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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 5/13号」

米市場4月調整ほぼ埋めるが強弱感は割れる
10日のNYダウは8連騰、S&P500指数は5200ポイント台を前日回復、4月9日の水準を超え、3月下旬の最高値まで1%弱の水準。
4月相場を混乱させた中東情勢は、ガザ休戦交渉に進展はないが、WTI原油相場は80ドル/バレル割れで、インフレ圧迫が和らいだ。9日発表の週間新規失業申請件数が前週比2.2万件増の23.1万件(市場予想21.5万件)、昨年8月以来の高水準となり、3日の雇用統計以降の「労働需給の緩み」を追加照明した格好。NY、カリフォルニア、イリノイなどで申請数が増加した。今週の物価統計の弱含み観測につながった。

株価水準が高値圏にもどったことで、ここからの強弱感が割れている。22Vリサーチと言う調査会社が実施した投資家調査では、S&P500指数が次に10%動くのは、上昇との回答が52%、下落が48%。意見が割れた市場では、銘柄選択とミクロテーマが支配的になると説明している。10年物国債利回りは4.5%を下回ってきたが(10日は4.5%の引け)、今後4%に低下する68%、5%に上昇する32%と、金利低下期待が優勢。金利低下予想には米景気減速観も含まれ、ドル高基調の変化も示唆される。

小さいニュースで詳細は分からないが、8日「テキサス州の電力価格が約100倍に急騰した」と報じられた。異常な暑さで冷房需要が拡大、風力発電の出力が低下するなど多くの発電所で効率が低下ないしは供給停止が相次ぎ、テキサス電気信頼性評議会(ERCOT:送電網を運営)が午前中に夜間電力に「注意報」を出した。それを契機にダラス地域のスポット価格が1メガワット時32ドル程度から3000ドル強に跳ね上がったと言う。

電力危機は、異常気象による冷暖房需要増、化石燃料からのシフト、データセンター建設ラッシュなどデジタル化需要急増、再エネ比率上昇による不安定化など複合要因で発生すると見られている。バイデン大統領には、再エネ推進批判、インフレ再燃などで不利な要因になる。折から、「トランプ氏、石油業界幹部に環境規制破棄を明言」と報じられており、バイデン大統領としては電力危機は避けたいところ。市場ムードを決める可能性もあり、今夏のチェックポイントの一つとなろう。

NYダウ3万9000ドル回復も方向感なく
最も驚きのニュースは8日付NYタイムズ紙。米大統領選第三の候補、ロバート・ケネディJr氏が「認知機能の問題を抱え、脳内に入った寄生虫が脳の一部を食べたと2012年に主張。現在は回復」と報じた。物忘れや意識の混濁が激しくなったとして2010年に医師の診断を受けたとし、2012年の離婚訴訟で収入減の理由として説明したと言う。
ケネディ氏は70歳、老老対決(バイデン81歳、トランプ77歳)の大統領選では”若手”だが、認知機能の衰えは候補者全員の潜在的な大問題になっている。改めて蒸し返されるかも知れない。

NYダウは8日、5週間ぶりに3万9000ドル台を回復したが、方向感は無い。「投資家は市場を明確に方向づける次の材料を待っている」とロイターは伝えているが、大統領選の混迷が続く間は明確な材料は出て来ない可能性がある。金融政策などを巡るジャブの応酬の範囲を抜け出せないように見える。今週は14日に米PPI(生産者物価指数)、15日に米CPI(消費者物価指数)の物価統計、ウォールマートなどの小売決算が予定されている。

スウェーデン中銀がユーロ圏に先駆けて、0.25%利下げ(3.75%)、16年以来8年ぶり。先のスイスに続く利下げで、なお年内2回の利下げ見通しを示した。通貨クローナは対ユーロで0.6%安、4月終盤の今年最安値に接近した。先進国とは連動しないが、ブラジルも0.25%利下げ、10.50%。過去6会合連続で0.5%利下げを行ってきたが、米国の動向が不透明として小幅利下げに転じた。

つれて米ドルが強含み推移。8日ドル円は155円台に戻して来た。植田日銀総裁は岸田首相との会談後、円安警戒発言を行ったが、インパクトはない。前日のトヨタ決算で今期2割営業減益予想ながら、為替前提はドル円145円、1円で500億円増益になるので市場の受け止めは横ばい圏のイメージ。その分、見直し余地があるが、不安定な為替前提では持続的トレンドになるか不透明。

ファーウェイ向け半導体輸出許可取り消しで米インテル、クアルコムが売られた。決算低調として英アームも売られ、AI・半導体ブームに水が入ったと伝えられた。反面、レモンド米商務長官は「最先端半導体の92%は台湾TSMCに依存」と議会公聴会で述べた。その台湾の4月輸出は対米で前年同月比+81.6%、過去最高の伸び率。11.3%減の対中輸出と明暗を分けた。金額は102億ドル対113億ドル、逆転が迫っている。AI関連需要が好調と伝えられる。日本株は10日の月次SQ通過後に、やや軽くなるかが焦点だが、基調は米追随と見られる。

米景気減速観は広がるか、米高金利長期化か
先週も米国債入札が実施された。7日は580億ドルの3年債、8日は420億ドルの10年債、9日は250億ドルの30年債入札。7日の3年債入札は「堅調な需要を集めた」と報じられている。一般論だが、入札期間は債券市場を中心に膠着的になるイメージ。10年債は難なく消化、30年債も堅調。

