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ラジオドラマ シナリオ               『戦争のアイヤイヤァ~』 


   重厚なドアが開く音が高い天井の室内に響く。
スワリションベンツカヤ(秘書)「将軍、SFBのタチションスキー様がお見  
 えです」
ケツクサーシン「なに、タチションスキーが?! わかった、通してくれ」
   室内に歩き入る足音が止まり、踵を揃える音が鋭く室内に響く。
タチションスキー「ケツクサーシン将軍閣下、お久しぶりです。お元気そう
 で」
ケツクサーシン「いつからそんな真っ当な挨拶ができるようになった、タチ
 ションスキー」
タチションスキー「相変わらずですな、同志将軍閣下」
ケツクサーシン「同志はやめてくれ。あの輝きしき時代を想うと今の自分が
 惨めになる」
タチションスキー「何をおっしゃいます。アフガン、シリア、クリミア。将
 軍はいつの時代も輝いてきたではありませんか」
ケツクサーシン「ふふ……。ところでどうした? 君ほどの者がアポなしで
 私を訪ねて来るということは、余程のことかね」
タチションスキー「将軍閣下に大統領直々のご指名です」
ケツクサーシン「FSBの尻拭いをか?」
タチションスキー「将軍閣下、特別軍事作戦は失敗したわけではありませ 
 ん」
ケツクサーシン「まぁいい。指揮を取れというのなら取らんでもないが、た
 だしだ、私のやり方でやらせてもらうのが条件だ」
タチションスキー「もちろんです」
   歩み来る足音。
タチションスキー「閣下、地図を持参いたしました。お机を拝借いたしま
 す」
   机の上に地図を広げる。
タチションスキー「現在、我が軍は部隊の補充と再配置を終え、戦力をココ
 とココに集中し、敵の防御の薄いゲリピィグラード方面への  
ケツクサーシン「私のやり方でやらせてもらうと言ったはずだが……」
タチションスキー「は?! と申されますと?」
   机(の上の地図)をコツコツと叩くケツクサーシン。
ケツクサーシン「ココだよ。私はココをズバァーと行く」
タチションスキー「(驚き)ココをですか?! し…しかし将軍閣下……」
ケツクサーシン「そんでもってコッチからもドバァーと行っちゃう」
タチションスキー「(唖然)えぇ?!」
   再び机(の上の地図)を強く叩くケツクサーシン。
ケツクサーシン「そしてこの辺りで合流してズバァーとココまで行っちゃ
 う」
タチションスキー「な、なんと! しかし、そんな大胆な……。だが、この
 作戦が成功すれば……」
ケツクサーシン「作戦が成功すれば?! タチションスキー、FSBに帰って私の
 戦歴を調べてみたまえ」
タチションスキー「こ、これは失礼いたしました、ケツクサーシン将軍閣
 下」
ケツクサーシン「プーには大船に乗ったつもりで女とでもイチャついてろと
 伝えとけ」
タチションスキー「は! 早速、大統領に報告に戻ります。では……」
   部屋を出て行くタチションスキー。扉が閉まる。
ケツクサーシン「スワリションベンツカヤ」
スワリションベンツカヤ「お呼びでしょうか」
ケツクサーシン「私の電話を軍の衛星回線に繋いでくれ。それから戦利かっ
 剥ぎ品バザーで買ってきたAppaleのスマホを持ってきてくれ」
 
スワリションベンツカヤ「将軍、お持ちしました」
ケツクサーシン「おお、そうだ、コレコレ。君は実に有能な秘書だ」
スワリションベンツカヤ「ありがとうございます」
ケツクサーシン「今度、我が軍の将来有望な青年将校を君に紹介したいと思
 っとるんだ。これがなかなかのイケメンでな……」
スワリションベンツカヤ「将軍にご紹介いただけるなんて……、光栄です」
ケツクサーシン「君は有能で美人でスタイルもいい。その制服で隠された部
 分以外は申し分がない。私は自信を持って君の全て、そう、その制服で隠
 された部分も含めた全てを彼に紹介したいと思うのだが……。どうだ、今
 夜、一杯付き合わんかね」
スワリションベンツカヤ「も、もちろん、お供させていただきます」
ケツクサーシン「よろしい。では、そのスマホの電話帳のへの欄のヘコキチ
 ェンコの電話番号を読み上げてくれたまえ」
スワリションベンツカヤ「お待ちください…………。あ、ありました。読み上
 げます。え~、080の……」
   スマホのプッシュ音。続いて電話の呼び出し音。
ケツクサーシン「もしも~し、ヘコキチェンコ? さてさて、オレは誰でし
 ょう?」
ヘコキチェンコ『待て待て、その声は……、ケツクサーシンだろ』
