封印蝋

本を読んだり文を書いたり絵を描いたりするオタク

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短編小説 l 満月を食べてみたい

満月を食べてみたい。表面がザクザクしているから、クッキーみたいに甘くてほろほろしてるのかも、と紺色の制服をまとって夜に馴染んでいる君のとなりで呆れたい。真っ黒のコンクリートの上にぽろぽろと落ちて沈んでいく月のかけらを眺めたい。横断歩道の白い線だけを渡る君が眩しくて、齧ったあとのような淡い三日月のせいにして目を細めたい。    満月を食べてみたい。レモネードにして飲むのが良い。透明な瓶に月とはちみつと砂糖を入れてスプーンでくるりと混ぜたものを、冷蔵庫に大切に仕舞いたい。冷蔵庫を

    • エッセイ l 感情を食べる

      1月9日。父親も仕事に出かけて、家の雰囲気はさっぱりいつも通りの日常に戻った。私は学校へ向かうために家を出る。久しぶりに友達に会えることに、気分が踊った。  電車に乗ると、荷物を抱えた御老人がたくさんいらっしゃった。友達と楽しそうに話す彼/彼女らを余所目に、私は空いている席に腰を下ろす。不意に鼻を掠めたおばあちゃん家の匂いに、とうに過ぎ去ったはずの正月の気分になった。正月を、食べたような気がして、私は喉を鳴らした。  私の家では、1日に父方の実家に、2日に母方の実家に帰省す

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