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心臓を修理する(4) 心臓弁膜症治療日記

入院して6日目、日曜日から手術の準備が始まった。とうとう本番、運命の日に向かう。

12日(日) 手術の説明を受ける

日曜日の午後、兄夫婦も立ち合いで主治医から手術の説明があった。

最終的な診断は重症大動脈弁閉鎖不全症、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症だった。4つある心臓の弁のうち3つがダメということ。大動脈弁は機械弁置換で決定、僧帽弁は形成術を予定するが、状況によっては弁置換術になる、三尖弁は形成術を予定、とのことだった。

3か所の手術になるのでかかる時間は最低でも6時間、朝9時に手術室に入って予定通りなら夕方5時ころには集中治療室(ICU)に戻るとのこと。JapanSCORE(日本での手術実績データベースによるリスク評価)による手術死亡率は1.3% 、手術の死亡率としては高くはないそうだ。多くの実績がある手術で、ゴッドハンドがいるような特別なものではないという。そもそも天才的な名医でないと執刀できないような手術では統計的な死亡率は出せないという。

手術中は麻酔がかかっているので問題ないが、手術後、どれだけ痛いのかが心配だった。先生の説明では胸は骨で固められているので動きが少なく、切ってもそれほど痛くないという(本当だった)。説明を受けて同意書にサインする。

手術前まで入っている病室はICUに移る際に明け渡してしまうので荷物を置いておけない。許可された最小限の荷物以外は兄に持って帰ってもらう。お財布もスマホも手元から去る。

11月13日(月) 手術前日

胃腸を空っぽにするため、前日から絶食、飲めるのは水のみ、栄養の点滴が始まり、だんだん重症患者らしくなってくる。点滴には何やら電子機器が付いている。電子制御の滴下用ポンプらしい。充電式で、トイレに行くときなどはいちいち電源コードを抜かないといけない。

午前中に歯科を受診。車いすに乗せられて行く。今回の手術では人工心肺を使うので、気管内挿管を行う。口腔内に雑菌があると肺に入ってしまい、誤嚥性肺炎のリスクがあるので、歯科衛生士からクリーニングを受け、歯石も取ってもらった。ずっとさぼっていたのでちょうどよい。

腸をからにするため下剤を飲む。それほど急激に作用するものではないようで、トイレの頻度が少し増える程度。衛生状態をよくするためシャワーを浴びる。看護師さんが胸毛を剃ってくれる。下の毛は剃らなくてよいようだ。

集中治療室(ICU)担当の看護師から説明があった。少し殺風景で看護師が管理しやすいようになっている病室とのこと。手術室と同じフロアにある。機械の音などで結構うるさいので、眠れなければ耳栓を用意するとのこと。

ICUに持っていく荷物を確認する。下着とハートホルダー、コップと歯ブラシ、ティッシュペーパー、それに転倒防止のため歩くときは必ず靴を履くので、家から履いてきた靴をビニール袋に入れる。直前まで本を持ち込めることを知らなかったので、家から持ってきた本は読んでしまっていた。読みかけの週刊誌と売店で買った文庫本1冊を荷物に入れる。肌身離さずとはいかないが、お守りも忘れずに入れる。ハンドクリームとリップクリームを売店で購入した。情報機器などの持ち込みは禁止、医療電子機器がたくさんあるのだから当然だろう。時計とラジオは許可される。腕時計とポケットラジオを持ち込む。手首に点滴が入っているので腕時計の装着はできない。本当は現金は持ち込めないが、一文無しでは困ると思い、小銭を少し入れた。六文銭は縁起が悪いので200円にした。

次々に説明に来る。麻酔医から首の血管に挿入するカテーテル(CVC)と、スワン・ガンツカテーテル(心臓の内圧と心拍出量の測定用)について説明があり、同意書にサインする。続いて手術の全身麻酔の説明があり、これも同意書にサインする。手術中は眠っていて記憶はないとのこと。

14日(火) 手術へ

朝9時ころ、ストレッチャーが来る。ストレッチャーに乗るとすぐに麻酔剤が効き始め、意識がなくなる。

終わった時なのか、「大丈夫、無事成功しましたよ」という医師の言葉の記憶がある。前後関係がわからないが妙な記憶が残っている。医師が専門用語で指示を出しながら体に圧迫を加えたり揺さぶったりしている。痛みは感じないが力だけは感じる。手ではなく、硬いもので押されるような感覚。映像は、寝ているのなら手術室の照明が見えるはずだが、横から見ているような感じ。うわさに聞いている高いところから眺めている画ではないので生きているのだろう。第一離脱していたらこんなに力を感じないはずだ。画は、なぜか濃い黄色、まるでトンネルの中のような色である。
「眠っていて手術のことは全く覚えていないなんてウソじゃん!」と思いつつ耐えるうち、記憶がなくなる。

後で聞いたが、手術が終わり、ICUに戻った後に出血がはじまり、手術室に戻って「再開胸止血術」を行ったとのこと。手術が終われば麻酔が止まるので、再手術までの間に麻酔が少し切れかかって記憶が戻ったのだろう。手術室に戻る前のICU内の記憶だったのかもしれない。

3か所の手術でもともと時間がかかるのに加えて再手術もあって、結局朝から夜9時近くまでかかる大手術になったそうだ。その夜は麻酔で眠っていたので記憶はない。

とにかく手術は成功し、生き返った。そこからの回復の過程は次回。


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