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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 3/18号」

円が再び下落、時事報道後の上げ消す-ブルームバーグより

日銀修正観測から円高、米PPIで円安
そもそも、今回の円高局面(146円台突入)は、8日金曜日夕刻、時事通信社をはじめメディアが日銀政策修正観測を流したことが始まりだった。従来のマイナス金利修正に加え、YCC(イールド・カーブ・コントロール)撤廃、国債買い入れ規模をあらかじめ示す新たな量的金融政策枠組み検討など、踏み込んだ内容だった。政策修正に賛同する日銀審議委員が増えているとも報道された。これを受け対ドル円は急騰、146円台に。その後は狭いレンジの攻防とったが警戒ムードが出ていた。

そして、14日に2月の米PPI(卸売物価指数)が発表された後に、ブルームバーグは「円再び下落、時事報道後の上げを消す」と報道。日銀は2%のインフレ目標を持続的に実現する確度が高まったとの見方を強めており、連合が15日に発表する春闘の第1回回答集計を確認した上で最終判断する。なお、円高を誘導した時事通信は情報源を明示していない。

日銀の金融政策決定会合を控え、同会合での判断を巡る臆測は為替市場で頻繁に飛び交っている。ただ、米経済の強さが再び大きく注目されるようになり(ドル高へ)、日銀のマイナス金利解除で円が上昇するとの投資家の期待はすっかり消えかかっているそうだ。

そして、16日土曜日の日経新聞一面に「マイナス金利解除、日銀17年ぶり利上げ」とある。この記事は日本時間未明、NY市場で読まれたはず。本来なら円高の記事だが、15日のNY為替市場では円安、149.04円で週を終えた。

報じられている通りに、18~19日の日銀政策決定会合で、日銀がマイナス金利、YCC(イールド・カーブ・コントロール)、撤廃・終了し、国債買い入れ規模を明示する政策に移行した場合、植田和男総裁が会合後の記者会見で将来的なQT(量的引き締め)や追加利上げについて踏み込んだ発言をすれば、ドル/円は145円を割り込んで円高調整が進む可能性がある。

しかし、記者会見でのメッセージがハト派的で、追加利上げや国債買い入れ減額が当面行われないと市場に解釈されると、円安が進む可能性がある。2月8日の内田副総裁の発言や同月29日の高田審議委員の講演での発言から、「ハト派」的な内容になる可能性が高い。そうなると、円安が進み財務省による為替介入が再度市場の焦点となることも可能性としては残るのではないだろうか。

政界漂流、そして日銀、米FOMCに注目の週
14日、「4月15日、二階氏政界引退表明」との噂が駆け巡った。岸田首相は年度内予算成立、4月米議会演説、場合によっては「電撃訪朝」などで支持率回復を狙う意向のようだが、自民党の不祥事が後を絶たず、総選挙時期を含め、混沌感が増している。

英スナク首相辺りも支持率20%で、現政権不人気は日本だけでなく世界的。不満は不法移民問題やエネルギー問題などで噴出し易く、極右と呼ばれる保守勢力が各国で台頭している。極右台頭の背後には米大統領選の混沌感があるものと思われる。

足元の経済状況や株式市場への影響は限定的と見られるが、AI・半導体関連への集中物色の一因になっている可能性はある。3月決算の日本企業は来年度計画策定の真っ最中と思われるが、株式市場では政策方向性の不透明感に頭を悩ます状況と思われる。「SDGs」や「脱炭素」の看板は色褪せており、それだけでは評価されない状況にある。

確実なストーリーの無さは随所に見られる。先述した時事通信が「日銀、マイナス金利解除で調整」と再び伝えたが円高圧力は限定的だった。むしろ、米2月PPI(卸売物価指数)が前月比+0.6%(1月、市場予想とも+0.3%)と上振れし、米金利上昇、ドル高圧力となった。

