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物語は、読む前から始まっている~若松英輔さんの『モモ』の講座に参加して~

NHKの100分de名著などに解説者として出演されている若松英輔さんは、東京工業大学の教授をされている批評家・随筆家です。

なかなか手を出しにくい難しい本を読む際に、若松さんの書籍がガイドになってくれるのはもちろん、私にとっては、若松さんの「語り」が、とても受け取りやすい。滑らかに情感のこもった話し方をされるので、まるで歌を聞いているかのように、とても心に残ります。

そこで、直接若松さんのお話を聞きたいと思い、キャンセル待ちを乗り越えて、参加してきました。

1月は井筒俊彦の『意識と本質』の講座、
2月にはミヒャエル・エンデの『モモ』の講座。

これは連続のもので、毎回数十ページのその本の内容について、若松さんがお話されます。
詳しくはこちらに。
https://yomutokaku.jp/

『モモ』は昨日書いたように、私にとって特別な物語で、しかも2月の講座が第1回目だったので、若松さんがどんな風に読み解くのか、期待を膨らませて行ってきました。

冒頭、本の内容に入る前に、物語を読むときの姿勢や物語との付き合い方についてお話がありました。

物語を読むということは、書かれたことを扉にしながら、書き得ないものを読んでいくこと。
『モモ』でも、言葉を扉にしながら、何を表しているか?を読んでいく。
時代の危機の中でどう読み込んでいくか?と合わせて、自分の持っている問いが深まっていくことが大事。その上でエンデとどう対話ができるのか?
本当に知り合いたい人とは長く付き合って、時間をかけてその人を知っていくように、物語を愛するときも、同じようにわからないところを見つけて、長く付き合っていく。
わかると思ったとたんに、わからないものが見えなくなる。
わからないということを感じながら読む。
エンデの物語を一つの思想として読む人がいるが、それは読み手がそう読んでいるだけ。
自分の視座(俺の見る世界)から動かない人が多い。
決して自分に引き寄せないこと。
決して頭で読まないこと。
『モモ』は、今日読んで、明日わかるとか、そういう話じゃない。読み終わるのではなく、そこから物語が始まる。
せめて物語を消費しないように読む。
すぐれた絵は見られれば見られるほどなぞが深まっていくもの。
それは本も同じ。
著者が書いたときよりも、読まれることで豊かになっていく。物語が育っている。
物語は大きな流れ、海みたいなもの。
鎧を着て海に入ることはしない。
『モモ』を、自分のイズムで読まない方がいい。
せめてモモの物語を、私たちの「モモの目」で見る。
すなおに驚くこと。ただそのものを驚くこと。


自分が普段、どんな風に本を読んでいるのか?と考えてみると、もしかしたら自分の理解の枠で、言い換えると自分の中で内容を解釈、意味づけをして、読んでしまっていたかも、とあらためてハッとさせられました。

「きっとああだろう」
「これはこういうことだろう」

と、自分の「視座」で、自分の「鎧」で読んでいる。

でも、
「なんでだろう?」「どういうこと?」と思ったときに、そのわからないものを、そのまま見て、そのまま立ち止まる。
そうするとその先に、物語の世界へのインビテーションが待っている、つまり、そこから物語がまた始まるのだなと思いました。

私たちの「モモの目」という若松さんの言葉を聞いたときも、「それは○○ということか?」と、解釈してしまう自分がいたのですが、そこはストップさせて、そのまま「私のモモの目ね」と受け取りました。それがなにか、はっきりとわからないまま、それを持って。

どういう姿勢でその本に向き合うか。その姿勢によって、物語が違う方向に読み手をいざなっていくと言えそうです。


その他、内容についても示唆に富んだ考えを共有してくださったのですが、そこは「消費」しないよう、自分の中で反芻してからまた、よきタイミングで書ければと思います。

講座では、まだ内容の1/5程度しか進んでいませんが、深く物語の世界への橋渡しをしてもらえたので、その後再読した『モモ』も、再度観た『モモ』の映画も、新たな世界を(より奥の世界を)見せてくれました。

英語のトレイラーが見つからないので、ドイツ語です(灰色の男たちとドイツ語の相性、なんかぴったりです)。この映画は作者のミヒャエル・エンデ本人もだいぶ制作に関わったそうです。映画の冒頭にはエンデ本人が出演しています。

私は映画で灰色の男たちが出てくるときの「デッ、デッ、デッ、デッ」という音が、耳から離れなくなりました。。。


最後に。
若松さんは、こんなことも言っていましたよ。

現代の「灰色の男たち」は、もうすでに私たちのそばにいて、大切ないのちの時間を盗んでいます。
例えばこんな姿をして。


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