていただいている学生の方々の様子を見ていると、この妄想は膨らむばかりです。

4.最後に

 スポーツアナリティクスという視点では私の勝手な予想とは違った形で幕を閉じた東京2020でしたが、上記してきたように、この分野は広く多様な形で発展していくと考えています。

 ここまで記してきた以外にも、スポーツアナリティクス民主化の取り組みとして進めていることがあります。それは、スポーツチームとそれを応援するファン・サポーターとをつなぐツールとしてスポーツアナリティクスを活用することです。これに関しては、またどこかの機会で発信できればと考えています。

 今後も、スポーツアナリティクスが盛り上がるよう取り組んでいきます!

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