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パリ・東京・大阪モダンアートコレクション、TRIO展@東京国立近代美術館

  「3都市の美術館のコレクションが集結」という謳い文句に惹かれて、梅雨の大雨の日に行ってきましたTRIO展。

  展覧会サイトやフライヤーに掲載されている作品がちょっと地味目?という気はしましたが、最近の東京国立近代美術館は攻めた展示が多いので、何かあるだろうと期待して行ってきました。結論としては、面白かったのですが、1テーマで各美術館から1枚(あるいは1セット/シリーズ)ずつセレクトされているため、全部で34ものテーマを見ていくことに。これがなかなかお腹いっぱいになる。

  例えば、第1章は「3つの都市:パリ、東京、大阪」。一般的な展覧会ならこれで10枚とか絵が続く。今回は、この中に細かく「川のある都市風景」「都市と人々」「都市のスナップショット パリ」・・・とテーマがあり、「川のある都市風景」で3つの美術館から1枚(あるいは1シリーズ)展示されているわけです。そうなると、流れるように見るというよりは、カシャッ、カシャッ、とテーマ毎に3種を見比べる、という目と脳の処理になっていってしまったかも。

こんな感じ。「27.差異と反復」左から「コンポジション」(アンリ・ミショー/MAM)、「紫・むらさき XIV」(中西夏之/NAKKA)、「No.H.Red」(草間彌生/MOMAT)

  で、1つのテーマで3つ全く違う作家を提示されると、「これが好き」「これは微妙?」というのがはっきり出てくることを発見。人間は3つとか区切られると選択しやすくなるんだなあ。まあ、それ以上に、3枚見てもテーマがわからないことが多い(笑)。テーマを見てから絵を見直すと、「あ、そこが共通点?!」と見直しになることも。

  せっかくなので3つを見比べて面白かったものをご紹介。

Ⅱ 近代化する都市より「9.都市のグラフィティ」

「4点1組」フランソワ・デュレフレーヌ(MAM):好きな佐伯の絵と一緒にあったので目を惹きました。多分単品だとさくっと流したかも。意外といける?と思ってしまった。
「ガス灯と広告」佐伯祐三(MOMAT):MOMATのコレクション展でもよく見ますが、このパリの街角の広告を描いた佐伯の絵はやはり良い!
「無題」ジャン=ミシェル・バスキア(NAKKA):佐伯とバスキアを合わせるか?とちょっと意表を突かれました。でも何か馴染んでいたのと、テーマを見て納得。

Ⅳ 生まれ変わる人物表現より「15.モデルたちのパワー」

「椅子にもたれるオダリスク」アンリ・マティス(MAM):このところマティス展が多いためか、何か最近見たな・・・という気持ちになって鮮度が落ちているマティス。でも一目でマティスってわかるところが流石巨匠。
「裸体美人」萬鉄五郎(MOMAT):コレクション展でこれもよく出ているMOMATの重要作品?な1枚。昔は良さがよくわからなかったですが、確かに縦に描いた裸婦像ってあまりない。大胆な構図と色はインパクト大。
「髪をほどいた横たわる裸婦」アメデオ・モディリアーニ(NAKKA):この人のアーモンド型の目は、瞳がない場合もありますが、これは強い力を発している方。ポーズだけでなく目力が挑発的。

Ⅳ 生まれ変わる人物表現より「17.こどもの肖像」

「少女」藤田嗣治(MAM):少女とはいえ、美人さんなところがフジタらしい。
「麗子肖像(麗子五歳之像)」岸田劉生(MOMAT):何度見ても岸田テイストの西洋画。オリジナリティが凄い。MOMATには岸田作品がいくつもあるのでコレクション展も楽しみ。
「少女像」原勝史朗(NAKKA):初めて見ました。線の力強さが意志の強さに見えて、今回のお気に入りの1つ。

Ⅳ 生まれ変わる人物表現より「19.美の女神たち」

「プリンセス達」マリー・ローランサン(NAKKA):これはローランサンの展覧会で見た気がする。珍しく黄色を使った作品(だったかな)。
「青い鳥」ジャン・メッツァンジェ(MAM):どこが美の女神なのかわからないが、青い鳥ががしっと捕まえられているのが怖い・・・何の説明もなくて気になったままの作品。
「五人の裸婦」藤田嗣治(MOMAT):フジタの要素が詰まった作品。女性と猫とポメラニアン。背景の色合いも素敵。まさに美の女神たち。

