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ある朝の出来事

あのお宅っすか?えーっと、そうっすね、たしか9時半くらいだったかな。あの辺まわるのは大体9時台なんで。インターホンを押して、なかなか出ないので不在かなと思ったんすよね。そんでだいぶ経ってから「はいぃ~」と声が聞こえたので待ってたんすよ。出てくるのを。けっこう時間かかってたなあ。まあそういうお宅多いんでいつものことなんすけどね。

どんな様子だったか……、そうっすね、玄関のドアが開いたんだけど、ドアが半分くらいしか開かないんで、そこからちょっと覗くような感じで荷物を差し入れて、念のためお名前こちらでよろしいですかねって言ったら、その人、目が開いてるんだかわかんなくて、真っ青な顔してて、なんつうのかな、なんか幽霊みたいっていうか。

で、シャチハタを持った手を突きだすので、ここにお願いしますって指をさして受領証にハンコを押してもらったって感じですかね。パジャマみたいなのを着てたので寝てたんすかね。あと帽子もかぶってましたけど。あ、女の人です。奥さんだと思うんすけど。え?荷物?なんか紙袋に入ったやわらかいものでしたよ。軽くて。衣類かなんかっすかね。

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あの日は……、6:30に一度は起きたんです。目覚ましで。でもあまりに眠くて、朝食を食べたあと、やっぱりもう一回寝ようと思ってベッドに入ったんです。8:00過ぎだったと思います。ベッドで本を読んでいたらいつの間にか寝てしまって。

気づくとピンポーンという音が聞こえて。カーテンを閉めていたので、朝なのか夜なのかわからなくて、ものすごく深い眠りの底から釣り上げられたみたいな感じでした。とりあえず急いで身体をおこし、リビングのインタホーンの画面を見ると宅急便の方だったので、はいと返事をしたんです。

かなりぼーっとしてたのですが、とりあえず帽子だけはかぶって、あ、今抗がん剤の治療中で髪の毛がないものですから、それでパジャマ姿のまま、階段を落ちないように気をつけながら玄関まで行きました。

急いでたので、メガネをかけるのを忘れていました。メガネがないとぼやけていてほとんど見えなくて、受領証を出されてもどこに押すのかわからなくて、目をぎゅーっと細めながらハンコを押して、荷物を受け取りました。

その後またベッドに入ろうと思ったんですが、時計をみると9時半過ぎで、そうだ、朝だよねと思い直して、身支度をしようと鏡の前に行くと、びっくりしました。左頬に、枕にかけていたワッフルタオルのでこぼこの跡がついてたんです。くっきりと。人の頬って、こんなにも正確にワッフル模様を転写することができるのかと驚きましたね。

しかも、前日の夜、寝る前に塗っておいた眉ティントが、あ、眉ティントって塗って数時間置くと色素がついて、数日落ちないという化粧品なんですが、それが右側だけ残っていたんです。右側だけイモトみたいな眉の状態で……。それをぺりぺりとはがしながら、ヤマトのドライバーさんにこのワッフル&イモト眉の顔を見られのか……と、恥ずかしくなりました。

それからですか?着替えて、顔を洗って、PCの電源を入れて……荷物?ああ、そういえばまだ開けてないです。リビングの床に置いたままです。中身?楽天で注文した部屋着です。なかなか届かないので、いつ届くんですか?と問い合わせしたら、その日にすぐ発送されて。急いでたわけじゃなかったので、届いたまま置きっぱなしです。

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以前、レーモン・クノーの『文体練習』についての記事を投稿したことがある。

320字程度で書かれた1つの出来事を、99通りの文体で書き分けている本だ。

※ちなみにこの↑記事、これまでの全期間の記事のなかで15番目のアクセス数で、今週でいうと12番目。毎週ちょこちょこアクセスがある記事。


で、そのレーモン・クノーの『文体練習』にインスパイアされて、コミック版で99通りの描き分けに挑戦したのが、アメリカのコミック作家、マット・マドンによるこの本。

ベースになっているのは1ページ、わずか8コマからなるある家の中での出来事。これが、視点を変化させたり、画法を変えたり、その他先行作品へのパロディやオマージュ、地図、広告など、そんなのまで?と思うような手法で描かれていく。

本書を読むことは、「語られている中身」に対して「語る方法」がどんな効果を及ぼしているのか考える機会になるだろう。

と序文にあるように、自分が書こうと思った内容にたいして、それをどんな風に語るのか(=どんな文体で書くのか)によって、効果(=伝わり方)がどう違うのかというのは、読んで考えているだけではなく、実際に書いてみないと本当のところは分からないと思った。

そこで、今朝の1コマを、いくつかの方法で書いてみようと思って、まずは視点人物を変えた2つを書いてあきらめたという←今ここ。

99通りは無理でも、9通りくらいはさらっと書き分けられるといいなと思うので、また後日違う例で再チャレンジしてみたい。


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