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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 4/22号」

荒れ模様の19日の日米株式市場
19日の日本株はTSMC(台湾積体電路製造)の半導体市場見通しの引き下げと米FRB(連邦準備制度理事会)高官のタカ派寄りの発言を受けて下落して始まった。加えて中東情勢の悪化も下げを加速させた。米金融政策や中東情勢、日本株をけん引していた半導体市場の先行きの懸念や米金融政策、中東情勢などのリスク要因が一気に顕在化したようだ。日銀の金融政策決定会合を今週に控え(25日~26日)、同時に日本企業の決算も今週から始まることで、相場の変動要因が重なったことが日経平均1000円以上の下げとなったのかもしれない。

さらに、賃上げを起点とした好循環が期待された内需関連株も円安が止まらないことでさえない。円安による物価高、国内消費の減速懸念があり、業績の先行きに弱気の見方が広がった1日だった。この日の日経平均は最高値を付けた3月22日終値からの下落率が9%を超え、調整相場入りを示す10%に近づいていることも警戒感を強めたようだ。

一方、同じ日のNY市場では、NYダウが211ドル高で0.56%上昇、逆にナスダックは2.05%安。このことは何を意味しているのだろうか。このところ、根強いインフレ指標と継続的に強い労働市場により、市場関係者は既に今年の利下げ予想を大幅に後退させている。次の一手が小幅の利上げではないかと推測する声も出始めており、18日NY連銀のウィリアムズ総裁は、経済データが正当化する場合はその可能性があると示唆している。ナスダックの下げは日本株と同様に半導体市場への先行き懸念とさらに金利に敏感であるため利上げの可能性を先取りしているのかもしれない。

部分調整色続くMMF残高急減、換金売り背景も見通し難
米投資信託協会(ICI)が発表した17日現在のMMF(マネー・マーケット・ファンド)資産残高は1週間で約1120億ドル流出、残高6兆ドルを割り込んだ(5兆9700億ドル)。2008年以来の大幅減で11-17日に徴収法人税が1007億ドルに上ったことが主因と説明されている。一般的には銀行システムからの資金流出が多いとされるが、高金利下、MMFで資金運用していたと見られる。資金流出は債券、株式市場にも影響したと見られる。少なくとも、積極運用局面ではない。

18日のNY連銀のウィリアムズ総裁の「米経済好調、利下げの差し迫った理由ない」との発言で、債券利回りが上昇。2年債4.99%、10年債4.635%、30年債4.733%。ドル高を支えたが、ドル円はそれほど強く反応しなかった。円売りポジションの部分調整が出ている可能性が考えられる。金利上昇で18日時点の30年物固定住宅ローン金利が7.10%(1週間前6.88%)、上昇幅は10か月ぶりの大きさとなった。全米リアルター協会が発表した米3月中古住宅販売戸数は年率換算前月比4.3%減の419万戸(市場予想420万戸)。住宅在庫は前月比4.7%増の111万戸、コロナ禍前の200万戸と比べ依然低いが住宅市場を押し上げてきた在庫不足は徐々に解消に向かっている。

気の早い向きは「スタグフレーション(景気停滞化のインフレ)」と言い始めている。インフレリスクは消費財や不動産など。押し上げ材料と見るのはエネルギー株が代表だが、時期尚早感がある。
半導体関連株は調整過程が続いている。注目の台湾TSMC第1四半期決算は実績は市場予想を上回ったものの台湾地震による損失9244万ドルを第2四半期に計上見込み、スマホやパソコン需要が弱いとして24年見通しを約10%成長に引き下げたことで、株式預託証券(ADR)は一時6.3%安。
また、中国ファーウェイがハイエンド・スマホの販売を開始。中国製先進半導体を搭載と見られ、外国製半導体排除の動きが強まると見られている(インテル、AMDなどの圧迫材料)。また、中東情勢は膠着感が続いている。需給バランスを含め、部分調整地合いと考えられる。

