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あてにならない予報 〜鹿島アントラーズvs川崎フロンターレ

 開幕前の天気予報では、川崎戦の日には傘マークがついていた。
 ところが、開幕戦で京都に勝ったあと、曇り予報になっていた。
 そして迎えたホームカシマでの初戦、最近の春の気配を消し去るような寒々しい雨に打たれた。

 開幕戦の勝利は確かに大きかったが、プレシーズンの不安を払拭するものではなかった。変則的な4バックによるビルドアップも左右非対称にした幅の取り方も諦め、キャンプ当初の優磨インサイドハーフでもない、普通の4−1−2−3だった。
 割り切ったロングボール、基点となる左の知念、佐野海舟を支えにピトゥカと樋口のプレス。これは果たして新しい鹿島なのか、あるいはそこへ向かう過程になり得るのか。

 雨は降らないとする予報は信じられなかったが、傘を持たずスタジアムへ向かった。

 川崎の自由を奪うことは、一定程度できた。特に後半、あれほど中盤で引っ掛けるのは最近の川崎戦で観たことがない。
 前半にしても、ゴール前への侵入は許していたが、植田が動じるようなシーンはほぼ無かった。岩政監督の試合後のコメントからは、選手の判断で自陣に構えたという。
 後半はピトゥカを解き放ち、前へのプレスに参加させ、藤井はややバランスを気にするようにした。監督コメントほどボールを持てたとは思えないが、大きな動きもなく時計の針を進めていく。

 最近の川崎戦は流れと無関係の事件が多すぎた。ピトゥカの軽率なファウル、関川の凡ミス、山村のセットプレー。
 この日は、鹿島にとって良い事件が2つ起きた。
 1つは、まだ流れが作られる前の知念の先制点。前線の密度が低く、選手間のコンビネーションも少ない現状ではあれしかない、というゴールだった。攻撃の圧を強めて相手をコーナーに追い込むのではなく、瞬時の隙に差し込む一発。過去の試合で何度も苦しめられた序盤の突発的なゴールを、今回はこちらが手にした。
 もう1つは、”大きな動きがない”という流れのなかでの、山村の退場である。

 良いはずの事件は、結果的に悪い方へ作用した。
 10人になってやることがハッキリしたチームが攻勢に出るのはよくあることだ。よくあるからこそ、自分たちはどう振る舞うかを定めるべきだった。しかし彼らは立ち尽くすだけだった。
 勝ちがちらつき、それが恐怖心を生み、川崎の圧力にのみ込まれた。

 僕は本当に納得がいかない。
 ヘディングでのクリアのミス、ボールを奪った後のパスが2本とつながらずカウンターを打てないこと、途中出場したアイドルの軽いプレー。これらは予想もできた。
 まさか、何年も勝っていない相手に、何度も何度も屈辱を味わされた相手に、勝ちへの執念で上回られるとは。

 近年最高の出来だった煽り動画と、自衛隊の生演奏と、隙間なく発せられた声援とが醸した熱狂は、予報とは違う雨で鎮火し、暗いスタジアムには水色の歓喜と虚しい拍手が響いた。

 再建への道はかくも険しい。
 プレスのかけかた、ビルドアップの設計、スリーオンライン、全局面で圧倒するために相手を見ること。
 そんなものは、こんなメンタリティのもとでは何の役にも立たない。
 救いがあるとしたら、昌子源がいなかったことと、のみ込まれたピッチには優磨も知念もいなかったこと。出来る選手でやり、基準を引き上げ、ついて来ない選手は置き去りにするしかないと思う。
 僕が岩政監督に感じる不安は、戦術的な面でも経験不足でもない。
 その愛の強さは、誰かを置き去りにすることができるだろうか?

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