【書評】ドリルを売るには穴を売れ
『ドリルを売るには穴を売れ』という本を読みました。
マーケティング入門書として勉強になる本だったので、その概要と学んだことを書きます。
読んだ理由
僕は今、スマホのゲームプランナーをやっています。
「ゲームプランナー」という括りでは職種は開発職になりますが、「スマホのゲームプランナー」という括りでは、マネタイズなどのビジネス的な観点も踏まえながら企画や仕様を考える必要があります。
そうなると、どうしても「マーケティング」という知識が必要になるのですが、マーケティングをちゃんと学ぼう!と思って『ドリルを売るには穴を売れ』を読みました。
結論としては、
この本に書かれている内容は普段から考えていることではあったのですが、それを理論として学ぶことができたので、より「マーケティングとは具体的にはこうだ」とマーケティングに対する認識を深めることができました。
マーケティングの基本は、たった4つ覚えておけばよい
この本は、マーケティングの基本的な理論の説明と、その理論をどのように活用すれば良いかをストーリー仕立てで説明した本です。
ベースとなるストーリーは、「とあるOLが経営の厳しいイタリアンレストランのオーナーになり、マーケティング理論を駆使することでレストランを再生させる」というもの。
なので、ドリルを売る話ではありません。
多くの人にとって、ドリルよりももっと身近なレストランの話なので、実務のイメージがとても湧きやすい内容になっています。
マーケティングの基本的な理論については、著者は「たった4つ覚えれば良い!」とシンプルにまとめています。
その4つの理論は以下。
1. ベネフィット―――顧客にとっての価値
2. セグメンテーションとターゲティング―――顧客を分けて絞る
3. 差別化―――競合よりも高い価値を提供する
4. 4P―――価値を実現するための製品・価格・販路・広告
これらの理論について、概要を記載していきます。
1. ベネフィット
ベネフィットは、日本語で言うなら「価値」にあたります。
企業は、顧客に対して「価値」を提供していますが、この「価値」を正確に捉えないと、モノは売れません。
ここで本の題名の内容が例として挙がっていますが、自分がドリルを売っている場合、顧客にとっての価値は「穴が開くこと」で、「ドリル」ではありません。
そして、本書ではその「ベネフィット」をさらに「機能的ベネフィット」と「情緒的ベネフィット」という言葉で細分化していました。
これは例を見れば分かりやすいと思います。
「ルイ・ヴィトンのバッグ」なら、
・機能的ベネフィット・・・収納力が高い、持ちやすい、壊れにくい
・情緒的ベネフィット・・・カッコいい、セレブリティ感、優越感
「腕時計」なら、
・機能的ベネフィット・・・時間が分かる
・情緒的ベネフィット・・・好みのファッションスタイルを実現できる
「ソーシャルゲームのSSRキャラクター」なら、
・機能的ベネフィット・・・強いボスを倒せる
・情緒的ベネフィット・・・強さを誇示して優越感に浸れる、他の大多数は持っていないキャラクターを持っているという優越感
本書のストーリーでは、イタリアンレストランのベネフィットに
・機能的ベネフィット・・・イタリアン料理を食べられる
・情緒的ベネフィット・・・仕事の悩みを忘れてリフレッシュ、都会の中のオアシス、シチリアの太陽のエネルギーで元気をチャージ
というベネフィットを持たせていました。
2. セグメンテーションとターゲティング
創出したベネフィットを、誰に売るのか?
