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心臓を修理する(2) 心臓弁膜症治療日記

59歳の春に受けた職場の健診で要精密検査となった私は大学病院の循環器内科へ。想像もしなかった心臓弁膜症の診断を受ける。治療は手術となる可能性が高いので今度は外科に回されることに。(2)では手術までの日々を。

9月8日(金) 循環器外科受診、最終宣告

循環器内科で診断を受けた翌週、循環器外科の診察を受ける。今度は緑色の手術着を着た若い男性の医師、スポーツマンタイプの明るいお兄さんという感じ。検査結果から手術以外に選択肢がないとの説明を受ける。うまく閉まっていない弁を人工弁に置き換える手術(人工弁置換術)とのこと。説明用の絵本を使って丁寧に説明を受ける。

車でいえばシリンダーヘッドのオーバーホールというところか。車ならボンネットを開ければすぐにエンジンにアクセスできるが、人間の場合、心臓の前に肋骨がある。のど元からみぞおちの上まで縦に切開して胸骨を真ん中から2つに切って!、肋骨を金属製の器具で開いてから人工心肺で血流と呼吸を維持しながら心臓を止めて手術するとのこと。骨は術後にワイヤーで固定するという。テレビで似たような場面は見たことがあるものの、自分が受けるとなると正直言って怖い。

内科では4つあるうちの2つの弁に異常があることまでわかったが、もっと精密な検査をしないと状況はわからないので、手術の方法や規模は直前まで確定しないとのこと。十分に若いので手術は問題ない、回復する可能性も高いとのこと。最近は医者へ行けば何かというと「加齢のため」といわれるのに、医者から「若い」といわれるのは久しぶり。

人工弁にはプラスチックと金属でできている機械弁と、動物の組織を使った生体弁がある。機械弁の写真を見せてくれたが、キャブレターのスロットルバルブのような単純な構造、正直こんなもので大丈夫なのかと思った(ステンレスに見えたが実際はチタン合金でかなり高価なものとのこと)。機械弁は生涯使えるが、生体弁は10-15年程度の寿命とのこと、年齢を考えると高齢になってからの再手術を避けるために機械弁を推奨された。ただ、機械弁は血栓ができやすいために血液をサラサラにする薬を一生飲まなければならない。この薬に影響を与えるので納豆が食べられなくなる。これはちょっとつらい。先生の推奨通り機械弁に置換する手術を選択した。

機械弁(手術の説明書類より)

生体弁は弁の寿命と人間の寿命が微妙な高齢者の場合や、逆に若くて出産を希望する場合や、弁の寿命が来て再手術になっても手術に耐えられる年齢の場合には選択肢となるとのこと。

手術のスケジュールの空き具合から、11月7日入院、14日に手術の可能性が高いとのこと。基本火曜日に入院、検査や準備の後、翌週の火曜日に手術、週末まで集中治療室で管理、翌週一般病棟に戻ってリハビリが終われば退院、リハビリといっても歩いて体力を戻す程度のものとのこと。標準的には20日の入院期間という。退院しても傷が落ち着くまで1か月は満員電車に乗れない(つり革を持った姿勢で押されると傷口が避けてしまうという・・・怖い)し、不整脈のリスクから同じく1か月間車の運転もできないので自宅療養となる。日程の調整が済んだら病院から書類が届くという。

入院まで激しい運動を避けて無理をしないこと、コロナにかかると入院できないので、風邪をひかないよう注意するように言われた。そう言えばコロナは5類になったというのに外来ロビーの一角に「PCR検査」の張り紙があってたくさんの人が並んでいた。検査で陰性にならないと入院できないらしい。スケジュールや方針が決まってほっとするとともに、自覚症状もないのにこんなことになってと思う、何とも言えない気持ちで帰宅した。

11月初旬入院となると、11月末に退院して年内自宅療養ということか。日程は確定ではないながら、週明けに会社に報告して了解をもらった。

10月、仕事を片付ける

医師から告げられた仮日程の1か月前に病院から書類が届く。「入院案内」のパンフレットとともに検査や入院の予約の紙が入っていた。これで11月7日(火)入院が確定。予定外だったのは前日の6日(月)に外来での検査が入っていたこと。11月の3日から5日が3連休なので、最後の出勤日は11月2日になった。

仕事のことは具体的には書けないが、10月中に提出期限がある仕事があるので、これを間違いなく終わらせるように進めた。並行して自分がいなくても困らないように部下や同僚に担当を移行して手順を修正した。一人で担当する仕事が多かったので手順が文書化されていなかったので結構大変。定年が近い年齢なのでいつかはやらなければいけなかったことが少し早くやってきたという感じ。

今回の入院は高額療養費制度の適用となるので「健康保険限度額適用認定証」の発行を会社の総務部に相談したら、入院の話を聞いたときにすでに手配してあるとのこと。助かった。医療機関によってはこれがなくても健康保険証があればオンラインで確認できるようになっているようですが、事前に取得しておいたほうがよさそう。

限度額適用認定証(神奈川県)、一昔前の保険証と似た書式

入院直前の10月末、総務から定年後再雇用の説明があった。まだ当分働く気だったので書類にサインした。命に係わる病を抱えていると、先のことが決まるのはうれしい。来年以降も働けるようになろうと思う。