一時の「政策金利6%台への利上げ再燃」論は表面上消えたが、「利下げ開始」を巡ってはなお意見が割れている。バラバラな発言で知られる地区連銀総裁は、リッチモンド連銀総裁が「金利上昇の本格的な影響はこれから表れる」、ミネアポリス連銀総裁は「年内は金利据え置きの可能性」と発言。一つの焦点は個人消費の動向だが、やや消費鈍化のニュースが増えてきた感がある。  

3日、サンフランシスコ連銀は「最新の推計では、コロナ期に家計が蓄えた貯蓄を使い果たした」と発表。パンデミック期の余剰貯蓄は21年8月に2兆1000億ドル(324兆円)まで膨らんだが、以降は取り崩しが続き、今年3月時点で余剰貯蓄は720億ドルのマイナスに転じたと言う。消費支出が昨年の力強いペースから鈍化するとの見方があり、アマゾンやスターバックスの決算で消費者の節約志向が強まっていると指摘された。

フィラデルフィア連銀の調査によると、クレジットカード延滞率は昨年10ー12月期に統計開始以来の最高を記録した。12月末時点でカード残高の3.5%が少なくとも30日延滞。
NY連銀の調査では「米消費者、住宅価格・家賃の短期的上昇を想定。住宅購入が不可能と言う見方が強まっている」。家賃は今後1年で9.7%上昇すると見ている。しつこいインフレの原因の一つ。米北東部で住宅購入の可能性があるとの回答は半減(51%→26%)した。
米銀は1-3月に融資基準を厳しくしたと伝えられた。高金利は米財政を圧迫とも伝えられた。

景況感の減速は程度の問題で、スタグフレーション・トレードに傾くか、金利低下期待を好感するか、その間で揺れ動きそうだ。今のところ、企業業績を揺るがすような事態までは想定されていない。しかし、10日発表のミシガン大の消費者信頼感指数は67.4と6か月振りの低水準。4月の 77.2から悪化。1年先の期待インフレは3.5%と前月の3.2%から上昇、ややスタグフレーション気味で要注意か。

米GSによると、米株最大の買い手は企業(自社株買い)。24年の見込みは9340億ドル(約144兆円)、来年は1兆ドル超が見込まれている。アップル1100億ドルを筆頭に、アルファベット(グーグル)700億ドル、メタ500億ドルなどハイテク大手が中心。景気減速の影響は限定的との見方だ。

米利下げ期待戻り、株価も落ち着き気味
最近の傾向は、イベント前に荒れ、発表で収束するパターンのように見える。先々週の米FOMCを通過(パウエル議長の姿勢は警戒された程タカ派でなかった)、雇用統計は市場予想を下回り、市場に”利下げ期待”が戻った格好。警戒されたアップル決算は減収だったが、過去最大規模の17兆円(1100億ドル)の自社株買いを発表し、逆に上げ要因となった。S&P500種採用企業の決算発表は8割方終了し、増益率は発表前の3.8%程度から6.5%程度に拡大している。

雇用統計発表後の3日時点の金利先物市場での「9月利下げ」確率は78%、雇用統計発表前の63%から上昇。年内利下げ回数は1回(0.25%)から2回に戻った。

最も顕著に落ち着きを示したのは、VIX(恐怖)指数。3日、6日と13.49ポイント、14ポイント割れは4月1日以来。さらに9日は13ポイント割れの12.96ポイント。10日は12.74ポイント。同日の欧州は14割れの13.60、4月4日以来の低水準。日本は7日時点で19.20、10日に19割れの18.53ポイントと日経VIが何処まで低下するか、注目されるところ。恐怖指数の落ち着きは株価の落ち着きをも示唆する。

日経平均のラフなイメージは、36000~39000円ゾーンから39000~42000円ゾーンに切り上げられるかどうか。やや遠目だが、海外勢は「6月末上げ賛成」なので、大きな材料がない限り、ジリ高展開を描きやすい局面に向かうと考えられる。

80ドル/バレル割れとなったWTI原油相場が、インフレ観後退に寄与していると見られる。イラン-イスラエル危機が遠のいたためと見られるが、ガザ停戦を巡るハマスとの攻防が続いており振り出しに戻った。バイデン政権が停戦に向けての圧力をネタニヤフ政権に掛け続けているので、どう転ぶか不透明感は依然強い。

習近平訪仏、セルビア、ハンガリー訪問と外交シーズンとなった。何処まで本気か分からないが「習主席、新冷戦回避でマクロン仏大統領に呼び掛け」(ブルームバーグ)と報じられている。より強硬な欧州委員長は、不公正な補助金、過剰生産、人権問題などを指摘。習氏がどの程度受け入れるのか注目される。また、実現性は不透明ながら、「パリ五輪中の世界的停戦」を呼び掛けた。

これに反応したと見られるのがロシア。15日頃にプーチン訪中計画が伝えられる。中国の冷たい態度を警戒してか、戦術核をチラつかせた。立場が悪くなると”核の脅威”をチラつかせる。米国などの支援体制が再構成されるので、夏前に仕掛けたいところであろうが、中国の支援を取り付けないと動けないと見られる。

そういう意味で、6月に向けての情勢では、中国が一つのカギと考えられる。「統計」は持ち直しているので、外資の一部がリバウンド相場を演出しつつある。前提となる中国の市場開放。欧米との宥和姿勢が何処まで維持されるか注目される(外資依存が強まれば、習氏の”中国の夢”は遠退く)。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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