ペンの持ち方が違う話

 正しい持ち方を教わる前に絵やら字やらを書いていたので、物事ついた時には既に鉛筆の持ち方がおかしかった。
 まず折り曲げた中指の側面にペンを置き、人差し指の腹で飛び出さないように支え、親指の第二関節の腹でぎゅっと押さえつけるようにして字を書いている。
 中指には常に硬いペンだこが鎮座し、手のひらには握り込んだ薬指と小指により爪痕ができている。
 疲れやすいし速記には向かない。何より手が痛い。
 なら正しい持ち方に矯正すればいいと思われるかもしれない。
 一時試したこともあるが、持ち方を変えると力をどこに込めればいいか解らなくなり、魂が抜けたフニャフニャの文字が並んでしまう。
 いずれ書き慣れたとしても、おそらくそれまでとは違う筆致になってしまうだろう。
 しかし私は、僅かに丸みを帯びて一文字一文字が真四角の箱に収まるような自分の筆跡に愛着があるのだ。
 ペンの持ち方がおかしいことは普通に生きられないことに似ている。似ているというか端緒の一つだ。
 あらゆる事を「正しく当たり前に」できたらどんなに楽に生きられるのだろう。
 それでも自分が自分でなくなってしまうのが我慢ならないので、痛みを感じながら不格好なまま生きていくのだ。

 

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