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3Dプリント自助具とそのデザインvol.1



はじめに

私たち、ファブラボ品川と一般社団法人ICTリハビリテーション研究会は、2018 年の発足当初より、作業療法のコンセプトを大切にしながら、障がいのある人に役立つ個別カスタマイズされた道具である「自助具」の 3D モデル化とファイル共有にこだわって活動を続けています。本コンテンツではその活動を振り返りながら、6年間で見えてきた発見についてまとめます。

この活動でつくりたいもの

私たちがこの活動で作りたいものは、市民や当事者が考えたアイデア商品ではありません。私たちは、3D プリンタを使って「自助具屋さん」をやりたいわけではないのです。

私たちが向き合っているのは、少数派の人々に真剣に向き合って作る少数派のプロダクトです。少数派のものに、従来のやり方で向き合おうとすれば、価格を高くせざるを得ないか、販売側が低価格で泣き続けなければいけなくなります。それは、手作りでも、3D プリンタでも、中量生産型の射出成形でも大きな違いはないと考えています。最後に行き詰まってしまい、作れる人も手に入れられる人もいなくなってしまような状態にはしたくありません。

一般的に福祉用具は自費で購入すると非常に高額です。それは、少数派の人々に真剣に向き合い作成した道具を、耐久試験等を重ね、お金をかけて検査も通し、知財の対策をとり、中間に多様な業種が入りながら取引され、中にはユーザーが保険適応であれば1割しか支払わなくて良いものもあるから、当然と言えば当然でしょう。

そんな福祉用具と真っ向から同じフィールドで同じやり方で立ち向かうことは、少し違う気がしていますし、私たちが作りたいのはそういったものではありません。

コモンズをみんなで育てる

では何をつくりたいのか。
つくりたいものは「まだ社会にない、新しい価値」です。

前段のアプローチでは、多様な個がそのまま個性を伴ったまま活躍したり表現できる社会を手に入れることは難しそうに感じられます。
でも私たちには安価に、時にフリーで活用できる「インターネット」があります。3D プリンタを用いることでデータ化された「かたち」を誰でも手に入れ、必要な人が必要な分だけ必要な場所で安価につくり、活用することができます。
今のところ、それらを実現するための条件は以下であると考えています。

1. コモンズとしての 3D モデルファイルが図書館の蔵書並みに揃い、提供が市民サービスになる
2. 簡単に操作できる 3D プリンタが使える拠点が全国に増える

下記の条件も必要かもしれません。
3. その人が欲しい道具の形が簡単に正しく見つけられる(無駄な物作りにならない)
4. プリントしたモノがちょっと違ったとしてもリサイクルできる

もしかして、下記の条件も必要かもしれません。
5. 3D モデル作成・共有者へのちょっとしたお礼報酬
6. ちょっと違ったモデルの共有に対して寛容な社会の雰囲気

きっと、いや絶対にできそうな気がしてきませんか。この 1. から 6. までの条件を整えることはできそうです。
日本で一番ハードルが高そうなのは 6. かも知れないとも感じますが、じわじわこの「コモンズの育成と活用をみんなで」を、いい感じで社会に浸透させていきたいと思っています。

3D プリント自助具のメリットとデメリット

ここからは、3D プリント自助具のメリットとデメリットについてまとめます。取り扱うのは、熱溶解積層方式の 3D プリンタで、リアルに現場で手作りで作製する場合と比較しながら述べていきます。

メリット

・広い作業部屋がいらない
≫ 自助具を作製するための専用工作室が備え付けられている病院等があります。工業用ミシンや木工用作業台、サンダーやグラインダー、ヒートパンなど。多様な自助具を作製するには工具・材料置き場と広めの作業場が必要となります。3D プリンタと材料を適切に活用することで、多様な表現の道具を省スペースで作製することができます。

・作業工程における廃棄物(ゴミ)が少ない
≫ 木工も革細工もスプリント材を用いる場合も、意外とゴミが多く出ます。3D プリンタを用いた作製は、デザインが工夫されていると必要な材料以外の廃棄物(ゴミ)が非常に少なくできます。

・「木工」「釘打ち」など、個別の工作技術が必要ない
≫ 各種工具や材料に関して、要する知識技術が比較的少なくすみます。

・作製データが保存/共有できるため 
 個別製作者の技術に依存せず、引き継ぐことができる
≫ 3D プリンタと出力データがあれば、ほぼ同じものを誰でも作ることができます。
 必要なタイミングですぐに作製できる
≫  ケアやリハビリテーションにとって「タイミング」は非常に非常に重要です。
 再現性が高く、微調整が容易である
≫ 壊れても無くしてもほぼ同じものを再度作ることができます。ミリ単位での微調整・角度調整などもしやすいです。

