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バカ尾根・・体調判断ルート

丹沢山塊の塔ノ岳に突き上げる大倉尾根は別名バカ尾根と呼ばれ、丹沢入門ルートの最もメジャーなルートの一つである。

誰が言ったのかは不明だがバカ尾根という呼び名の発祥は「バカみたいに長い尾根」という意味だと聞いたことがあるが、確かに50年前は登山ブームの影響で山肌の植生衰退による裸地化と土壌流出により赤土の急斜面となっていて雨の後はツルツルの斜面に苦労して泥だらけになるバカみたいな尾根であった。

中学生の頃には雨上がりで何メートルも滑り落ちてそのままではバスにも電車にも乗れないほど赤土まみれになったり、天気の良い日は隠れる日陰もない炎天下に熱中症になり途中で下山したり、また、高校生になると40キロの荷物を背負った歩荷訓練でヘバッたりとたくさんの思い出の詰まった尾根だ。

その後、平成に入ると自然公園管理事務所による木製階段の整備や、保全計画による緑化事業や森林再生活動が行われて現在では昔の赤土の斜面の面影は大分解消されたが、最近では増えたシカの影響で夏にはヒルが発生して怖がられている。

2018年6月の心臓梗塞の手術から半年経過した2018年末、そろそろリハビリ登山を始めようと考えた時に迷いもなく頭に浮かんだのがバカ尾根だった。
2019年1月から暑くなり始める頃まで毎月一度通うバカ尾根が、リハビリ登山のスタートであり自分の体調の判断基準ルートになった。

訂正

主治医である世界的な心臓外科医の南和友先生のアドバイスを守り心拍数120を目途に歩きたかったが、さすがに登山道ではゆっくり歩いてもすぐに120を超えてしまうので、ガーミンのフェニックス6サファイヤというウエアブルウオッチで心拍数をリアルタイムで管理をしながら「心拍数の平均が130を目標にし150を超えたら立ち止まり下がるのを待つ」という自己規制をかけて歩くことにした。
そして水分補給をこまめにし脱水には注意をした。

2020年10月2日、暑かった夏も終わって涼しくなりヒルも少なくなった頃を見計らってリハビリを始めてから5回目、今年の春に続いて今年二度目のバカ尾根に向かった。

目が覚めると4時。
もし目が覚めたら午前中に久しぶりのバカ尾根トレーニングに行こうと思っていたら、ぴったり目が覚めた...高校の山岳部時代から培われた身体に沁みついたクセのようなものかもしれない。

寝息を立てている家内を起こさないようにザックとハイキングシューズを持って家を出る。
途中のコンビニでコーヒーとサンドイッチと炭酸水3本を買って、秦野の大倉登山口まで車で一時間。
昔からお世話になっている「どんぐり山荘」の駐車場に車を停めて平日駐車料の5百円の入った封筒をポストに入れる。

6時、朝日の昇り始めた大倉を出発。
まだ一番バスが到着するまで一時間ほどある。

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綺麗な朝焼けの中、緩やかな舗装道路を登ると陶芸所を過ぎて石畳の道になり次第にえぐれた暗い山道になる。
手首の心拍計を確認しながら130から140の間を目途に歩くが歩き始めはいつも心拍数が上がりやすい。
朝日の射し込み始めた杉林の斜面を巻きながら緩く登り始める。鹿が斜面で草を食んでいる。

大観峰への分岐を過ぎ山腹を巻きながら登り小さな観音様のある観音茶屋を過ぎてさらに登ると尾根に飛び出し大観峰からの道を合わせ6時30分ベンチのある「雑事炊の平」に着く。登りはじめはゆっくりと息を整えながらここまで約30分ほどの距離だ。

明るく広く開けた平らな道を次の登りに備えてゆっくり有料トイレのある「見晴らし茶屋」に着く。
茶屋のすぐ裏手から距離は短いが急登が始まる。

心拍数に注意しながら岩交じりの急坂から丸太の階段を上り、丸太の土留めのある緩やかな斜面を登ってくと両側はブナやミズナラ、モミジの疎林となり木々の間から少しづつ景色が開けてくる。この辺りは新緑の頃も紅葉の頃もとっても気持ちの良い場所だ。

