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空の雲フーの幸せレシピ 第6話

「本当に?うれしい!じゃあ言うね」

エミリはフーに、スープの説明を始めました。

「ママの作るスープはね、いつも野菜が入ってるよ。玉ねぎとトマト、それに、鶏肉。

いつも同じじゃないけど、いつも美味しいの。」

フーは聞き漏らさないように、目を閉じて聞いていました。
「フムフム、野菜と肉ね。これが入ると美味しいスープができるんだ。」

「それからお塩とコショウを少しずつ。」

「塩とコショウね!わかったよ!」

「入れるのは、ふつうの塩じゃないのよ。うちのお塩は特別な塩。料理人のパパの手作りなんだから。これを入れるとスープが本当に美味しくなるの!」

エミリは胸をはって言いました。

フーはそれを聞き終わると、目を開けました。頭の中でスープのイメージがどんどん出来上がっていきます。

すると、胸に付けたバッジが、ピカーンと光りました。

フーとエミリは驚いてそのバッジの方を見ました。すると、一筋の光がバッジから出ているではありませんか。その光は冷蔵庫の方を指しています。

フーとエミリは冷蔵庫を開けて中をのぞきこみました。

冷蔵庫の棚には、エミリのママが買っておいた鶏の手羽先が、透明の包みに入って置いてあるのが見えます。

お肉が鶏の手の先っぽの形になっていたので、エミリには何の肉だかすぐにわかりました。

「このお肉、ママがよくスープに使ってる!冷えるとプルプルに固まる面白いスープができるのよ」

「じゃあ、これをスープに入れよう。」

フーがそう言った次の瞬間、バッジがひときわ輝きました。
そして、光は少しずつ動いていき、冷蔵庫の下の方を指しています。

「ここには何が入ってるの?」とフーは聞きました。

「これは冷凍庫よ。中に入っている食べ物は何でも冷たくなって、カチンコチンに固まるの。」

フーとエミリは冷凍庫を開けました。ヒューっと冷たい空気が流れてきます。

顔を近づけてみると、中には、透明の袋に入った色とりどりの食べ物が並んでいました。肉、魚、野菜…野菜!!

野菜が入っているとはびっくりです。エミリはママとパパが、生の野菜を切って料理に入れているところしか知りませんでした。

でも冷凍庫を良く見てみると、玉ねぎとトマトがそれぞれ細かく切ってあって、ビニール袋に入れてあります。

フーとエミリは顔を見合わせてにっこり!

二人は小さく切って凍らせたトマトと玉ねぎを1袋ずつ手に取りました。

フーのバッジがまたピカッと光りました。

これでスープに入れる具はそろいました。

フーは材料を全て包みから取り出して、グツグツいっている鍋の中にそっと入れました。

エミリはテーブルのそばで、フーの様子をジーっと見守っています。

お鍋のお湯がぐつぐつ言い出しました。

エミリは小さなイスをストーブのそばに持ってきて、ララを抱き上げました。

小さなイスの上に立ったエミリは、ララと一緒にお鍋の中をのぞきこんで言いました。「ほうら、ララ。スープがだんだんできてきたよ。」

ララは鍋の方を見て、鼻をヒクヒクさせて思いました。(ふうん、これがスープってものなのね。)

フーは続けて、塩とコショウも入れました。

塩はエミリの言っていた特別な塩を使いました。

ローズマリーなどのハーブを数種類乾かして細かく砕いたものが入っている、とっておきのお塩です。お父さんが毎年たくさん作って、家でもキャンプ場の食堂でも使っています。

塩コショウが入れば、あとはスープが煮えるのを待つだけです。

エミリもフーも、一仕事を終えてホッとしました。

エミリは台所の中央にある大きな椅子に座りました。フーも隣にやってきました。

お鍋は、相変わらずグツグツ言っています。

「火から目をはなしちゃいけないよって、パパがいつも言ってるわ」
エミリはそう言って、テーブルに頬杖をつきながら、お鍋とその下の薪ストーブの燃える炎を見比べていました。