見通し難で行き詰まり感、手仕舞い誘うか
17日のNY市場では原油相場3%安、米S&P500指数4日続落、米金利低下(2年債4.93%、10年債4.58%台)、ドル軟化と、売り仕掛けと言うより手仕舞いムードの強い状況となってきた。ブルームバーグによると、「S&P500指数のロングポジションは520億ドル(約8兆円)、88%が損失を抱えている」。いわゆる”売りが売りを呼ぶ”展開を警告する声が出始めた。米GSによると、CTA(商品投資顧問業者)の世界株に対する強気ポジションは約1700億ドル相当。今週までの下落で計算上、290億ドルの売り圧力が発生していると試算している。株価下落が続けば、今後1ヵ月程度でS&P500指数先物での売り圧力は590億ドルとも試算されている。

報道が減ってきているのでよく分からないが、中東情勢の不透明感がやはり大きいと見られる。17日、イスラエルは3回目の戦時内閣の閣議を行ったが、「最終的結論は出せなかった」と報じられた。英キャメロン外相、独ベーアボック外相がエルサレム入り、自制を求めたと見られる。サウジとUAEは「最大限の自制を求める」共同声明を発表した。サウジ―カタールも協議していると言う。頭の上をミサイルが飛び交う事態は避けたいとの意思表示を行う方向。レバノンのヒズボラは散発的に攻撃しているようだが、ハマスやフーシ派の動きはない。

考えてみれば、イスラエル孤立化は建国以来の課題であり、対地先がエジプトやシリアからイランに変遷して続いている。イスラエルによるイラン核施設攻撃懸念は強いが、それだけでは解決しないジレンマがある。G7によるイラン制裁で小康化するかどうかが次の焦点と考えられる。

調整が続いた場合、11月米大統領選の思惑が交錯する。裁判攻勢などでトランプ氏の勢いを削ぐ一方、経済順調、トランプ政策先取りなどで、バイデン優勢を演出する動きと見られる。ピッツバーグで演説したバイデン大統領は「USスチールは米企業であるべき、対中鉄構関税引き上げ」と表明した(蛇足だが、日本製鉄は稲山時代から武漢。宝山の中国鉄鋼業を大きくし、今も中国ビジネスを展開する「親中企業」と米国では見られている可能性がある。日本製鉄は態度表明を迫られると思われる)。

唯一の材料と見られるのが、ベイリー英中銀総裁が「インフレ率が来月には急低下し、目標の2%に近付く可能性がある」と発言した点。原油相場が懸念された程、上昇していないことなどを理由に挙げた。インフレ低下、利下げ期待が市場に戻って来るかどうかが立ち直りの焦点の一つと考えられる。

世界がフリーズ、米利下げ観測後退、膠着感強まる
元債券王で知られるモハメド・エラリアン氏(世界最大の債券運用会社PIMCOの元最高経営責任者)が「世界中の政策当局者がドル上昇と米金利高止まりへの対応に苦慮し、フリーズ(停止・凍結)状態にある」と述べた。地政学リスクには言及していないが、イスラエルの出方などを窺う市場のムードを表している。

エラリアン氏は代表的なフリーズ状態として、ジリジリ進む円安ドル高を挙げた。現在は155円オプションの綱引き下にあると見られるが、当局がチラつかせる介入は行われず、歯止めのメドはない。
16日の日本10年物国債利回りは0.865%。3月日銀会合の頃の0.7-0.75%水準からジリジリ上昇しているが、植田日銀は「利回り上昇に消極的」との見方が背景となっている。一時的な為替介入インパクトよりも、円安攻勢勢力にとっては、10年国債利回りが1.0%前後、とりわけ一気に1.0%乗せとなることに警戒スタンスと思われる。一般的には、バイデン政権への配慮で11月までは日本の金融当局は動かないとの妙な安心感も要因と見られている。

