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心うるおう、脱力系。池大雅の山水画

  文人画はどれも同じに見えていたので、熱心な鑑賞者ではなかったのですが、2023年秋に泉屋博古館東京で開催した「楽しい隠遁生活ー文人たちのマインドフルネス」で色々見て解説を読んで、その「知的な脱力感」がちょっと楽しくなってたのと、今回、国宝「楼閣山水図屏風」は最初の方だけ出るとあったので、よし、と開始早々、出光美術館へ。

  うーむ、単眼鏡ある方がいいですね、文人画系は。山水画といっても細部が細かく書き込まれているのと、その隅っこに詩心や意味があったりするので、もっとアップで見たい!と思うことしきり・・・特にこのハガキ買った「山邨千馬図」なんて馬が千頭いるんですよ!下の画像見ても「馬?」って感じですよね。

今回買ったハガキ。馬のは一番右側のです。「山邨千馬図」部分

  アップにしても残念ながらわかりにくいですが、下の画像の右側のわらわらしているところが全部馬。馬が小さくみっしり描き込まれているんです。本物はちゃんと一頭ずつ見分けられるくらい描き分けされています。右上の文章には、友人が酔って訪ねてきて、「馬を千頭描いて欲しい」と言われたから仕方なく描いた、と経緯が書いてあるそう。酔っ払いに付き合った挙げ句にできた作品だったとは・・・

「山邨千馬図」ハガキ部分拡大

   冒頭の見出し画像もですが、拡大すると、そこにいる人達がほっこりしているんです。実際は豆粒のよう。が、よく見ると、友人とお茶を飲んでいたり、川辺で魚を覗いていたり。仕事三昧で疲れている時に、気持ちを整えるのに良い感じ。中国の漢詩や文人画もそうですが、社会のしがらみから抜けて、自然の中で清廉に心豊かに暮らしている、という風情が、「ミニマリスト」的な感じで、昔の人も、何となく憧れたのかな(勝手な想像)。

  そして、この山水画には、中国の風景も描かれているのですが、全て書物や書画を見て、日本を旅して風景を写すことで、独自の画風が出来上がったそうです。展示品にも、参考にしたと思われる書物が展示されていました。が、よくこんな図で・・・?という感じの昔風の図鑑みたいなものでした。想像力(妄想力?)、大事。逆に見ていないからこそ、日本の湿潤な空気感や柔らかい陽光の感じが出て、優しいタッチになったのかも。

幼い頃から神童としてその名を知られた大雅は、当時中国より新たに紹介された文人文化に深い憧れを抱き、かの地の絵画を典範とした作品を数多く描きました。一方で自然の光の中で描くことで培った抜群の色彩感覚と大らかな筆致、そして彼がこよなく愛した旅で得た経験によって、本場中国とは異なる、日本人の感性に合致した独自の文人画を創り上げたのです。

展覧会サイトより抜粋

  池大雅の作品は、国宝3件、重文13件あるそうなんですが、今回、そのうち国宝2件、重文8件が出品されている、ということで、単純にそこも動機となって見に行きました。1つだけ「ええー」と思ったのは、国宝の1つ与謝蕪村との競作「十便十宜図」は、池大雅が「十便」を、与謝蕪村が「十宜」を各々10枚書いたものなのですが、なんと、各1枚ずつしか見られず、10回も展示替えがあるという・・・ちょっと鬼畜・・・

  各人の10枚が紙本として綴じられているので、1枚ずつしか展示できないのは確かに仕方がないのですが、全部見るために通うのは絶対無理。なお、所有者は「川端康成記念会」。川端康成もこれを眺めていたのかー川端康成は、「美しい日本の私」という本で、日本の美意識について語っていたのですが、そこで語られていたエッセンスは、こういうものだったのかな?と文章だけではわからなかったものが気持ち、見えた、かも。

  展示されていなかった部分がとっても気になったので、帰宅してからインターネットで検索してしまいました。現地にも一覧はあったのですが、如何せんよくわからなかったので・・・このサイトがシンプルでわかりやすかったです。

  全ての作品が、色合いも全体に淡く、小さな描き込みが多く、じいいっと心安らかにして桃源郷に遊ぶ心持ちで(できれば単眼鏡で)見るべき展覧会でした。じわじわっと来るタイプなので、「刺激が欲しい」という場合はちょっとお薦めできないかな。私は安野光雅さんの「旅の絵本」の中にある隠し絵や遊び心のある描き込みを見つけるのが好きなので、解説があれば池大雅、面白かったです。今回の展覧会は、見所を拡大してくれたりしていて、一生懸命探してしまいました。「どこにこの渡り鳥が?」とかね。

会場出口のコレだけ撮影できました。見出し画像はこれです。


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