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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 2/5号」

雇用統計で利下げの可能性遠のくか
注目の1月の雇用統計は予想以上に力強かった。非農業部門雇用者数が前月比35万3000人増と、市場予想の18万人を大幅に上回って増加したほか、時間当たり平均賃金の伸びも前月比、前年比で共に加速した。前月比0.6%増-前月は0.4%増。2022年3月以来の大幅な伸び。前年同月比では4.5%増-前月は4.3%増、予想は41%だった。

これで市場では利下げ圧力が軽減、FRB(連邦準備理事会)は様子見姿勢を取る可能性が強くなるとの見方が出ている。FRBが4月30日─5月1日の会合で0.25%の利下げを決定する確率は現在、約70%。雇用統計発表前は約90%だった。今回の雇用統計から米経済は高水準の雇用を生み出すほど十分に力強く、平均時給が前年同月比4.5%上昇しているのは、米金融当局者の多くにとって需要サイドからの潜在的なインフレを示唆するのではないだろうかという意見が出始めている。

一方では、シカゴ地区連銀のグールズビー総裁はこの日の朝方発表された雇用統計について、利下げを先送りする理由ではなく、労働市場に悪化の兆候が出ていないことを示す安心材料と受け止めると述べた。同総裁の発言は利下げ期待する市場関係者にはいくらか安心感を与えたのではないだろうか。この日の株価はNYダウが134ドル高(0.35%)、ナスダックも267ポイント高(1.74%)。米10年債利回りは再び4%台に乗せてきた。

米地銀危機など背景に米債利回り低下
31日に開催された米FOMCで3月利下げ期待は後退したが、この日の米債利回りは予想外に低下した。大型イベント通過による売り方の買い戻しか、待機勢の買い出動か分からないが、1月31日時点で「米MMF(マネー・マーケット・ファンド)初の6兆ドル(879兆円、週間で417億ドル流入)乗せと報じられ、豊富な資金が背景にある。

FOMC 後、2年債は4.19%台、10年債は3.85%前後、最も低い5年債は3.8%割れ、30年債は4.10%台。10年債は1月19日に付けた今年最高水準から約35bp低下(前述したように雇用統計で再び4%乗せ)。

新たな材料はないが、米地銀の動揺が続いている。投資判断や格付け引き下げで発震源のNYCB(ニューヨーク・コミュニケーション・バンコープ)は前日の38%下落に続き一時15%安、2000年以来の安値。
バレー・ナショナル、ウェスタン・アライアンス、ザイオンズ、バンクユナイテッドなどが8~10%安。日本にも飛び火し、あおぞら銀行が15年ぶりの赤字転落、無配でストップ安。多少気になるのは、ムーディーズ発表の23年デフォルト額が910億ドル超、前年380億ドルの2.4倍に膨らんだ。発行体の2/3がPE(プライベート・エクイティ)ファンドの傘下で半数が2回目体験。商業用不動産ローンに加え、投資再生案件などに危機が広がるか要注視。

同じ日、原油先物相場が2%超下落。誤情報だったが、アルジャジーラがハマスとイスラエルの停戦合意を報じたことがキッカケ。イスラエル国防相は「ガザ南部でハマス旅団を解体、戦闘員1万人殺害」と述べており、ハマス弱体化が進んでいるとの見方が背景にある。また、米兵3人を殺害したイラク内の親イラン組織「カタイブ・ヒズボラ」が攻撃停止を表明、米軍はイランを直接攻撃しない姿勢で緊張感が緩んだ。

1日発表の週間新規失業保険申請件数が前週比9000件増の22.4万件(市場予想21.2万件)。この時点ではインフレ要因を示唆するものではないと看做されていた。

米企業決算は好調。時間外だがメタは売上高が予想を超え、初の四半期配当を発表したことで時間外株価は12%高。アマゾンも売上高が予想上回り、10-12月期営業利益は4.8倍増、1-3月期も強い見通しを示し、株価は6%台。アップルも売上高は市場予想を上回ったが、中国13%減が嫌気されたか、一時3%安。総じて、米国追随で決算ラリーが続こう。

FRB、ややタカ派姿勢、米債利回りは低下、短期ポジション調整か
地政学リスクを意識したのか、利下げ論争を行ったトランプを意識したのか、分からないが、31日のパウエルFRB議長の記者会見は「3月利下げは基本シナリオではない」との発言で利下げ期待が遠のき、株式市場はポジション調整の動きとなった。金利先物市場で織り込む3月利下げ確率は36%、直前に付けていた59%から後退した。FOMC 後の時点では5月利下げ期待は変わらず90%程度。10年債利回りは一時上昇した後低下し3.92%前後。

もっとも、日経平均先物の動きを見ると、NY時間早朝に下落、146円台への円高を伴っており、引き続きポジション調整の印象が強い。反応したのは米企業決算と見られ、前日引け後に発表したアルファベット(グーグル)が広告事業収入が予想を下回り、株価は7.5%下落したことに反応したと見られる。クラウド事業は前年同期比+25.7%の92億ドル、成長の一因は生成AIと説明。マイクロソフトのクラウド部門は20%増で、AI期待の基本シナリオは変わっていないと見られる。ただ、両社とも開発コスト上昇を見込んでおり、嫌気材料視された可能性はある。

地合い悪化に影響したと見られるのは、前述のNY地盤の銀行持ち株会社NYCB(ニューヨーク・コミュニティ・バンコープ)株は昨年の地銀危機時に勝ち組と看做され、シグネチャーバンクの預金を買い取っていたが、10-12月決算で予想外の赤字、減配(17セント据え置き予想→5セント)を発表した。貸倒引当金の急増が主因で、商業用不動産下落を示す兆候だと受け止められた。米債利回り低下の一因との見方もある。

