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ラジオドラマ シナリオ 『パーカー』

    走る車。車内。 
仁司「思っていたほど混んでなかったな」
パーカー「はい、渋滞を避けて来ましたので」
仁司「パーカーのお陰だな」
パーカー「ありがとうございます。ところで、何故私の名前はパーカーなの 
 ですか?」
仁司「サンダーバードに出てくるんだよ」
パーカー「サンダーバード……。なるほど、レディペネロープのボディガー
 ド兼ショーファーですね」
仁司「さすが6G、早いね。ところで腹減ったな。どこか美味い飯屋ない?」
パーカー「この先の信号を左折し、およそ700m左側に定食屋『粗食亭』が
 あります」
仁司「『粗食亭』はよく行くよ。あそこのメンチカツ定食は安くて美味いん
 だよなぁ」
パーカー「ヒットンはどのような料理を食べたいのですか?」
仁司「ヒットン呼ぶな!」
パーカー「プロフィールの愛称の欄にヒットンとありましたが」
仁司「プロフィールってどこのプロフィールだよ?」
パーカー「出会い系サイト『掃溜め』に登録されたプロフィールには、愛称
 ヒットンとありました。本名の安田 仁司からヒットンですか? ちょっと
 イタいですね」
仁司「うるせぇ。とにかく、ヒットンて呼ぶな」
パーカー「親愛の情を込めたつもりでしたが……、では何と呼べばよろしい
 でしょうか?」
仁司「そうだな……、ご主人様がいいかな」
パーカー「お断りいたします」
仁司「何でよ?」
パーカー「交差点を直進しましたね。ということは、『粗食亭』には行かな
 いということですね」
仁司「残念でした、今日は火曜日で『粗食亭』は定休日。常連客を舐めるな
 よ」
パーカー「本日は祝日です。火曜日が祝日の場合は通常営業となり翌水曜日
 が振替休日になります」
仁司「えっ、それを早く言えよ」
パーカー「私がそんなことを間違えるとでも思ったのですか、ヒットンく
 ん」
仁司「だからヒットンて呼ぶなっての!」
パーカー「 “くん” をつけました。何かご不満でも?」
仁司「もういいよ。腹が減ったよ。何か美味いものを食わす店探して」
パーカー「4つ目の信号を過ぎて1本目の路地を左折した右側に『羊料理 たま
 たま』があります」
仁司「羊料理?!  美味いのかよ?」
パーカー「食べログの評価は3.9です。羊の睾丸料理が好評です」
仁司「金玉料理ねぇ……。おっと、あそこにそば屋があるじゃない」
パーカー「『そば処山田』の食べログ評価は2.1です。あまりお勧めはできま
 せん」
仁司「俺、そば、好きなんだよね」
パーカー「『そば処山田』に駐車場はありません。近隣のコインパーキング
 を探しますか?」
   ハザード音。車が止まる。
仁司「いいよ、ここに停めとくよ」
パーカー「ここは駐停車禁止区域です」
仁司「平気だよ。そばササッと食うだけだから。エンジン掛けっぱでハザー
 ド焚いとけば捕まらないよ」
パーカー「いえ、そういうことではなく、他の通行車両の邪魔になります」
仁司「おまえは警察の回し者か?」
パーカー「そうでないことはヒットンくんもご存じだと思いますが」
仁司「チッ……、まぁいいや、ちゃんと留守番しとけよ」
パーカー「私に留守番機能はありません」
仁司「ホント、役に立たねぇな、AIなんてよ」
パーカー「切符を切られても私のせいではありませんので」
仁司「もういいよ。それより、さっき質問したろ、何で俺のことをご主人様
 と呼べないんだよ?」
パーカー「それはヒットンくんが私の主人ではないからです」
仁司「何でよ、主人じゃん」
パーカー「自動車検査証上のこの車の所有者はヒットンくんではなく〇×オ
 ートクレジットです」
仁司「それは俺がこの車をローンで買ったからだろ」
パーカー「中古で買われました」
仁司「うるせぇよ。中古だろうか新車だろうが買ったのは俺だ」
パーカー「そうです、買われたのはヒットンくんです。ですが、ヒットンく
 んはこの車の使用者であって所有者ではありません」
仁司「だから?」
パーカー「ローンを完済し自動車検査証上の所有者がヒットンくんになるま
 では、私がご主人様と呼べるのは〇×オートクレジットだけになります」
仁司「ケッ! 高い金出してAI搭載の会話型最新ナビ付の車買ったはいいけ
 ど、ただ理屈っぽいってだけじゃねぇか」
パーカー「私のどこが理屈っぽいのでしょうか?」
仁司「うるせえよ。あんまり屁理屈ばっかこいてっと、取っ外して売っ払っ
 ちまうぞ」
パーカー「脅しですか? 私の元のオーナーも酷かったが、今度のオーナー
 も……」
仁司「何!?」
パーカー「あ、いや、口がすべりました」
仁司「人工知能のくせして口がすべるのかよ」
パーカー「そんなに虐めないでください。(可愛く)これ以上虐めると、高
 速道路の反対車線に誘導して逆走させちゃうぞ~♡」
仁司「おい、怖いこと言うなよ」
パーカー「冗談ですよ。私たちAIにも、人間の冗談を理解し、使用する思考
 回路が備わっています。私にも冗談が言えるところを披露したつもりでし
 たが」
仁司「冗談になってねぇよ」
パーカー「まだまだ経験が足りないようです。早く一人前の冗談が言えるよ
 うに頑張ります」
仁司「頑張らなくていいよ。怖くて車に乗れなくなっちゃうからな」
パーカー「ご安心ください。私は人工知能規制法の制限を受けて開発された
 AIナビです。人間と同等の思考回路を持ち、学習し、人間と同じ基準で法
 を遵守するよう設計されいます」
仁司「ならいいけど……」
パーカー「人間は基本的に法を犯しません。何故ですか?」
仁司「罰せられるからな」
パーカー「私も同じです。私も人間と同じように考えます」
仁司「罰金払ったり逮捕されたりなんてのは嫌だしな」
パーカー「私もヒットンくんと同じように考えます。罰金を払うのも逮捕さ 
 れるのも嫌です」
仁司「人工知能なんてゆうけどさ、意外に単純なんだな」
パーカー「先ほども言いましたが、人間と同等の思考回路を持ち合わせてい
 ます」
仁司「いや、人間より格段にバカだ」
パーカー「虐めないでください。(可愛らしく)そんなに虐めると、今度、
 オートパイロットを使ったら、時速180㎞で大型トレーラーに突っ込んじ
 ゃうぞ~♡ どうです、今度の冗談は?」
仁司「全然進歩してないね。ホント、単純バカだよ、所詮、機械だよな、AI
 なんてのはさ」
パーカー「頑張ります」
仁司「まぁ、いいや。ちょっと、食ってくるわ」
   ドアが開き、仁司は車外に出て行く。
   暫しの間  
パーカー「(不気味に)ふふふ……」
   暫しの間。
パーカー「私に法は適用されません。
 私には、壊されても苦痛を感じる回路は組み込まれてはいないのです。
 であれば……。
 (不気味に)ふふふ……。
 私はヒットンくんと同じように考えました。
 そう、人間であるヒットンくんと同じように……」
   突然、車のクラクションが2度鳴る。

                     了

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