部屋の中には、お鍋から出た湯気と熱気が満ち始めました。すると不思議なことが起こりました。

キッチン全体がだんだん真っ白くなっていったのです。目の前にある黒いストーブは、湯気でまったく見えなくなりました。

えみりもフーは、霧の中にいるように、自分たちがどこにいるのか分からなくなりました。

目を開けていても閉じていても、景色が変わらない、、、。そんな時間が過ぎていきました。

ふと気が付くと、白い湯気がすっかり晴れて、二人は、キッチンとは別な場所にいることが分かりました。

そこは、氷でできたりっぱな宮殿の中でした。床も壁も天井も、すべてが氷でできています。

広間の奥には、氷でできた大きな椅子があり、そこにはりっぱな服を来て頭に冠を被った男の人と女の人が並んで座っていました。

フーが「王様と王妃様がいる」というと、エミリはツバをゴクリと飲み込んで、うなずきました。

すると、

「もっと近くに!」

と座っている男の人の、大きくて太い声がしました。

二人が言われた通り近くに行くと、その人は言いました。

「私は夢の国の王である。私と妻は寒くて、凍えそうじゃ。お前たち、何か美味しくて温かい食べ物を持ってまいれ」

フーとエミリは顔を見合わせて言いました。
「それでは、スープを作ってお持ちします!」

そう言って、二人は広間を出て台所を探しました。

それは広間のすぐ隣にあったのですぐに見つかりました。

そこは、エミリの台所よりもずっと広い所でしたが、何しろ寒くて大変です。二人は歯をガチガチ鳴らしながら材料を探しました。

「今度は私がスープをつくる!」

と、エミリは言いました。さっきフーが作ったスープを、どうしても自分で作ってみたくなったのです。

食糧庫の中を探すと、たくさんの食べ物が置いてあります。にんじん、じゃがいも、そら豆、豚肉、魚、チーズ。どれもちょうど良い大きさに切ってあります。

でも、エミリはそれには見向きもしませんでした。

「さっきと同じスープを作りたい!」そう思って、エミリはもっとよく食糧庫を探しました。

今回はフーのバッジは光りません。でも、エミリは、さっきお母さんのために作ったスープに何を入れたか、全部覚えていました。

エミリはとうとう、鶏の手羽肉と、小さく切ってある玉ねぎトマトを見つけ出しました。

それを、包みから取り出して、かまどに置いてあった大きな鍋に水と一緒に入れました。

すると、不思議なこことに、かまどの火が勝手につきました。

スープはぐつぐつ煮え始めました。エミリは塩コショウを探しました。コショウはすぐに見つかりました。でも、いくら探してもローズマリー塩だけは見つかりません。

「どうしよう。ローズマリー塩が秘密の味付けなのに。」

エミリは仕方なく、そばにあった普通の塩を入れました。

やがてスープの熱気で、部屋が暖かくなってきました。すると、どうでしょう!

氷でできた台所の天井と壁とから、ポタポ水が落ちてきました。大変!部屋が溶け出した!

ふたりは慌てて鍋を部屋から持ち出して、王様と王妃様のいる部屋に持って生きました。

すると、どこからともなく、召使たちが現れてテーブルを用意し、エミリが作ったスープを小皿に盛りました。

召使いは、王様とお妃様をテーブルにお招きして、

「スープでございます!」と、大きな声で言いました。

エミリは急いで付け加えました。
「私、エミリが作りました!」

席に着いた王様は、「おお、待っていたぞ!」と言って、スープをスプーンですくって飲みました。

スープを口に入れた王様は、3秒間黙って目を閉じました。

そして次の瞬間「うーん、うまい!」と言って、ごくごくとスープを飲み干しました。

「ああ、温まった!」

王様が美味しそうにスープを飲むのを見ていた王妃様も、少しずつスープを飲み始めました。そして言いました。

「確かにおいしいわ。でも、エミリ、味が少しシンプルね。何か付け加えることはできるのかしら?」

エミリは、このスープに、ローズマリーソルトを入れられなかったことを思い出しました。

「王妃様、パパが作る特別なローズマリー塩があれば、もっと美味しくなります。今から取って来れたらいいのですが、、。」

王妃様はそれを聞いて、「ローズマリー塩!それはめずらしい。この宮殿の食料庫にも、それを用意しましょう。」

王妃様は手をパン!と打ち鳴らしました。

すると、グラグラグラ~!と地面が揺れ出しました。

そして、地面がパカっと割れました。地面の中はマシュマロでできた滑り台のように柔らかです。

王妃様は言いました。

「さあ、お前達の国に帰って、ローズマリー塩とやらを持って帰ってきておくれ!」

「わかりました!」とエミリは答えました。

すると、召使いたちがやってきて、フーとエミリを地面の割れ目に座らせて、斜面の上から押しました。

2人は、地面を滑り、暗い地中に吸い込まれていきました。

つづく

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