トランプ氏が日本製鉄のUSスチール買収に「(自分が大統領当選なら)絶対に阻止する」と表明したことも嫌気材料となった可能性がある。全米運輸労組との会談後で、雇用維持が目的とも述べており、トランプ流の高飛車発言かも知れないが、対米投資に逆風と受け止められたようだ。全米鉄鋼労組USWは買収計画に反対を表明している。安倍氏亡き後、日本政府に雇用などを説明できる要人が居ないことも手痛い。

新トランプノミクス、米大統領に返り咲いた場合に予想される政策一覧

バイデン政策にトランプの影、トランプ圧力か
1月11日付ブルームバーグは「新トランプノミクス、大統領に返り咲いた場合に予想される政策一覧」記事を配信した。
推測の域を出ないが、9分野を取り上げ網羅的見解を示した。選挙戦でのテーマの一つは米国民に「4年前より裕福か」と問いかけることだとしている。

9分野は下記の通り
①貿易と投資・・・一律10%関税で「米国第一」推進。同盟国に譲歩を迫る。
②対中国・・・対中高関税は60%を主張。最恵国待遇撤回、投資・資本規制も考えられる。
③税金・・・トランプ減税(25年期限)推進。対抗のためイエレン財務長官は継続を表明している。
④移民問題・・・1日1万人の流入を許しているバイデン政権を強く批判。4千人に抑えるとするバイデン提案の協議を拒否。問題は深刻化しており、トランプ支持の原動力になっている。
⑤財政政策・・・トランプ時代にコロナ対策もあって財政赤字は膨らんだ。抜本的な財政赤字抑制は主張していないが、外国支援、気候変動対策、移民対策費などのカットを主張。とりわけ、孤立主義的姿勢で財政負担の大きい外国紛争への関与から米国を解放すると主張。NATO脱退や日米安保タダ乗り論が再燃する可能性がある。ウクライナ戦争は即止めさせるとしている。
⑥規制緩和・・・規制が一つできれば二つ削減との前回方針踏襲か。
⑦気候問題・・・前回パリ協定から離脱。バイデンで復帰も再離脱の公算。EV、グリーン投資支援撤廃。
⑧FRB・・・前回、利下げ論争があった。今回も利下げ圧力を強めると見られている。26年任期切れのパウエル議長は再任しないと表明している。
⑨エネルギー・・・気候問題とセットだが、米国増産を進める方針。

29日、米財務省は第1四半期連邦借入額見通しを7600億ドル、前回比550億ドル減に下方修正した。米金利動向に微妙な影(金利低下)を落としている。テロ攻撃に参加したUNRWAへの支援金停止をいち早く発表したのも、トランプの影が感じられる。左傾化している国連組織が慌てるのも頷ける。メディアを使った反トランプは激しさを増すと見られる。米クラウドサービス企業に外国顧客の報告義務付け、中国ハッカー集団の活動無効化対策など、主に中国を意識した具体策にもトランプ影響が感じられる。
今回のFOMC結果発表でパウエル議長の発言はトランプを意識した内容ではなかったと思われる。

中国恒大の破綻処理注視、中東も緊迫続く
ついにと言うか、やっとと言うか、29日中国恒大に清算命令が出た。大雑把な数字で、負債額50兆円、資産35兆円、納入業者への支払代金で12兆円滞っていると伝えられる。
海外投資家が保有する債権は230億ドル。恒大株は21%急落した後売買停止、ドル建て債は26日時点で額面1ドルに対し0.01ドル。清算手続きに入るが、今のところ音無しの中国当局が容認するか、ほとんどの資産は本土にあり処分できるか、昨夏デロイトの試算で債権回収率3.4%とされたが既に3%を割り込んでいると見られ、どの程度の回収が図れるか、他の不動産開発大手や連鎖倒産が発生するか、などが焦点になる。

同日、新華社通信は政府系ファンド・中国投資(CIC)と不良債権処理を行う国有資産運用会社3社が統合されると短く報じたが、取り消されたとブルームバーグが報じた。昨年5月頃から観測記事が出ていたものだが、中国政府自身が不良債権処理に方策を持たない可能性がある。何処まで「5%成長」を主張し続けられるか、懐疑的見方が強まると見られる。

米NEC(国家経済会議)のブレイナード委員長、ホクスタイン大統領特別調整官等は中国経済とそれに並ぶリスク要因のフーシ派による紅海攻撃の影響は抑制されているとの見解を相次ぎ表明した。既にスエズ運河経由貨物は45%減と報じられており、欧州から物価上昇圧力が掛かる可能性がある。新たに発生したヨルダンでの米兵3人死亡の報復でイランとの緊張が高まる恐れがある。今のところ、米経済を脅かす材料となっておらず、逆に米市場に資金が向かう構図を強める要因との解釈と考えられる。

トヨタグループの不祥事が相次いでいる。日野自動車、ダイハツ、デンソー(燃料ポンプの不備)に続き本家の豊田自動織機。ディーゼルエンジンの出力試験不正で、トヨタは10車種の出荷停止。”モノ作り日本が~”との批判の声が出ているが、今のところ大きな事故には結び付いていない。業績への影響を見極める姿勢と思われる。

穿った見方だが、不正続出は社内の情報管理・厳格化の過程で発見されているとの見方がある。三菱電機の時は「スパイ防止対策」との見方もあった。長年の慣習が見直されているものと思われる。米国で発生しているボーイングのトラブルの方が深刻に見える。楽観材料ではないが、総合的な判断になるものと思われる。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。


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