パンフレットによると、病院内にはWi-Fi は飛んでいない。通話以外は部屋でスマホが使えるので、テザリングするしかなさそう。このスピードでは入院中に仕事をするのはむずかしそう。それに個室とデイルーム以外はキーボードがうるさいのでPCは使えない。しかたなくタブレット型の 2 in 1タイプのPCを中古で購入、3万円。自宅療養中に浦島太郎にならないように、システム部に頼んで会社のメールを見られるようにセッティングしてもらった。
仕事は無理でもテレビやネットを見るくらいには使えそうなので病院に持っていくことにした。

用意した中古のタブレットPC、普段使っているレッツノートより重くて困った

10月、入院と退院後の生活を準備する

入院まで1か月、仕事を一所懸命片付けながら、入院の準備と退院後の生活の準備を進めた。入院中は寝間着やタオルはレンタルできるので、特別用意するものは結構少なく、下着とコップくらいのもの。入院中の娯楽?としては本とラジオと、PCやスマホで見るNHKくらい。本は重いので最小限にしてスマホでkindle で読むことになりそう。

退院しても傷の具合や体力の低下で、しばらくは家から出られないと想定した。しばらくは買い物もできそうにないので、この間生活できるように日持ちのする食品を買い込んでおく。災害時のローリングストックではないが、レトルト食品やカップ麺などを普段より多めに買っておいた。冷蔵庫や食品棚がいっぱいになると一安心。手術で切れば傷が治るまで基本的に禁酒になるのでノンアルコールのビールやサワーを箱でまとめ買いした。

普段、我が家の1階はリビングダイニングだけで、寝室と書斎は2階。退院後、2階への上り下りがどのくらい負担になるかわからず、それに、この歳になるとどうしても夜中に起きてトイレに行くことに・・・、トイレが1階にしかないので、もし寝ぼけて階段から落ちたら大変。基本的に1階だけで暮らせるように模様替えを始めた。

リビングの家具を片付けて、折り畳み式の簡易ベッドを購入して準備した。ティーテーブルをベッドサイドテーブルにして寝室から目覚まし時計や電気スタンドを移動してセットする。

1階の臨時ベッド周り、冬に備えてファンヒーターも早めに準備した

2階の書斎を使わなくてもよいように、仕事や趣味でPCを1階で使えるようにノートPCをダイニングテーブルにセットしておいた。1階生活の準備完了。

ダイニングの仮設オフィス

11月中に車の車検が来てしまうので10月中に出して済ませておく。ディーラーに持っていこうとしたら見たことのない警告ランプが点灯。車検の前に車が持ち主より先に入院というハプニングとなったが、ぶじ10月中に車検が取れて戻ってきた。ハイブリッドのバッテリー交換という、こっちも大手術。15年15万キロ走っている大古車も還暦近いオーナーと同じで健康問題を抱えているよう。部品が出る?のでどちらも修理可能ということか。

ペットは飼っていないので心配なし。観葉植物があるが、冬場はほとんど水やりが必要ないのでお日様さえ当たれば枯れないだろう。

一人住まいで困るのは郵便物や荷物。新聞は止めて、定期的に届く郵便物はできるだけネットに切り替えるか、止められるものは止めた。
ポチっとやらなければ大きな荷物は届かないはずだが、郵便ポストが小さいので大きめの封筒がいくつも来たりすると困る。そこで宅配ボックスを購入、2万2千円。玄関先に設置する。

購入した宅配ボックス、上にも蓋があって、大きな荷物が来て鍵をかけられても小さな荷物は上から投入できる(PYKES PEAK カタログより)

親しい友人には入院のことを知らせた。同じ市内に住む兄夫婦には詳細を伝えて、家の鍵を預けた。遺言書を書くことまではしなかったが、万が一の時に困らないように大事なもののありかなどを書いたものを用意しておいた。

SNSなどには絶対に上げない。わざわざ長期間留守にすることを大々的に発表することはない。防犯も大事なので、タイマーで照明が点灯するようにセットする。

いろいろ準備はあったが、どうしてもやっておきたかったのが「来年のカレンダーを買う」こと。年内は出社できないので、いつものように会社でもらうことはできない。かわいい絵柄の卓上カレンダーを1個買う。来年の準備を何かしておかないと落ち着かない。

できるだけほっこりする絵柄のカレンダーを選んだ

11月2日、入院前の最後の出勤日、仕事は積み残しなしというわけにはいかなかったが、大迷惑をかけない程度に済ませることができた。
部下からお守りをもらう。涙が出るほどうれしい。

季節は秋のはずが、朝晩は涼しくなっても昼間は夏のような日が続く。それでも11月末に退院ということになれば寒くなっているはず。
暖房器具の準備など、冬支度を済ませておく必要がある。ただ、11月になってもまだ夏日が続いていたので、冬支度は3日からの3連休で済ませることに。この日から、退院後の生活に慣れるために1階で寝ることにした。気になるかと思った冷蔵庫は思ったより静かでけっこう快適。部屋が狭いので小さいベッドしか置けなかったのがちょっと残念。

さて、11月6日から還暦記念のあまり楽しくなさそうな臨時休暇が始まる。
入院前日の検査からは次回。

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