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3D プリント自助具とそのデザイン vol.2

はじめに

私たち、ファブラボ品川と一般社団法人ICTリハビリテーション研究会は、2018 年の発足当初より、作業療法のコンセプトを大切にしながら、障がいのある人に役立つ個別カスタマイズされた道具である「自助具」の 3D モデル化とファイル共有にこだわって活動を続けています。本コンテンツではその活動を振り返りながら、6年間で見えてきた発見についてまとめます。

vol.1 では、まず活動コンセプト概要と、3D プリンタ活用のメリット・デメリットについてお伝えしました。後半で、「自助具作成にあたっての考え方」を、具体的事例モデルを挙げながらそれぞれの必要性の理由についてまとめています。考え方は以下に一覧にしておきます(詳細は今回は有料コンテンツとさせていただきました)。

自助具のかたち

  1. 巧緻動作を粗大動作へ

  2. 末梢小関節よりも中枢に近い関節で動かせるデザイン

  3. 手や指を差し込むだけで使えるかたち

  4. 遊びがある・ない?

  5. 力が弱くても操作できるかたち・落ちないかたち

  6. 固定を助けるかたち

  7. ベストな位置付けを助けるかたち

  8. リーチを助けるかたち

  9. 力を伝えやすくするかたち

  10. アテンションを高めるかたち

  11. 間違いを防ぐかたち

  12. 丁度良い刺激があるかたち

  13. 圧迫しないかたち

  14. 二次障害を予防するかたち

  15. 能力向上につなげるかたち

今回 vol.2 では、デザイン技法にフォーカスを当ててお伝えします。

3D モデル デザイン技法

ここでは、将来的に多くの人に役立つ自助具 3D モデルを作成する「コツ」の基本概要をまとめます。

3D モデルのかたち

なるべく小さく


似ている機能で大きさの異なるデザインの例(ペットボトルオープナー)

大きな道具は、多くの材料が必要となり、プリント時間もかかるため、可能な限り小さく作ると良さそうです。
デザインや内部構造の工夫で全体のプリントエリアを減らす工夫も有効です。上の右図の例のように、フレーム構造のみで構成するなども検討しても良いでしょう。

パーツ数はなるべく少なくシンプルに

いくつものパーツをモデリングして組み合わせて作製する場合もあると思いますが、パーツ数はなるべく少ないと、誰にとっても作りやすいものになります。可能であれば、フィラメント以外の材料や付属品も極力必要ない構造が理想です。フィラメント以外を使わざるを得ない場合は、なるべく多くの人が将来的にも調達しやすい材料や付属品を用いて、入手先や型番等の情報詳細を伝達できると良いでしょう。

サポート・ラフトのいらないデザイン

サポートとラフトの例

熱溶解積層方式の 3D プリンタで造形する際、サポートと呼ばれる支持構造物やラフトと呼ばれるビルドプレートへの密着を強くする構造物がないと不安定なモデルがあります。これらの構造物は、材料が余分に必要になる他、除去のための作業が生じたり、除去痕が気になったりします。サポートやラフトが減らせるようなデザインの工夫をなるべくできると良いでしょう。

積層方向が考慮されたデザイン

積層方向が考慮されたデザインの例
(左はサポートが必要な上、あまり綺麗に積層できない可能性あり。右はこの方向でプリントすれば綺麗に積層できる可能性が高い。)

最初からどの向きで 3D プリントするか考えながらデザインするとよいです。
同じ機能を持ちつつ、綺麗に早く無駄なく 3D プリントできるデザインを模索してみましょう。

ノズルのパスの滑らかなデザイン(カクカクしない)

ノズルのパスの例

ノズルが角で方向を変換する際に、特に一層目でめくれ上がって剥がれたり、反りやすくなります。
角ばっている必要がなければ、可能な限り右の図のように滑らかなパスにすると上手く仕上がりやすいですし、手触りも良くなります。
パスに角ができてしまう場合は、スライスの際に1層目のプリント速度を落とすなどの工夫をする必要があるかも知れません。

面取りの重要性

底面を中心に面取りされているデザインの例

通常、3D プリンタは、一層目をしっかり定着させるために 1st Layer は height が他より小さく設定されていたり、Line width が大きめに設定されていたり(その分 Flow が多いということ)します。
そのためもあり、面取りしないと1層目は設計よりも厳密にはわずかにはみ出て尖った部分が出来ます。
使って痛くなく、手触りの良いものを作る意味でも、底面を中心に各角は面取りを施した方が良いものが出来上がると言えます。
是非、この一手間を加えたものとそうでないもの、一度プリントをして比較をしてみてください。以降は必ず毎回やるようになります。

積層が目立たないデザイン(フィレットよりも面取り)

左はフィレット、右は面取りを施してある例

底面のフィレットは、サポートを設定しても綺麗に造形しにくいです。
問題なければ、面取りで積層する方が、ダレずに綺麗に積み上げることができます。
案外プリントしてみると悪くないと思いますので、試してみる価値はあるはずです。

道具のかたち

触り心地が良い

基本的には、面取りやフィレットなどで角を滑らかにするなどを行い、触り心地をよくすると良いでしょう。
vol.1 - 自助具のかたち 12 で具体例を紹介しているような刺激があると良い場合などは適宜調整すると良いと思います。

見た目が美しい

「美しさ」の定義は難しいですが、心地よさや使いやすさ、ちょうど良い頑丈さなどは、自ずと美しさにつながるものかも知れません。是非、美しい作品に多く触れる機会を持ってください。

着脱しやすい

着脱はしやすい方がもちろん良いのですが、ユーザーの多くは何らかの不自由さがある方ですので、一層の工夫が必要な場合も多いでしょう。
片手だけで着脱や調整ができるかどうか、その際の指先の細やかな操作が必要か不要かなどは、検討した方が良いでしょう。
vol.1 - 自助具のかたち 3、vol.1 - 自助具のかたち 4 あたりの具体例は参考になるデザインだと思います。

欲しい動きを促すかたち(アフォーダンス)

欲しい動きを促すかたちの例
(上は車椅子ブレーキ延長バー、下は水栓型ペットボトルオープナー)

「かたち」は動きを促します。
人の過去の経験などに基づき自然にその動きが促されていきます。
「アフォーダンス」と呼んだりしますが、よいアフォーダンスはよい動きを促します。
逆によくない動きにつながってしまいやすい「かたち」もあるということになるので、注意が必要です。

道具は、ユーザーがあれこれ考えずとも意図した使い方を自然にしてくれるかたちにするのがベストです。

まとめ

vol.1 と vol.2 の2回シリーズで、自助具を 3D プリンタで作成する際の基本的な留意点について、概要をまとめました。
現場で自助具作成にトライしていらっしゃる方々はもちろん、一般社団法人ICTリハビリテーション研究会とファブラボ品川で昨年より開催させていただいております「3D プリント自助具デザインコンテスト」にエントリーをご検討されていらっしゃる方も、是非参照して取り組んでいただけると嬉しいです。一緒に「まだ社会にない、新しい価値」を共創していきましょう!

今回、多様な材料の活用やスライサーを用いたプリント設定については触れていません。また、ケアとして 3D プリンタを活用する際の留意点(なぜ、どのように用いるとよいのか)についても触れていませんので、続編を楽しみにお待ちください。

Happy printing !!




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