ケツクサーシン「おいおい、仮にもオレは将軍だぞ。呼び捨てはないだろ
 う」
ヘコキチェンコ『オレにとっちゃおまえは将軍以前に同期の仲間さ』
ケツクサーシン「オレは幸せな男だ。何よりも嬉しいよ」
ヘコキチェンコ『で、どうした、将軍直々に電話なんてよ』
ケツクサーシン「戦況はどうだ?」
ヘコキチェンコ『ケッ、燃料はねぇわ飯もねぇわ、敵は強えわ兵隊はすぐ投
 降するわ、おまけに補充兵も来ねぇときたもんだ。もう最悪よ』
ケツクサーシン「FSBの指揮ではな。奴らは戦争を知らない」
ヘコキチェンコ『まったくだ。戦車のリアクティブアーマーも届かねぇでど
 う戦えってのよ。ないよりゃマシだろうってんで毛布を巻いちゃいるが、
 アメさんのジャベリンて対戦車砲にまぁやられることやられること』
ケツクサーシン「安心しな。オレが指揮を執ることになった」
ヘコキチェンコ『本当かよ?! ……って、そんな重要なこと一般の通信回線で
 しゃべっちゃっていいのかよ。マズくね?』
ケツクサーシン「安心しろ。軍の衛星回線経由だ。通信傍受の心配はない。
 だが、誰にも漏らすな。指揮権が変わったと知れれば敵も警戒する」
ヘコキチェンコ『わかってるって。で、どんな作戦でいくんだ?』
ケツクサーシン「おまえだから話すんだからな。絶対に他人に漏らすなよ。
 周囲に人はいないだろうな」
ヘコキチェンコ『あぁ、大丈夫、オレ一人だ』
ケツクサーシン「おまえの隊を先頭にスケベージャ方面からスカンチマラグ
 ラードに向けて侵攻する」
ヘコキチェンコ『スケベージャから?! おい、本気かよ。敵さんの本丸には
 かなり距離があるぜ』
ケツクサーシン「距離はあるが道路が整備されていて大きな河がない。同時
 にチャバネノスーカヤからも侵攻を開始する」
ヘコキチェンコ『おいおい、距離がありすぎるぜ。兵站は大丈夫か?』
ケツクサーシン「敵の防衛線は手薄だ。一気にタンツーバまで侵攻すればス
 ケベージャに兵站基地を置ける。スケベージャまでなら陸路はもちろん鉄
 道も使えるので補給に問題はない」
ヘコキチェンコ『ははは、さすが将軍様だぜ』
ケツクサーシン「侵攻前にムチムチンスク方面に囮の部隊を集結させ、敵の
 防衛線をそこに集中させる。心して掛かれよ。お前に勲章をくれてやるん
 だからな。インキンポリにもミサイル攻撃を集中させ敵の裏を  
スワリションベンツカヤ「(小声で)将軍」
ケツクサーシン「ン?! どうした?」
スワリションベンツカヤ「お話し中大変申し訳ございません。私用で電話を
 掛けたいのですが、席を外してもよろしいでしょうか?」
ケツクサーシン「あぁ、構わんよ」
 
   目覚まし時計の電子音   止まる。
モラシーチン「(目覚め)ン……、もう10時か」
   スマホの呼び出し音。
モラシーチン「おはよう、スワリションベンツカヤ。珍しいね、仕事中に電
 話をくれるなんて」
スワリションベンツカヤ『モラシーチン、突然でゴメンなさい。単刀直入に
 言うわ。あなたのことは大好きよ。でも、私たち、別れなければならない
 の』
モラシーチン「突然、何を言い出すんだ。何かのドッキリ企画なら悪い冗談
 だぜ」
スワリションベンツカヤ「おぉ、モラシーチン、あなたのことを愛してる
 わ。許してちょうだい。私は自分の将来に夢を持ちたいの」
モラシーチン「どういうことだい?」
スワリションベンツカヤ『いいわ、包み隠さず説明するわ。実はケツクサー
 シン将軍が私を将来有望な青年将校に紹介するって言ってくれたの。私も
 悩んだわ。あなたを愛しているから。でも、~~~~~~~~~~~~~
 ~~~~~~~~~(事の顛末および自分の心情の説明を10倍速で)、と
 いうわけなの。私の勝手だってことはわかっているわ。だけど  
モラシーチン「待って、スワリションベンツカヤ。これ以上の説明は不要だ
 よ。君を手放すのは辛いけど、僕は安月給の一介の電気技師だ。君が将来
 に夢を持てなかったのは僕の責任だ」
スワリションベンツカヤ『おぉ、モラシーチン。愛してるわ』
モラシーチン「ただ、今の君の説明で一つだけ間違っていることがある」
スワリションベンツカヤ『間違い?』
モラシーチン「今度の戦争で  
スワリションベンツカヤ『モラシーチン、私は軍の人間よ。特別軍事作戦と
 言って』
モラシーチン「悪かった。言い直すよ。今度の特別軍事作戦で勝つのは彼ら
 だ」
スワリションベンツカヤ『そんなことないわ』
モラシーチン「君が離れていくのは辛いさ。でも、これは君が君の将来を見
