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イトリアの谷の食卓から 第218回

日本のCovidー19陽性者数がイタリアと比べてあまりにも少ないことを知るとこちらの人々は皆、目を丸くして絶句するほど驚きます。
今週に入り1日の感染者数2万人越えで最多記録を更新してしまいました。首相令に加えイタリア各州がそれぞれの感染予防対策を強化しています。基本的に夜は外に出るなという命令です。小売店の営業は許可されていますが、飲食店は店内のサービスは昼のみ、夜はテイクアウトのみ可となりました。娘の通う高校ではこれから1ヶ月登校は週一度、それ以外はリモート授業に切り替わりました。ナポリやトリノの都心部では規制強化に反発する暴動が起こったというニュースも聞こえてきます。クリスマスに向けてなんとか状況が良くなればと皆が思っていますが、ここが踏ん張りどころです。

とは言え通常も冬の夜はひっそりとしている田舎町チステルニーノではほとんど目に見える変化はありません。この地域では経済的にも文化的にも大きなインパクトを持つオリーヴの収穫が今年も変わらず忙しい時期を迎えています。
とりあえずそちらの方が大事とも言えます。我が家でも1週間かけてやっと終
わりました。収穫したその日のうちに圧搾されたオリーヴのしぼりたての香りと輝く様な緑色は作業の疲れを吹き飛ばすだけの価値があります。樹齢
数百年の巨木が今でもこれだけの恵みを与えてくれていることに改めて驚きと有り難みを感じています。

我が家ではオリーヴの収穫時期はバッカラ(干し塩ダラ)を食べる習慣があります。スカンジナビアから輸入されている保存食で、イタリア、ポルトガル、スペインなどでもよく食べられています。プーリアでは流通が発達した現在でも生のタラはみかけません。逆に日本では生タラの方が一般的で棒鱈は高級品になっていますね。数日間毎日水をかえて塩抜きした切り身をジャガイモと一緒にオーブン焼きにしたり、粉をふって一度揚げたものをトマトソースで煮込んでパスタと一緒に食べたり、フリットにしたりして食べます。バッカラも元々は中世の頃にスカンジナビアのバイキング達が持ってきた食べ物なのでしょう。不思議なことに海に囲まれたプーリアで魚の干物を食する習慣はこのバッカラ以外ありません。新鮮なアジも取れますが、アジの干物の美
味しさは可哀想なことに多くのプーリア人は知らないのです。生魚を食べる習慣があると言っても伝統的には海辺の地域に限定されて、基本的には肉文化の土地柄です。バッカラほど塩まみれで硬く乾燥していると匂いも魚感もほとんどありませんが、干物の様な半生で独特の匂いに抵抗がある様です。納豆やこんにゃくと並んでイタリア人にとって未知の食材と言えるでしょう。もちろん他に美味しいものがたくさんあるのでわざわざ生魚を加工して食する必要性がなかったからと言ってしまえばそれまでですが、イタリアの食文化が世界中に浸透しているのも食に保守的なイタリア人が移り住む先々で自分たちの口に合う食べ物を自分たちのために作り続けたおかげとも言えるでしょうか。

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