Ⅲ 夢と無意識より「13.現実と非現実のあわい」

「レディ・メイドの花束」ルネ・マルグリット(NAKKA):ボッティチェッリの春をオマージュしながらマルグリットらしいシュールさが溢れてる。でも絶対的に美しい絵。ストーリーがありそうでいつも気になるけれど、ストーリーが読めない・・・
「ベレル通り2番地2の出会い」ヴィクトル・ブローネル(MAM):今回のお気に入りの1つ。ルソーの「蛇使いの女」と自分の生み出した怪獣「コングロメロス」を登場させたもの。まるでオリジナルのように違和感なく2つのキャラクターが共存している。

Ⅴ 人間の新しい形より「24.デフォルメされた体」

左から「犬の唄」(柳原義達/MOMAT)、「ランド地方の羊飼い」(ジェルメーヌ・ルシエ/NAKKA)、「青いヴィーナス」(イヴ・クライン/MAM):青いヴィーナスの色と一部だけを切り取ったような造形が印象的。ヴィーナスは一部だけしかない方が美しさをかき立てるお手本のよう。そしてこの地方の羊飼いは竹馬に乗って移動するんだそうです。知らなかった!

  今回、ちょっと嬉しかったのは、他の展覧会で見て良かったものや、その時は写真が撮れなかったもの、あるいは最近見て気になっていたアーティストの作品が結構あったこと。おおーここでまた逢えるとは・・・という感慨深いものがありました。そういう意味では、幅広いジャンルの人気作品が揃っているとも言えるかも。

「エッフェル塔のペンキ塗り」マルク・リブー(MAM):踊るようにさび止めのペンキを塗るのがパリっぽい。そしてエッフェル塔のスチールの直線が空を切り取っているのが印象的。
「郵便配達夫」佐伯祐三(NAKKA):代表作ですね・・・

https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202211_saeki.html

「Miss Blanche(ミス・ブランチ)」倉俣史朗(NAKKA):これはやっぱりプロじゃないと綺麗に写真に撮れないことを痛感・・・透明アクリルの質感が出ません。
「慰めのアンティゴネ」ジョルジュ・デ・キリコ(MAM):早々に東京都美術館へキリコ展を見に行きましたが、あちらは写真が撮れなかったので・・・なんとなくリベンジ。あ、でもキリコ展はやはり面白かったです。繰り返し出てくる高い塔、マヌカン、イタリア広場・・・形而上絵画って何だ?というのが紐解かれていて興味深い。
「In the Box」奈良美智(MOMAT):やっぱりかわいい奈良美智。ちなみにこれは「32.ポップとキッチュ」というテーマで展示されていたのですが、一緒にあった撮影不可のヘンリー・ダーガーという人の作品も同じくらい良かった!ツインピークスっぽい不条理感。一度出会うとまた出会う確率が高い(単に自分が意識するからかもしれないOR貸し出し巡回しているからか?)ので、ちょっと気をつけてチェックしたい。


  前回、時間が足りなくなったので今回はコレクション展と合わせて3時間ちょっと確保していたはずが、まさかの時間切れに。うーん、最近、国立近代美術館はコレクション展も力が入っている気がするんですよね。前は鑑賞し辛い印象があったのが、思い切ったテーマ構成になって、気になる作品をがっつり出してくる。ちなみに今回は個人的には中村宏が良かったです。

「円環列車・Bー飛行する蒸気機関車」中村宏
「造山運動あるいは『モナリザ』の背景」中村宏


<余談>企画展を出たところの壁に何か貼ってあるなーと思って近づいたら、こんな凝った各美術館紹介が。これがまた情報量が多い。しかも企画展出口よりも後にしれっと貼ってあるから、気付いていない人もいるんではないだろうか・・・私は平日夕方ギリギリで時間切れが怖くて、取り急ぎ写真撮って後で読みましたが、これは公式サイトにもないかも。名画イラストも特徴掴んで面白いのに。アピールしているようなしていないような・・・いずれにしても、情報量多めで力の入った、微妙に突っ込みどころのある展覧会でした。

大阪中之島美術館(NAKKA)
東京国立近代美術館(MOMAT)
パリ市立近代美術館(MAM)



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