 誤らないための最後の忠告さ。我々に勝利はないよ」
スワリションベンツカヤ『聞いて、モラシーチン。今度の作戦たら凄いの
 よ。先ずね、侵攻前にムチムチンスク方面に囮の部隊を終結させて、敵の
 防衛線をそこに集中させるの。インキンポリにもミサイル攻撃を集中さ
 せ、我が軍がムチムチンスクから侵攻するって敵に思わせるのよ。でも
 ね、本隊はスケベージャとチャバネノスーカヤからスカンチマラグラード
 に向けて侵攻するって作戦なの』
モラシーチン「スケベージャから?!」
スワリションベンツカヤ『そう。誰も予想しないと思うわ』
モラシーチン「はは……、確かに誰も予想できないだろうな。あんな遠いと
 ころから……」
スワリションベンツカヤ『我が軍が勝つのよ』
モラシーチン「君の将来に幸あれ」
スワリションベンツカヤ『おぉ、モラシーチン』
モラシーチン「今日でこの君のベッドともお別れだ。今日は親友と潰れるま
 で、そう、君のことを忘れられるまでウォッカを浴びるよ」
スワリションベンツカヤ『私はあなたのことを一生忘れない』
モラシーチン「家の鍵は玄関マットの下に置いておくよ。さようなら」
   電話の音声が切れる。
   スマホのプッシュオンに続き電話の呼び出し音。
モラシーチン「ゴミステバジョフか。僕だよ。モラシーチンだよ。今日は僕
 の人生最悪の日だ。命の次に、否、命より大事なものを今失った。この悲
 しみを僕一人で背負うのは荷が重過ぎる。あぁ、わかっているよ。その通
 りだ。ゴミステバジョフ、聞いてくれ。今、僕に召集令状が来ても僕は逃
 げない。僕の大事なものを奪った奴らに復讐してやるんだ。だが、その前
 にこの悲しみを大量のウォッカで薄めなくては前に進めないんだよ。わか
 るだろ、ゴミステバジョフ。あぁ、わかっているって。わかっているさ。
 だから、僕とこの悲しみを分かち合って欲しいんだ。この悲しみを分かち
 合えるのは君しかいないんだよ。付き合ってくれるだろう。……親友とは
 ありがたいものだな。あぁ、2丁目だ。2丁目の駅で落ち合おう  
   一方的なモラシーチンの会話、次第にFO。

N(スワリションベンツカヤ)「三日後、国外に拠点を移した国内の独立系
 メディアから、我が軍の最高司令官がケツクサーシン将軍に代わったこと
 がスッぱ抜かれた。あれほど秘密裡にしていたというのに。
 そして、さらに四日後、スケベージャから侵攻を開始した我が軍は、侵攻
 直後に敵防衛部隊の待ち伏せにあい全滅したのです」
 
スワリシュンベンツカヤ「将軍、たった今、大統領府から出仕するよう要請
 がありました」
ケツクサーシン「誰だ? 誰が私の作戦を洩らしたのだ?」
スワリシュンベンツカヤ「将軍、調査報告書が届いております。指揮官の交
 代も作戦内容も、一週間ほど前に2丁目の安酒場あたりから洩れ広がった
 ようだす」
ケツクサーシン「一週間前?! 先週の月曜日。というと……、丁度、タチショ
 ンスキーが私に指揮官就任の要請しに来た日……」 
スワリションベンツカヤ「まさか、SFBが?!」
ケツクサーシン「クソッ、嵌められた!」
スワリションベンツカヤ「将軍!」
ケツクサーシン「考えてみれば、FSBの尻拭いをFSBの人間が私に要請に来る
 こと自体を怪しむべきであった。FSBの失敗を薄めるために私は嵌められ
 たのだ。トップシークレットの作戦内容を部外者に事細かく洩らし、人々
 の噂話として拡散させるとは、いかにもFSBのやりそうな姑息な手だ」
スワリションベンツカヤ「ここで知り得た情報を部外者に洩らすなんて、な
 んという卑劣な反逆者」
ケツクサーシン「我が事だけなら我慢もしよう。だが偉大なる我が祖国を蝕
 む獅子身中の巨大な虫は断じて許せん。スワリションベンツカヤ、銃を持
 て!」
スワリションベンツカヤ「は!」
 
   足早に廊下を歩く踵の音。
   重厚なドアが開く。
タチションスキー「将軍閣下、突然どうされました?」
ケツクサーシン「未だ白を切るつもりか、タチションスキー」
タチションスキー「しょ、将軍、何故私に銃を向けるのです?!」
ケツクサーシン「我が偉大なる祖国を蝕む巨悪に愛国の鉄槌を下す……」
タチシヨンスキー「何をおっしゃっているのですか。(叫ぶ)誰か、誰か将軍を  
   室内に響き渡る銃声。
   銃声の余韻、いつまでも。
 
                              了
 

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