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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 3/25号」

米6月利下げ期待戻る。AIブーム再燃も
19日の日銀決定は「17年ぶり利上げ」報道一色になった。マイナス金利解消で短期金利が引き上げられたが「緩和継続」表明で長期金利は逆に低下(リスクヘッジの買い戻しと見られる)、ドル高円安に振れた。

日銀にはトラウマがある。17年前の07年2月に福井総裁は利上げに動いたが、その半年後に「パリバ・ショック」から米サブプライム危機となり、その1年後に「リーマン・ショック」に至った。日銀の対応は遅れ、白川総裁の引き締め策は超円高を招いた。元々、「失われた30年」は三重野総裁(89年12月就任)の高金利引き締め政策で始まった。金融政策を国内要因(今回は主に春闘・賃上げ)で説明するのは無理がある。圧倒的に海外情勢の影響が大きく、それと日銀の整合性が問われている。

フシ目のドル円160円目指して円安が進行するのではと思ったが、米FOMC結果がブレーキを掛けた。年3回の利下げ方針が変わらず(ただし年2回と拮抗)、「6月利下げ開始」期待が戻った。
25年末政策金利見通しは3.9%、12月FOMCの3.6%から上昇した。成長率見通しは24年2.1%(12月時点1.4%)、25年2.0%(同1.8%)。10年債利回りは4.27%前後に低下した。

パウエル議長は記者会見で「FRBがバランスシートの縮小ペースを鈍化させる日が急速に近づいている」と述べた。為替相場には量的政策が直接的に効きやすい。日銀が国債購入ペースを維持したのと対照的で、今までのドル高にはFRBの量的引き締め姿勢があったと考えられる。一部には、バランスシート縮小加速との見方もあったので、ミニサプライズとなった可能性がある。足元、円安含みだとしても一本調子では行かないと見られる。日銀が実際の利上げに動くのはいつか、前回07年はゼロ金利体制解除から半年後だった。景気動向を睨みつつ、それぐらいは時間を掛けるのではないか、と見られている。

生成AIの活用進める日本企業 米エヌビディアと協業の動き活発

NHKが「生成AIの活用進める日本企業 米エヌビディアと協業の動き活発」と報じた。具体例で取り上げられたのは日立製作所、三井物産、ソフトバンク、NTTデータグループ。エヌビディアにとっては高額AI半導体購入のお客様だが最新旗艦チップ「ブラックウェルB200」(価格3万~4万ドル。従来品比で最大30倍高速)の年内出荷見通しを表明した。

ファンCEOは「チップを構築するのではなく、データセンターを構築する」と表明。データセンター市場は年率25%成長、日本でも新たなデータセンター市場構築が活発化する公算がある。一時ボトルネックとなったパッケージングでは台湾TSMCと協力中と明らかにした。熊本が重要な拠点になる可能性がある。

ブレーキ材料は、仏高級ブランド・ケリング(グッチ)が1-3月売上高がアジア太平洋不振で約20%追い込むと表明し、株価は一時15%安。日本を除くアジア太平洋地域の昨年の売上構成は35%を占めていた。日米とも青天井相場だが、中国情勢に引き続き神経質な地合いと考えられる。

スイス利下げ、米国、欧州株も最高値更新
先週は世界の金融政策ウィークで、その中で21日スイス中銀が予想外の利下げ(0.25%利下げで1.50%)を行った。利下げは9年ぶりで、スイスフランは8か月ぶり安値。2月のインフレ率は1.2%で、追加利下げの思惑も出た。スイス中銀は慎重姿勢で知られ、この日金利を据え置いた英中銀、ECBやFRBも追随するとの期待が広がった。あまり影響はないが、台湾、トルコが利上げ、メキシコが21年以来の利下げを行った(政策金利0.25%下げ11%に)。

米株は同日主要3指数が揃って終値で最高値更新。前日引け後に市場予想上回る好決算発表のマイクロンが+14%で半導体株を牽引(SOX指数+2.3%)。NY証取全体では値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の比率は2.34対1と物色範囲が広がっている。ベンチマークのS&P500指数の年末目標は、各証券会社が後追い的に引き上げてきたが、ついに仏ソシエテ・ジェネラルが5500ポイント目標(21日終値5241.5)に引き上げた。

オマケは21年だったか投機株乱舞の舞台となったオンライン掲示板レディット株の新規上場。初値は公開価格の38%高、終値は48%高。不振のIPO市場に活気を呼び戻すキッカケになるかも知れない。

ただ、この日のNYダウの日中足を見ると、寄付き後から上昇した後は高値圏での揉み合い、小幅ながらジリ安基調で上値の重たさも感じさせる動き。米司法省が反トラスト法違反疑いで提訴、EUがデジタル市場法順守で調査対象としたアップル株は4.1%安。アルファベット(グーグル)、メタなども重い動き。

何が相場のブレーキ役になるか、未だ市場外での空想論の局面で、あーでもないこーでもない議論段階だが、インフレ懸念が予想外に再燃してくる、企業業績が悪化ないしは伸び悩みに転ずる、地政学リスクとりわけ中国情勢の悪化などが取り沙汰されているようだ。

