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腎臓結石の疑いがあって念のため紅茶を控えるように言われたそのとき、食品研究者の私の頭に思い浮かんだ一抹の不安と疑念を言葉に残しておく
プロローグ
先日の人間ドックで、エコーの結果腎結石の疑いというという、絶対その先の尿路結石に進みたくないという状況に追い込まれ、泌尿器科に駆け込んだのですが、再確認したらなんら問題ないとのこと。ふー。
医「でも小さいのが見えなくもないので、普段から水分摂取を意識するのと、シュウ酸を多く含むほうれん草とか紅茶は摂りすぎないようにしてくださいね。」
ほー、シュウ酸ですか。気をつけよう、うんうん。
しかし、私の中である疑問が生まれます。
なんで紅茶なん??
紅茶がダメって言われた人はその裏側にある(緑茶やハーブティーはOK)という読み取り方をするでしょう。
でも、本当にそうなのか?そもそもなぜ紅茶にシュウ酸が多いのか?
私の頭に思い浮かんだことを言語化してみます。
紅茶とは何かのおさらい
紅茶、烏龍茶、緑茶はそれぞれ同じ種の植物(チャノキ:Camellia sinensis)であり、それぞれに適した品種はありながらも基本な違いは酸化工程の有無のみ。
ちなみに、緑茶は発酵(この場合酸化)しないもの、烏龍茶は半発酵、紅茶は完全発酵と私は教わったのですが、それは明確に誤りだったことをTwitterでご指摘いただき、一つ賢くなりました↓
お茶の分類や製法に関して、間違っていたところがあり訂正くださったので共有します🙇♂️
— じゃぐ@食品研究 (@food_juggle) February 7, 2022
紅茶と烏龍茶が発酵度で変わるってよく聞くし、本でも見かけるのに、ISOではそんなこと一言も書いていないそうで、、とても勉強になりました。過去の記事も後日修正します!
こういうご意見とても助かります💦 https://t.co/TPiuPkFDO8
考えられるパターン
さて、とりあえず原料の種が同じなら何が違うのか?なぜシュウ酸の多いものとして紅茶だけが指摘されるのか?
ここから考えられる可能性として思い浮かんだのがこの四つ。
・紅茶に使われる品種にシュウ酸が多い
・酸化工程でシュウ酸が増える
・紅茶の抽出条件(高温)による
・実は緑茶やウーロンも避けるべき
どれが真実か検討すべく
・KEGGでシュウ酸の生成経路を調べる
・FooDBで成分量を調べる
などによって、明らかにすることができそうです。
生成経路などメカニズム云々(つまりWhy)も気にはなりますが、まずは事実として紅茶だけに多いのか(つまりWhat)を確かめてみました。
食品成分データベースを見る
まずシュウ酸は普通の栄養素ではないので、食品標準成分表などに記載はありません。なので、個別に調べる必要があります。
色々ツールはあるのですが今回はFooDBというものを使ってみました。
まずは紅茶
https://foodb.ca/foods/FOOD00907
シュウ酸= oxalic acid
609.600 mg/100 g
続いて緑茶
https://foodb.ca/foods/FOOD00908
609.600 mg/100 g
![](https://assets.st-note.com/img/1686966491656-YyXw4EPDqm.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1686966467667-14VGLKAAAB.jpg?width=800)
同じやん
てか一致しすぎていて、まともに検証してるかも怪しい。
もう一つくらい探してみるか、と思ってアドバイスをもらったのが尿路結石関連のガイドライン。
![](https://assets.st-note.com/img/1686966789765-PDZi3AZjhh.jpg?width=800)
いや、普通に緑茶にも入ってるって書いてる。
ということで、紅茶だけではなく緑茶(おそらく烏龍茶)にも気をつけた方が良さそうです。メカニズムを探るまでもなさそうです。
緑茶の種類でなぜ違うのか
ちょっとだけ深掘り。
先ほどのガイドラインにありましたが、緑茶の種類によって多少違いがありそう。ほうじ茶にすくないですね。
その理由もこちらにありました↓
加熱による昇華かと思いましたが、Twitterで親切にもその説に対して否定されてる文献をご紹介いただき、結局使用部位の違いなどの可能性が高そうということがわかりました。
面白いですね!
— S.Goto (@hydrocotyle) April 1, 2023
カフェインについては熱で昇華するみたいです。https://t.co/PNfAGiNrDG
シュウ酸については、「製造方法法ではなく、原料のシュウ酸含有量が少ない」とする論文を見つけました。(火入による可能性を考慮して実験してみたけど、減少しなかったようです。)https://t.co/oR12KgtFlm
ちなみに玉露に多いですが、大量にゴクゴク飲むことはまずないですし、量を鑑みるに特段気にする必要はないかと。
ちなみに上の文献など見てみると、茶葉そのものだけでなく抽出してもやはり普通にシュウ酸は飲料中に溶出するようなので、緑茶抽出液でもやはりシュウ酸は入っていそうです。
なぜ紅茶が悪者になったのか
最後に、なぜシュウ酸といえば紅茶になったのか?
これはあくまで私の想像ですが、この以下の文にヒントが隠されていると思っています。
一方,お茶や紅茶,コーヒーは多くの日本人が毎日飲んでいる。東欧からの報告でシュウ酸カルシウム結石の患者の食事由来のシュウ酸について,その80〜85%は紅茶やコーヒーであったとされ4),嗜好品としてのお茶類の摂取には,注意をする必要がある。
つまり・・・
まず紅茶摂取量と尿路結石に関する疫学研究の結果紅茶がおそらく悪いだろうとなり、確かにシュウ酸も多いので避けるべきだと、
しかし、この研究がなされた地域では緑茶を飲む文化がなかったためそもそも紅茶の研究しかできなかった、
なので、緑茶摂取量と尿路結石の関係性を考察するための疫学研究自体が単純に存在しない、
ただし、緑茶にもシュウ酸は紅茶並みに入ってはいる。
という流れでしょうか。想像ですが。
結論、緑茶にも気をつけてみる
ということですが、尿路結石自体は2リットル以上の水分摂取が推奨されています↓
水分摂取は再発予防に対して有効である。再発予防には1 日尿量2,000 mL 以上となるように水分を摂取することが必要であり,そのため食事以外に1 日2,000 mL 以上の飲水を指導する。
緑茶も紅茶も烏龍茶も飲めないのに2リットルはキツいですね・・有糖飲料もここまでの量習慣的に飲むのは良くないでしょうし、結果水(炭酸水)か麦茶ですかねぇ。ほうじ茶も好きだからたまに挟むことにしよう。
ま、結果再検査でなんともなかったのでそんな気にすることはなさそうなんですけどね。
このコラムを書くきっかけになったツイート
以前人間ドックで腎臓結石の疑いが出たので気をつけるべき食生活を調べたら、避けるべきシュウ酸を多く含む飲食物の一例として、紅茶が挙げられていました。
— じゃぐ@食品研究 (@food_juggle) March 30, 2023
じゃあ紅茶を避けよう、で終わるところなのですが、そこは食品科学に従事するものなので一歩立ち止まったわけです。…
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