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【脚本】壁あて


所属している劇団の270万達成の個人ストレッチゴールです。

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珍しく女優さん向けのモノローグを書きました。7〜10程度です。楽しいと思いますので、是非、映像作品や読み合わせ等でお使いください。


【本編】

あー。うん。そっか。えーっとね。岡本くんの事は友達としては良いんだけど。ちょっと彼氏ではないかなぁ。

出来るだけ、出来るだけ当たり障り無く、在り来りに、失恋の事実を伝える。「この後、3棟2階東側階段に来てください。」そういきなりラインして来た目の前のクラスメイト。毎朝挨拶をしてくるが、それ以外これと言って世間話もしないような目の前のクラスメイト。だから勿論ラインなど交換した覚えもなく、きっとクラスのグループラインから漁って連絡して来たであろう目の前のクラスメイト。遂に来た。いざ来てみると思ったよりも冷静な自分に驚いた。ずっと、ずっとこの数ヶ月間この瞬間を待ち望んでいた。

あー。うん。そっか。えーっとね。岡本くんの事は友達としては良いんだけど。ちょっと彼氏ではないかなぁ。

この目の前でショックを隠そうと薄ら笑いを浮かべている岡本という名のクラスメート。彼の視線に気がついたのは丁度、夏休みが始まる少し前。何でもない休み時間、フッと彼と目があった。彼は恥ずかしそうに目線を外した。なーに?もしかして私の事好きなのー?一瞬でもそんな爽やかな青春を感じた私を殴りたい。入学してから席が近くなることもなく、唯一まともに話したと言えば遠足の帰りのバスでたまたま隣だった程度。クラスメイトと言われて名前が上がる程でもなかった彼の視線に気が付き、ちょっと存在を意識した。意識してから気がついた。ガン見、想像を絶するほどの直視。彼の方を見ると慌てて目線を外すものの、窓の反射を利用して確認すると、彼は瞳孔をかっぴらき私の後頭部の付近を直視していた。朝のホームルームから、授業中、勿論休み時間まで。友達に聞くと、クラス公認レベルだった。終業式が終わり、夏休みへ入る私を信じられないほど寂しそうに見つめる彼の顔は信じられないほど気色が悪かった。

あー。うん。そっか。えーっとね。岡本くんの事は友達としては良いんだけど。ちょっと彼氏ではないかなぁ。

夏休みが明け登校した私に信じられないほど嬉しそうに挨拶してきた彼もまた信じられないほど気色が悪かった。そもそもの話、好意を寄せられる、ということ自体別に耳障りが悪い話と言うわけでもないが、クラス公認レベルで岡本の好意が認知されている、という事は少なくとも学年レベル、大きく見積もって学校レベルで問題を捉える必要があった。本人は隠しているつもりらしいが潔い程の力強いガン見という誰がどう見ても好きという行動を取られると、私は、この目の前でヘラついているガン見男岡本、の好きな人というポジションが確立してしまう。というか既に確立してしまっている。隣のクラスの子たちが私の事を岡本くんが好きな人と呼んでいることも知っている。岡本くんのではない。よりにもよって岡本くんが、だ。聞きようによっては私が岡本の事を好きだと言う風に聞こえなくもない。噂は必ず湾曲する。このままではこの学校での私と言う存在に岡本と言うワードがついて回る。いつ誰が気を利かせていらん事をするかわからない。学校行事には意外とペア活動が多いんだ。それに、もし、もしもこの岡本のように、しかし岡本とは違い、素敵に私に恋心を抱く、かも知れない人が現れるとしても、その気持ちがまだ新芽のうちに、私に付き纏うこの悪霊の存在に気が付き、諦めてしまうかも知れない。私の青春の余白をこんな奴に塗り潰されてたまるか!だから、私はこの瞬間を今か今かと待ち望んでいた。彼の恋心を正々堂々打ち砕く日を。