・再現性が高く微調整が容易なため、ユーザが機微な調整をリクエストしや
すい

≫ 例えば、「ここはもう1mm手前にして欲しい」など、今まで言えなかった機微な想いをリクエストしやすくなります。

・何かと組み合わせる際、ピッタリはまるサイズに作製できる
≫ 自助具は通常、手持ちの日用品や福祉用具と組み合わせて用いることが多いため「ピッタリつくれる」ことは重要です。

・デザイン性の高い自助具を個別作製しやすい
≫ 表面・断面等凸凹していない綺麗なものが作れます。中心軸などがしっかり揃った道具を作ることができます。

デメリット

・材料が湿気や紫外線で劣化するものがあり、保管に注意が必要
≫ 材料であるフィラメントは紫外線に弱いものが多く、特に PLA や TPU は吸湿しやすいため、使用や保管場所に注意が必要です。

・煮沸消毒には向かない
≫ PLA は 60 ℃以上の加温で変形します。他の樹脂も高温に強くないものが多く、食洗機を使いたい場合は利用可能と謳われている材料を使用しましょう。

・製作時にインターネット環境が必要な場合がある
≫ インターネット回線がなくても 3D プリントは可能ですが、クラウド経由でデータをやり取りできる機能はとても便利です。

・知的財産権に留意する必要がある
≫ 容易に複製頒布が可能なため、従来の製作に比べて知的財産権に留意する必要があります。特にオープンソース・コミュニティでは既存の知見を一方的に活用するだけでなく、自分の知見でコミュニティに貢献することも期待されていることを忘れずに。

・パソコンなどでソフトを使う技術習得が必要な場合がある
≫ 共有モデル以外を利用したい場合や、一から作りたい場合はCADソフトなどを利用する必要があり、利用のための一定の技術習得が必要な場合があります。ただ、そのための素材は動画コンテンツなどの形で大量に提供されています。

・3D プリンタが身近にない場合は作製できない
≫ 3D プリントに適したデザインがあるため、なるべく作る人は 3D プリンタの仕組みや動きを理解している必要があります。

・3D プリンタを身近に感じていない支援者・家族にとっては製作が自分ごとにならない
≫ 3D プリンタで自助具をつくるメリットを社会全体で享受するには 3D プリンタのファンを増やす必要があります。

どんな人が使うのか

想定されるユーザの状態例を挙げます。一人が同時に複数の状態を持っていることもあるでしょう。
単に「どこかが動かない」「力が弱い」だけではない可能性があることに留意してください。

関節が硬く十分な可動域がない
手や足などが動かない・力が弱い
手指や足の細やかな動きが難しい
手や足を動かす際、調節が難しくむしろ力が入り過ぎてしまう
手や足を動かす際、震える
手指や足を動かす際、関節に痛みがある
手や足の皮膚表面の感覚が鈍い
手や足を動かしている感覚が鈍い
動かしすぎると筋力が低下してしまう
視力が弱い、または見えない
聴力が弱い、または聞こえない
視覚・聴覚・皮膚感覚が過敏
長時間の作業継続が難しい
複数のタスクを同時に行えない

などなど。

自助具のかたち

自助具は、ユーザの「できないことをできるように」する以外にも重要な目的があります。以下はデザイン/かたちを検討する際に必要な留意点です。
ちょっとした工夫で「誰かに頼まなくても自分でできる」ことは、その作業をやる、やらないに留まらず、次の希望が生まれるか否かに繋がっていく大事なものです。

1. 巧緻動作を粗大動作へ

2.末梢小関節よりも中枢に近い関節で動かせるデザイン

  • 「指先でつまんで引く」を「手のひらで押す」へ

  • 「指先でつまんで引っ張る・回す」を「握って押す」へ

  • 「握り続ける」を「引っ掛けるだけ」へ

「指先でつまんで引く」を「手のひらで押す」へ変換している自助具の例


「指先でつまんで引っ張る・回す」を「握って押す」へ変換している例
握り続ける」を「引っ掛けるだけ」へ変換している例

細かい動き、細かい筋肉の活動を要さず、大きな動きで同じ行為が行えるようにデザインします。痛めやすい末梢の小関節を保護するデザインです。

3. 手や指を差し込むだけで使えるかたち

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