やわらかめ

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料理

3年前の5月に実家を出て自炊を始めた。 実家の台所は母のテリトリーという雰囲気だったので、それまでは申し訳程度の手伝いしか経験がなかった。 少ない荷物を運び入れて、調理道具一式を買い揃えにホームセンターへ。 フライパンとボウルとおたまは丈夫なものを選んだ。 それと基本的な調味料と5㎏のお米、保存食。 百均へ移動して細々としたキッチン雑貨も購入。 包丁は祖母が生前使わずに大事にしまっていた嫁入り道具の角馬を一式譲り受けた。 何十年も昔のものなのに切れ味が素晴らしく、玉ねぎをス

    • ペンの持ち方が違う話

       正しい持ち方を教わる前に絵やら字やらを書いていたので、物事ついた時には既に鉛筆の持ち方がおかしかった。  まず折り曲げた中指の側面にペンを置き、人差し指の腹で飛び出さないように支え、親指の第二関節の腹でぎゅっと押さえつけるようにして字を書いている。  中指には常に硬いペンだこが鎮座し、手のひらには握り込んだ薬指と小指により爪痕ができている。  疲れやすいし速記には向かない。何より手が痛い。  なら正しい持ち方に矯正すればいいと思われるかもしれない。  一時試したこともあるが

      • 午後4時

        沈黙とキーボードが叩かれる音が息を詰まらせていく。 そっと鞄から財布を取り出して席を立った。 事務室の重いドアを開け、自販機まで緩慢に歩く。 鈍く光る銀の硬貨を差し入れると赤いランプが灯る。 選ぶのはいつもロング缶の甘いカフェオレ。 ボタンを押すとピッと電子音が短く挨拶し、誰もいない通路に落下音を大袈裟に響き渡らせた。 冷たい缶を握りしめ、再び事務室へ戻らねばならない。 机の前に座り、プルタブに爪を掛けた。 薄いアルミを音を立てて裂き、小さな破壊を味わう。 砂漠で与えられた水

        • たとえば

          私の母親が、あるいは父親が、 姉が、同級生が、仲の良い友人が、 尊敬する人が、お世話になった人が、 赤の他人が、大好きなミュージシャンが、 あなたが、 私の好きなものを嫌いだとしても、 私が好きならそれで良いのだ。

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