あー。うん。そっか。えーっとね。岡本くんの事は友達としては良いんだけど。ちょっと彼氏ではないかなぁ。

彼を振る為には必ず彼が告白をしてこなければならなかった。告白とは、内に秘めた事柄を言葉にする。という事だ。幾ら、彼が私を直視しているからと言って、急に私の方から彼を振るという事はできない。誰から見ても絶対に好きであったとしても、99.99%そうであると言い切れたとしても、0.01%の確立で彼は「すごく直視してしまう人」なのかも知れないのだ。もしも彼が凄く直視してしまう人なのに急に私が彼を振ったら、私は「ただの勘違い女」になってしまう。「岡本が好きな人」という肩書よりも「ただの勘違い女」である方が被害は甚大。幸の薄い高校生活が容易く想像できてしまう。加害者になるよりも被害者でいる事を選んだ。彼自身が私を好きだとはっきり言葉にするにをただただ待ち続け、そしてたった今ずっっと聞きたかった言葉が聞けたのだ。

えー?本気で付き合えるとか思ってたの?ずっとジロジロジロジロ見て。超やだった。マジでキモいから。言いたかっただけだろ?好きって。こっちの気持ち考えてなんていないでしょ?自己満でしょ。壁とやってろ。

なんて事は勿論言えなかった。日頃から溜まっているフラストレーションを目一杯ぶつけたい欲求はあったけれど、この話の中で私は被害者のまま完結しなければいけない。幾ら事情があるとは言え、クラスメートに罵詈雑言を飛ばしてしまったら、「思ったよりも口が悪い人」になってしまう。人間の心理とは酷いものだ。不良がピアノを弾けばカッコいいとポイントがバク上がりなのに、なんて事のない普通の生徒が怒ったら、きっとイメージはすごく悪くなるんだろう。だから、最新の注意を払ってありきたりの言葉を選んだ。友達という耳障りのいい言葉も添えた。

あー。うん。そっか。えーっとね。岡本くんの事は友達としては良いんだけど。ちょっと彼氏ではないかなぁ。だから。ごめんね?

え?じゃあ、まずはちゃんと友達から?

ちょっと想像してなかった。まだ、彼の中でいい人であろうとした心の緩みに、そんな形で漬け込んでくるとは思わなかった。彼にとっては希望だろうが私にとっては絶望だった。

だって友達としてはいいんだよね?

蘭々とした眼で、ちょっと嬉しそうに、よね?と語尾を上げ更に追い討ちを掛けてくる。私の後頭部をガン見している時よりも更にかっぴらいた目からは、心が全く折れていないのが垣間見える、いけない。私は今日は卒業式なんだ。彼の私への恋心。そして、私に付き纏う岡本という印象からの卒業式なんだ。私にはわかる。今日彼の心を確実に折り切らないと、明日からもこの呪縛は続いていく。更に友達ヅラして近寄られようもんなら益々「岡本の」という印象は強くなる。ここまでコンマ1秒。頑張れ頑張れ私。次はどう返す。A素直にガン見は嫌だと伝える。Bこの場を取り敢えずで納め、ラインで整えた文章を送る。Aは言葉がまとまらない。ふとした拍子に全部漏れてしまいそうだ。Bは、Bは確実なものを送れるが、岡本に私とラインできると思わせてしまう。これじゃ二次被害の恐れが、ここまで1秒。流石に不自然な間。A?B?A?B?どっち?

【凄く微妙な表情で前を見つめる。】

決めかねた末、C、顔で訴えかけるを選んだ。え?何?何?と焦る岡本。一歩も引けす顔を変えられない私。今どんな顔してるんだろう。

あ、まあ。何かこれからもよろしく。

そう言って彼はその場を去った。次の日から彼の視線は真っ当な学校生活に戻ったようだった。ただ一度だけ、クラス会の出し物案で、隠し芸大会が出たときにチラッと私を見たのを忘れない。

【終】



ここまで読んでくださり誠にありがとうございます。

フリーな脚本にしたいので世の常なモラルさえ守っていただければ自由に使って頂いて構いません。是非愛してあげてください。

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ここまで読んでくれてありがとうございました!


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