ガソリン、食料品が押し上げ要因とされ、原油相場などに神経質な状況。WTI原油相場はウクライナのロシア製油所空爆を契機に上昇、80ドル台/バレルに乗せてきており、警戒ムードを高めている。米2年債利回りは4.69%台、10年債は4.30%台に上昇、ドル円は148円台に戻した(前述したように15日NY市場は149.04円台)。ただ、PPIの前年同月比は+1.6%(1月+1.0%)で、金利見通しを変更する事態にはなっていない。

今週は日銀だけでなく、米FOMCも開催される。米国の「6月利下げ開始」確率は1週間前の8割程度から6割程度に低下しているが、今のところ大勢は変化していないと見られる。14日の米株ではエヌビディアが3.2%下落、SOX指数が1.75%下落で調整ムードだった。エヌビディアは18日に年次開発者会議を開催予定(パンデミック後初の対面会議、1.6万人参加、19年の約2倍)で、次世代高性能AIプロセッサー、AIプログラムを動かすソフトウェア「CUDA」更新版などに関心が高い。エヌビディア次第相場が続きそうだ。

日産‐ホンダ協業、TikTok禁止など材料多発
TV東京のスクープの格好で「日産‐ホンダ協業検討開始」が報道された。両社のコメントは煮え切らないもので手応え感はないが、日経はEV駆動装置イーアスクル共通化、共同調達などがテーマと伝えた。EV苦境打開の印象が強く、WSJ紙は米新興EVメーカー・フィスカーが破産法申請検討へアドバイザー起用と伝えた。世界的に早晩、補助金は打ち切られると見られ、ガソリン車などと対抗するコストダウン、技術革新が求められている。トヨタ系でもSUBARU-アイシンの提携が伝えられた。

フォローしていないので大雑把な印象だが、日産株は低迷している。ルノーとの関係は対等レベルに戻すのに成功したが、中国縮小・撤退が依然課題。下請法違反で、機関投資家は株を買い難い状況。漠然としているが、株価低迷打開に結び付くか注目されるところ。全般に、割安感修正の次は、取り残された企業の経営戦略が注目される。

英資産運用会社ジャナス・ヘンダーソンによると、23年に世界全体の企業配当総額は過去最高の1兆6600億ドル。22年からの増加の半分は銀行セクターだが、86%が据置か増配を行った。自社株買いを含めて株高の一因だが、経営戦略での投資判断の一つは株主還元姿勢で判断されよう。

投資銀行業務のうち、M&Aが回復、IPOは低迷と明暗を分けている。2月、世界のM&Aは前年比86%増の2819億ドル、IPOは同21%減の61億ドル。年初から3月第1週までのM&A総額は前年同期比55%増の6017億ドル、100億ドル超案件は3倍の10件。買い手の資金潤沢が大きな原動力。日本市場でも様々なM&A案件が株高要因になっている。一般的に、TOBなどは時価の何割か上で行われ、個人投資家にとっては垂涎案件。

米下院がTikTok規制法案を可決(上院は不透明、トランプ氏はメタ独走を許すと反対姿勢)、バイデン大統領は日本製鉄のUSスチール買収に懸念(日本製鉄はUSスチールの組合との協議に入っている。技術革新や脱炭素投資に必要との主張が何処まで通るか)、欧州議会はAI規制法を可決など、M&Aのバックラウンドとなりそうな状況は揺れ動いている。
日本では春闘満額回答ラッシュで、賃上げ競争が起こっている。事業戦略積極化の要因になると考えられる。

米CPI予想上回る、S&P500最高値更新で売り方反転も
12日発表の2月米CPI(消費者物価指数)は前年同月比+3.2%、市場予想及び1月の+3.1%を上回った。ガソリンや住居費が押し上げ要因で「粘着インフレ」と呼ばれ始めている。前月比で+0.4%だったが、2つで6割以上を占めたとされる。ドル相場は乱高下しながら、ドル指数0.2%高。ドル円は一時148円台に戻した。

米利下げ開始6月の観測がやや後退したが、株式市場には響かず、同日S&P500指数が終値で最高値を更新した(5175.27,+1.12%)。
主因は前日に好決算を発表したオラクル+11.7%の急伸。AIが関連するクラウドコンピューティング事業が拡大している。第3四半期(12-2月)に新規大型クラウドインフラストラクチャー契約を締結したと表明。

