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顧客ポートフォリオ

顧客ポートフォリオというものは重要です。
つまり、特許事務所が大企業をメイン顧客とするのか、中小企業をメイン顧客とするのか、はたまたそれらをバランスよく持つのか。

それぞれのメリット・デメリットを考えていきましょう。

1.大企業が顧客の場合

皆さんご存知の通り、大企業からは毎月たくさんの特許が出願されます。
したがって、大企業の顧客を持つと日々の仕事には困らなくなります。
つまり、営業活動を行わなくてもよくなり、明細書の作成等の弁理士本来の業務に集中することができます

また、顧客側にも弁理士がいることが多く、高度なサービスの提供を求められるので、その期待に応じることで特許事務所の弁理士の実務能力はかなり向上することでしょう。

一方、特許事務所としてはその大企業からの新規依頼がストップしたときのことを考えないといけません。
その大企業に雇用されている場合には労働者として労働基準法等で守られますが、企業の依頼を受けている特許事務所を守ってくれる法律はありません(たぶん)。特許事務所が下請法で守られた、ということも聞いたことがありません。

「月10本は出願依頼を行う。契約期間は1年で、お互い何も言わなければ自動更新」みたいな契約は大企業と特許事務所との間であるんでしょうか?おそらく無いでしょうし、仮にあったとしても契約にはたいてい解除条項があったり、契約期間の終わりにバイバイされたらおしまいです。
そのような契約が無い場合には、新規依頼が無くフェードアウトされるだけになります。

大企業2社に依存していて、1社からの依頼がストップしたことで特許事務所が潰れた、という話を風の噂で複数聞いたことがあります。

また、新規依頼のストップだけではなく、単価を引き下げられるリスクにも気をつけなければいけません。

2.中小企業が顧客の場合

次に、中小企業がメイン顧客の場合を考えていきましょう。

中小企業の場合、その依頼が初めての出願ということも多いでしょう。次の出願は3年後かもしれません。
仮に、弁理士一人の特許事務所が月に出願が特許1件、商標2件で何とか事務所を維持できるとします。
つまり、中小企業をメインの顧客とする場合、これで3社です。

中小企業なのでその1年ではリピートが発生しない確率はかなり高いです。とすると、3社×12ヶ月=36社/年が事務所を維持するために最低限必要な顧客量となります。

しかしこれでは自宅以外に事務所を借りていると売上げ的に苦しいので、4社×12ヶ月=48社/年からの依頼は欲しいところです。
つまりこれは1週間に1社、新規顧客を増やさないといけないということです。想像通り、なかなかキツい条件です。

そして1年目に依頼していただいた顧客が、2年目にリピートしてくれる可能性も低いです。
つまり、2年で顧客を100社程度抱える必要があり、新規を取りつつリピートを待つことになります。

一方で、より多くの顧客から依頼をいただいたとします。
具体的な数字を出します。弁理士1、パートタイム事務員1のとき(当時)の弊所の場合です。

ここ数年は、弊所が請求書を出した顧客の数は年間80±3社程度となっており、不思議とこれくらいの数で落ち着いています。
※相談料の請求書だけの顧客を含む

そして、コミュニケーションを取ったけど請求書を出していない、という会社さんもありますから、そのようなパターンを含めるとやり取りが発生した顧客・相談者は年間100社弱くらいにはなるでしょうか。

顧客数がこれくらいになると仕事量的には助かるのですが、コミュニケーションコストが非常に高いです。
1日7~8社と打ち合わせしたりメールしたりという日も平気で出てきます。
1日にこれだけの異なる相手とやり取りすると、ある案件から別の案件への思考の切替えがしんどくなります
また、思考が細切れになってしまうので、集中するための時間は夜や週末しか取れなくなってしまいます。

一方、中小企業をメイン顧客にする大きなメリットもあります。

それは特定の顧客に依存してないので、事務所の経営が安定するということです。
例えば、売上げが多い1位と2位の顧客から同時に新規依頼がストップしても事務所の経営はびくともしないでしょう

3.まとめ

これらのメリット・デメリットはトレードオフなので、今から独立する人は、自分が何を重視するのかを考えてみたほうがいいです。

可能であれば、大企業と中小企業の顧客をバランス良く持っているハイブリッド型がいいでしょうね。弊所には大企業の顧客がいませんが…。

また、特許事務所に就職・転職する人もその特許事務所の顧客ポートフォリオを気にしてみてください。
「この事務所は大企業から依頼されていない」という事実をネガティブに捉えがちですが、それは経営が安定している証拠かもしれません。


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