料理

3年前の5月に実家を出て自炊を始めた。
実家の台所は母のテリトリーという雰囲気だったので、それまでは申し訳程度の手伝いしか経験がなかった。

少ない荷物を運び入れて、調理道具一式を買い揃えにホームセンターへ。
フライパンとボウルとおたまは丈夫なものを選んだ。
それと基本的な調味料と5㎏のお米、保存食。
百均へ移動して細々としたキッチン雑貨も購入。
包丁は祖母が生前使わずに大事にしまっていた嫁入り道具の角馬を一式譲り受けた。
何十年も昔のものなのに切れ味が素晴らしく、玉ねぎをスライスしながら感動してしまった。

引っ越した最初の月は野菜炒めやスープなどのうろ覚えのおかずばかり作っていたが、ある日特売で鶏もも肉を手にした時に「これをもっと美味しく調理して食べたい」と思った。
スーパーの駐車場で、クックパッドを開いて鶏もも肉の食べ方を検索したところ、鶏の照り焼きの写真にグッときた。
作り方も簡単そうだったので、その日帰宅して早速調理に取り掛かる。
鶏もも肉を少し大きめに切って袋に入れ、調味料と小麦粉を入れて馴染ませたら油を引いたフライパンへ。
スマホでレシピを確かめつつ、ちょっと濃すぎないか?と一抹の不安を感じながら醤油ベースの甘辛い味付けのタレを作る。
実家は薄味派なのでこんなに醤油を使ったら怒られていたんじゃないだろうか。
フライパンの上で断末魔を上げる鶏肉を皿に掬い上げて食卓へ運んだ。もちろん白米と温かいお茶を添えて。
いただきますと手を合わせてアツアツの照り焼きを頬張る。
「おいしい」って声が出た。
自分の感情よりも先に言葉が。
久しぶりに誰かを褒めたような、久しぶりに誰かに褒められたような、そんな表裏一体の肯定感だった。
嬉しくて泣いた。

あの瞬間の喜びがずっと忘れられないので、大雑把かつ下手くそなりに、今日も台所に立っている。

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