それを決めるために、セグメンテーションとターゲティングという考え方が必要です。
セグメンテーションとは「顧客を分類すること」で、ターゲティングとは「分類した顧客のうち、どの層に向けて売るかを決めること」です。
セグメンテーションでよく聞くのは、「20代女性」や「50代男性」など、性別や年代でセグメントを分けるやり方ですね。
また、商品によってはベネフィット別に顧客をセグメント分けすることもできます。
本書の例では、腕時計を取り上げて、顧客を「時間が分かれば十分」層、「デザイン重視」層、「ブランド重視」層などに分けていました。
このようにして顧客を分類した後、どの層に対して商品を売るのかを決めるのがターゲティングです。
筆者は、ターゲット顧客を決める際に「市場が十分に大きいこと」、「競合はどれくらいいて、自社の強みは何かを把握すること」、「価値の必要度がどれくらい高いかを把握すること」が大事だと説いています。
また、本書内のイタリアンレストランでは、ターゲットを
・ランチタイム・・・20代後半の女性を中心としたビジネスパーソン
・午後・・・主婦、有閑マダム
・夜・・・20代後半の女性を中心としたビジネスパーソンのグループ
としていました。
こうして見ると、店舗経営では時間帯によってセグメントを分けることもできるということですね。
3. 差別化
価値とターゲットが決まったとしても、商品が売れる保証はありません。
なぜなら、競合商品がたくさんあるからです。
色んな市場で色んな商品が売られていますが、その中で自社の商品が売れるかどうかは、シンプルに「競合より高い価値を提供できるか?」になります。
競合より高い価値を提供できるかを考え、その価値を磨いていくことが差別化ということになります。
ではどのように差別化を図っていけば良いのか?ということですが、本書では3つの軸で考えると良い、と書かれていました。
1. 手軽軸
→価格が安い、早く商品を受け取れる、物理的な距離が近い
2. 商品軸
→壊れにくい、独自性がある、雰囲気が好み、最新技術を使っている
3. 密着軸
→自分の好みを分かってくれる
本書内のイタリアンレストランでは、
・商品軸・・・シチリアに特化した料理、他店にはない特徴的なメニュー
・密着軸・・・従業員の明るい、陽気な対応
このように差別化を図っていました。
4. 4P
これまでの3つの理論で、
「ターゲットが求めるベネフィットに対して、どのような軸で競合との差別化を図り、顧客に価値を提供するのか?」
というところまで来ました。
その価値を具体的な形として現実化する方法が、4Pになります。
・Product―――製品・サービス
・Promotion―――広告・販促
・Place―――流通・チャネル
・Price―――価格
これらを深く掘り下げると、それぞれで相当なやり方があるので割愛しますが、筆者が特に重要だと言っていたのは「4Pのそれぞれに一貫性を持って価値を届けること」でした。
例えばコーヒーを考えてみます。
「優雅な落ち着いたひととき」という価値を、「コーヒー」をProductとして届けたいなら、パッケージは「茶色や黒を貴重としたデザイン」だったり、価格も相応に高くする必要があります。
そしてこのコーヒーを激安価格のスーパーに置くよりは、価格帯が高いスーパーに置く方が良いでしょう。
この4Pがちぐはぐになると、顧客にとっては「結局これは何が言いたい商品なの?」と価値が届きませんし、そもそも購買に繋がりません。
一貫性が大事、ということです。
ちなみに、本書内のイタリアンレストランでは、
・店名を「そーれ・しちりあーの」とする
・太陽をイメージした「ピッツァ・デル・ソーレ(太陽のピッツァ)」を看板メニューとする
・5回来店すると、サービスで搾りたてのオレンジジュースをプレゼントする
などを設計していました。
感想・学んだこと
▼どういう所が良かった?
個人的に良かった所は2つあります。
1つは、基礎的な理論が分かりやすくまとまっているところです。
本書を通じて大切な理論は4つしかなかったですし、それぞれ図解されていたので、「こういうことね」と理解がしやすいです。
2つ目は、4つの理論をどのようにして実務に応用するかを、ストーリー仕立てで説明しているところです。
結局は自分の仕事に活かせないと意味が無いわけですが、そのシミュレートを本書内のストーリーでしてくれたことで、「自分が扱っている商材の場合は、こうやって考えていけば良さそうだな」という想起がしやすかったです。
そういう意味で、とても優しい本でした。
▼学んだこと
学んだことは2つありました。
1つは、「マーケティング」をするには具体的に何をすれば良いかが分かったことです。
本書を通して4つの理論でまとめてくれたことで、「ベネフィットを創出する、ターゲット顧客を決める、差別化を図る、4Pを設計する」と、マーケティングに対しての認識が具体的になりました。
2つ目は、モノの価値の見方が分かったことです。
この本を読む以前も「価値」という言葉は使ってきましたが、そのフワッとした言葉を、「機能的ベネフィット」と「情緒的ベネフィット」という言葉で定義付けしてくれたことで、あらゆる商品の価値の見方が分かるようになりました。
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