ドル買いオプションのコストが昨年11月以来の高水準に上昇、と伝えられている。ユーロ、英ポンド、豪ドル、NZドルなどに対しても米ドルは5か月ぶり高値水準。「6月利下げ、年3回利下げ」見通しが崩れていないユーロは22年11月以来のパリティ(等価、1ユーロ1ドル、16日は一時1.06013ドル)の見方が浮上している。主戦場がユーロに移れば、円安圧力は軽減すると見られている。

16日、パウエルFRB議長が講演で「FRBは予想されていたよりも長期間、高水準の金利を維持することが必要となる可能性がある」と述べた。先月の米議会公聴会で「インフレ低下に対する確信は、そう遠くない将来に得られる」としていたことから後退させている。エラリアン氏はFRBが一転して利上げを行う可能性について、「可能性は低いがゼロではない」。一部金融機関は6.25%引き上げ説まで出している。これが消えるような事態になれば、ドル安に反転すると見られる。

米大手銀決算はマチマチだが、傾向としては「融資収入減をトレーディング部門の好調で補う構図。昨日はモルガン・スタンレーが予想を上回り2.5%高、市場予想を下回ったBofAが3.5%安。大規模リストラが伝えられたテスラ株が4%安。年初からの下落幅が38%となり、市場の足を引張った。

イスラエルと非鉄インフレ
15日のイスラエル戦時内閣会議で、「イランへの反撃意向はあるものの、全面戦争は引き起こさないよう様々な選択肢を議論した」とイスラエルの民放TV局が報じたことで、一旦、緊張が緩んだようだが、イランの核開発は完成間近と言われ、既に少数発なら持っている可能性も指摘されている。施設は地下要塞で、ガザのハマス施設を上回る規模と見られている。イスラエルとて破壊は容易ではないが、「生存」のために破壊が必要との見方だ。イラン本土から直接攻撃を受けたことで、ハマス、ヒズボラなどイラン支援組織を壊滅させるだけでは「安全」でないとの論調が出ている様だ。

足元の原油相場は大きくは動いていないが、欧米金融機関の見通し引き上げが相次いだ。シティGは原油相場の見通しを80ドル/バレルから88ドル/バレルに上方修正、全面戦争に発展すれば100ドル/バレル超と警告。仏ソシエテ・ジェネラルは米国の軍事行動リスカは5%から15%に高まり、その場合は「140ドルを容易に超える」とした。足元の動きが抑えられている要因は中国の輸入減と見られる。3月は前年同月比6.2%減。1-3月で+0.7%なので、まだ押し下げるほどではないが、3月の海上経由ロシア産原油輸入は過去最高と報じられており、中東依存が低下している可能性がある。

ここに来て「銅」を中心に非鉄相場が上昇している。キッカケは12日からLME(ロンドン金属取引所)とCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)でロシア産アルミ、銅、ニッケルの新規受け入れが禁止されたこと。米英政府による対ロ制裁の一環。大量の在庫が規制外なので、どういった波乱になるか固唾を飲んで見守る状況と言う。

中心の銅相場は8日に23年1月以来の高値を付けた。元々戦時物資だが、脱炭素とAI需要で押し上げると見られている。日本でもケーブル盗が相次いだり、大阪万博建設で電線ケーブル不足が懸念されたりしている。加えて、15日資源大手リオ・ティントの会長が「世界の鉱山投資が少なく、エネルギー移行がリスクにさらされている」と強く警告した。

IEA(国際エネルギー機関)によると、2010年以降、発電容量1kw当たり必要な金属の量は50%増加、EV車は内燃機関車比4~6倍の鉱物を必要とする。鉱山業界の投資は15-16年に大幅減、その影響が出てきているとリオ・ティントは主張している。15-17日にチリで「CRU世界銅会議」が開催されているが、「AI用データセンター建設だけで2030年までにさらに100万トンの銅が必要」などの報道が出ている。非鉄相場は投機的動きをするので、予想困難だが、その展開はインフレ観に影響すると考えられる。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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