説明会で3回エヌビディアに言及し、一週間内に共同記者会見を行うと言う。つれて、エヌビディア株も7.2%高、SOX指数2%高。反面、内部告発した社員が急死したボーイングは4.3%下落、NYダウの足を引張った格好(+0.61%に止まる)。

BofA(バンクオブアメリカ)がS&P500種ベースの24年一株利益予想を235ドルから250ドル、前年比12%増に引き上げた。マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグル)などテック大手の今年の設備投資は1800億ドルに達する計画で、半導体、ネットワークから電力需要、公益事業、コモディティなどに好循環をもたらすとの見立て。企業は「高金利と偏った需要環境に適応」したとの見解。

米GS(ゴールドマンサックス)は世界金融危機以降、米株が他市場をアウトパフォーム、「世界株式市場におけるシェアが50%に拡大している」と発表した。米企業の成長力が高いことが主因。地域的分散投資で分散効果が高いのは日本とし、新興国市場ではインドなどを挙げた。
また、GS、JPモルガンなどが「ヘッジファンドの株式取引でレバレッジの利用が過去最高付近まで拡大している」。リスクの高い取引が増えており、乱高下の一因と見られる。
今回の調整では、今のところVIX(恐怖)指数や東証空売り比率に大きな変化が見られず、弱気展望による売り崩しではないと考えられる。米株次第だが、流動性の高い動きが続く可能性がある。

5%内調整か、8-10%調整までイメージか
先週は週初から、フワフワ上がった相場の反動は結構きつかった。主因となった日銀金融政策の変更有無が判明するまで1週間(19日)あるので、不安定な動きが続いた。日経平均が868円安した11日、日銀がETF購入に動かなかったことで下げ足を強めたとされるが、日銀は事実上ETF購入を停止していると見られるので、売り口実だったと思われる。

日経平均の調整イメージは、5%程度の調整(3万8000円程度の下値で3万9000円前後の揉み合い、値固め展開に移行)か、8-10%程度の調整(瞬間的に3万6000円程度に突っ込み、切り返すパターン。この場合の方が4万円台回復が早いかも知れない)。

第1のポイントは為替。5%調整はドル円143円台だが、円高は146円台で一応止まった。仮に、日銀がYCC廃止に踏み込んでも、日米金利差3%程度(日本1%、米国4%)が維持されれば、円キャリートレード崩壊には至らないと考えられるので、為替を絡めた日本株売りは限定的になると思われる。為替安定なら輸出関連株の見直しから立ち直る可能性がある。

第2のポイントは”全人代終了後の中国”。報道を見る限り、習主席の永久独裁体制が固められた印象がある。人民解放軍代表団に「軍は海上軍事衝突の準備と海洋権益の保護、海洋経済の発展を調整すべき」と訓示した。
具体的には、小競り合い的動きのある金門島周辺が注目される。台湾側は「軍事演習の常態化を目指しているが、戦争勃発の兆候は見られない」との見解だが、緊張が高まる恐れがある。なお、米25会計年度(24/10~25/9)予算教書が発表され、米国防費は131兆円。

この場合は、広範囲な防衛関連株から物色対象となる可能性がある。
第3のポイントは「内需期待感」。賃上げは日銀金融政策変更要因だが、個人消費回復期待要因でもある。10-12月期GDP二次速報が上方修正され(年率換算で一次速報の―0.4%から+0.4%)、リセッション入りは回避された。

2015年7-9月期以来の現象。情報通信、運輸、郵便などの設備投資が上方修正されたことが主因で、個人消費は―0.2%から―0.3%に下方修正され、立ち直りが焦点になる。また、補正予算を立てなかったことで能登復興が遅れている。予算成立を急いだ理由の一つと見られ、北陸新幹線延伸を契機に、何処まで観光需要などを盛り上げられるかも注目点となろう。なお、1月経常収支は4382億円の黒字(市場予想3304億円の赤字)だった。結果だけを見れば日本の「稼ぐ力」は順調と言える。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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