日本株の焦点の一つ、24年度企業業績見通しで、3月ロイター企業調査がいち早くアンケート調査を発表した(回答社数237社)。それによると、1割以上の営業増益見込み36%、1割以上の営業減益見込み21%、4割近くが横ばい見通し。期初予想としては、思ったより強気の印象を受けたが、2割以上の増益とした企業が13%。今期減益からの反転、値上げ浸透効果、米国やアジア市場で海外市場伸長などが要因と見られる。選別・循環物色に向かうと想定される。

徐々にインフレ警戒
日経平均の値動きだけ見ると、先々週の売り仕掛け(円買い株売り)は日銀決定を待たずに手仕舞いとなった印象。日銀政策決定会合当日の19日午前2時頃(NY時間18日午後)に日経新聞が「YCC廃止、ETFやREIT購入なども停止、ほぼ全面的に異次元緩和終了」観測記事を流したが、ドル円は148円台止まり、直ぐに149円台に戻し、反応は限定的だった。 
 
FOMCを前に米国の利下げシナリオが後退していた。「6月利下げ開始」確率は50%程度に後退、米GSはJPモルガンなどに続き、年内の利下げ(0.25%ずつ)回数を4回から3回に引き下げた。米10年債利回りは一時4.348%、2年債は4.751%、2月23日以来の高水準となった。

ここに来てインフレ観が再び強まっている要因は、エネルギー価格と家賃が主因。13日、イエレン財務長官は「家賃の変化がCPIに反映されるには時間が掛かるが、今年中に下落することを期待している」と述べた。上昇中心地のNYは不法移民送り込みで人口増が背景にあると考えられる。

当面の焦点は6週連続上昇中のガソリン価格と見られる。18日の原油相場はWTIが82.72ドル/バレル、北海ブレントが86.89ドル/バレル。ともに昨年10月以来の高値。先週のウクライナによる露ロスネフチの製油所攻撃以来、投機筋が介入していると見られる。モルガン・スタンレーは北海ブレントの今年第3四半期見通しを80ドルから90ドルに引き上げた。

状況を複雑にしているのが中国情勢。中国経済がデフレ要因なのかインフレ要因なのか、市場は判断しかねていると見られる。
18日、典型的な事例が出た。国家統計局は1-2月粗鋼生産量を1億6796万トン、前年同期比+1.6%と発表したが、23年1-2月は1億6870万トンだった。
知らぬ間に前年数値を下方修正していたと市場は受け止めたようだが、前年がウソなのか、今年がウソなのか、両方とも信用置けないのか、市場は戸惑い。
元々、定修見込みで減産予想だったが、ロシア向けなどで輸出が増大した可能性もなくはない。戸惑いつつ、シンガポール鉄鉱石先物相場は続落、1トン=100ドルを割り込み、昨年5月以来の安値。この事例から見ても、中国の生産活動には懐疑的。習主席のスローガンは「新質生産力(新たな質の生産力)」だが、実効度は不明。年初のインフレ収束期待には中国生産の回復があったが、不透明感が増していると言えそうだ。

日米金融政策から政策の方向性を探る攻防
日銀は2日間も会合は要らないのではないか、と思われるぐらい、今回は事前報道が活発だった。「マイナス金利解除」でほぼ統一されている。段階的な金融政策変更が想定されているが、通常、金融政策は後手後手が常識。

内需需給ギャップが残り、4~5%の記録的賃上げ影響の見極め、海外で顕著になって来ている企業倒産増(コロナ融資の返済局面など)やスタグフレーション懸念、そして中国、ウクライナ、中東の不透明感が続く状況下で、政策変更が妥当かどうか議論は残ると考えられる。日銀の政策変更が限定的なので、日本の投資家の外国証券保有4兆4300億ドル(660兆円)が逆流するリスクは小さいと見られている。

米国の利下げシナリオは後退している。「6月利下げ開始」予想は変わっていないが、JPモルガンは24年の利下げ幅予想を125bp(1.25%)から75bpに下方修正した。その分、インフレ高止まり感が出ている。
BofAは週間データで13日週に560億ドルが米株に流入したと発表。「スタグフレーション・リスクを無視」、「労働市場はついに亀裂が入りつつある」とやや辛辣なコメントを出した。金利高止まり観とギャップを生じる可能性がある。

モルガン・スタンレーの分析によると、決算発表でのキーワードは「業務の効率化」だったそうだ。効率化の標的は中間管理職。「中間管理職は最も危険な仕事」と呼ばれているそうだ。22年にツイッターを傘下にしたイーロン・マスク氏が「コーダー1人に付き、管理する人が10人いるように見える」とツイッターの滅茶苦茶な経営を批判したことが有名。その後、改革に伴い経営は混乱した。

春闘賃上げで内需株見直しとのイメージが定着しているが、細分セクター間で格差が広がっている。年初来(日経平均+16%)で、三越伊勢丹+44%など百貨店株が買われ、阪急阪神-3%、JR東+9%など電鉄株が人気が低い。航空、レジャー関連も人気が低いがホテル株は帝国ホテルの急騰などで買われている。ローソンのKDDI5割取得など、M&A思惑、業界再編・業態変更などの変動が激しくなりつつあり、材料性を睨みながらの展開と想定される。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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