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6時50分、一本松の標識を過ぎると短い急登りが終わり明るく平らな尾根をしばらく歩き、短い丸太の階段を登りきると7時駒止茶屋。

ここから木道の緩やかな尾根が続き表尾根の景色が広がり始める。
この辺りになると身体も慣れてきて平坦で広い尾根を速足で進み、少し下って鞍部を過ぎると7時15分管理人の常駐している「堀山の家」に着く。
ここまでがバカ尾根の前半と思えばわかりやすい。短い急登と明るく平らな道が交互に続くので心拍数の管理もしやすく登りやすい。

堀山の家を過ぎると尾根が狭まり両側の崩れた崩壊地を過ぎ、いよいよバカ尾根の急登が始まる。岩礫交じりの急坂を登って長い丸太の階段を一気に登り切ると戸沢への天神尾根への分岐点に出る、7時35分。
分岐点の上にベンチのある休憩所がある。

ベンチから平らに敷かれた木道を少し歩くと急な木の階段になる。
木の階段は意外と歩きやすいが幅が狭いので混んでいるときにはすれ違いに苦労する。
階段が終わると丸太の土留めのある斜面となり、さらに岩交じりの急坂となる。この辺りは50年前には捕まるところもない一面の赤土の斜面で雨後には苦労したところであるが現在は植樹により木が茂っている。

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50年前の記憶にも明確に残っている斜面を塞ぐ大岩を左から巻くと花立小屋に続く丸太の長い階段が始まる。
そろそろ疲れが出始める頃でこの階段は一番の頑張り処でもある。
そして階段の上に飛び出した枝には夏の間、花立小屋の「氷」ののぼりがはためく。まさに天国への階段なのである。

小屋からは西側が開け天気の良い日には富士山が美しいが今日は雲がかかっている。
小屋から石交じりの土の斜面を登り切ると広く開けた景色の良い花立に出る。8時。堀山の家から約45分、ここまで登ればバカ尾根の急な登りも核心部を過ぎる。

花立から水平な木道を進むとすぐに下り気味の痩せ尾根になり、尾根が崩壊して鉄パイプの階段と橋のある馬の背を超えると鍋割山からの道が合流する金冷し。
花立から先は夏でも冬でも急に気温が下がり、冬は凍結や積雪が残っている場合が多いので注意が必要。

金冷やしからは間近に望む塔の岳の山頂に向かって丸太の階段から水平な木道、そして最後は頂上に続く木の階段を最後のひと登りすると8時20分、1491メートルの塔ノ岳山頂に飛び出した。

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頂上の尊仏小屋で恒例のインスタントのホットコーヒーを一杯飲んでチョコレートをひとかけら食べながら休憩。
通年営業なのでいつ来ても温かいコーヒーが飲める。

一休みして8時45分、山頂を発つ。
下るにつれてバスで着いた登山者が少しずつ多くなってくるので階段のすれ違いには気を付ける。
老若男女で一年中賑やかなバカ尾根になんだかホッとさせられる。

下りは心拍数も気にせず平らなところは小走りで急ぎ約一時間9時45分に見晴茶屋を過ぎる。
雑地場の平から最後の坂を下りきって舗装道路に出てからはのんびり歩いて10時15分駐車場に戻った。

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横浜の自宅の昼食に間に合いそうだ。午後はジムに行こう。

今日は大倉バス停から頂上まで上り2時間20分。
昨年1月の最初のリハビリ登山では3時間5分、2月は3時間、3月は2時間45分、そして今年の3月は2時間25分だったので着実に心臓も回復してきているようだ。
今回はほとんど立ち止まることもなく休憩も取らず登り切った。

下りも1時間30分。
これも昨年1月は2時間、2月は1時間50分、3月は1時間45分、今年2月は1時間35分ので少しずつ短縮はされているようだ。

頂上での休憩を除いて標高差1200m、往復3時間50分...
地図の標準タイム上り3時間30分、下り2時間20分、往復5時間50分と比べると約65%のタイムだった。
エベレスト前には往復3時間ちょっとだったのでマアマアかな。
これ以上はトレランの世界なので...。

心臓も苦しくなることも痛むこともなくしっかり動いてくれたようだ。
通いなれたバカ尾根でも...今の自分にとっては小さな冒険。
人それぞれの小さな冒険の中に人生があるんですね。

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