躁の波


 私は双極性障害という気分障害を患っている。今までで躁の波を感じたのは、大学4年生の終わりの22歳、公務員として働いていた時の26歳、学習塾の正社員を辞めてしばらく経った頃の30歳、結婚して式の準備と学習塾のパートを両立させようと頑張っていた33歳の4回ほどだ。 

 このうち、入院するまでに至った波は22歳と30歳の2回。26歳と33歳の時は通院するのみに留まった。いま現在、落ち着いた状態だからこそ振り返ることができる。少し長くなるかもしれないが、書き留めて整理してみたい。  

 そもそも、躁とはいったい何なのか。何をきっかけとして自分の中に湧き起ってくるのか。自分でも皆目検討がつかないが、根本的に「置かれている状況に何とか自分を適応させようと頑張りすぎる事」が原因なのではないか、と考えられる。私が初めて極端な考え(躁エピソード)に至ったのは21歳の頃、大学三年生の終わりだった。交際していた相手と共にいたい一心で、就職活動を考えていた時にふと、「医師免許を取得したら、どこに行っても働くことができる」と思いついた。今となっては笑い話にもできないが、当時の自分は悩んでいた。大学を卒業したら、お互いに距離ができてしまう。会おうと思えばいつでも会える、当たり前の現状がなくなってしまう。それは嫌だ、何とかならないのかと必死だったことを覚えている。 

 「置かれている状況」に適応できなかった理由は、34歳になった現在となって原因が解る。結局「自立」できていなかったせいだ。誰かに依存的になり、主軸を自らに置かずに考えていたからだ。当時21歳の私は、完全に相手が主軸となっていた。相手も言葉にして言わなかったものの、私の存在は重かったに違いない。こう考えていくと、「躁」が起こる時必ずと言っていい程「誰か」の存在があり、その「誰か」と何とか関係を続けたいという想いが強すぎて引き起こされてきたように思う。ある考えに依拠しすぎるあまり、眠れなくなり、その結果冷静さを見失い、突発的な行動や突飛で攻撃的な言動を取るようになる。初めて躁状態になった時は、とにかく眠れなくなり、自分の話を誰でもいいから聞いて欲しくなり、相手の都合も考えずに電話をかけ長時間話をのべつ幕なしに続けた。完全に冷静さを欠いていた。自分を保てなくなってしまった。 

 ここで大きく間違ったのは、自分が躁状態になった時に頼りにしたのが交際相手であり、両親ではなかった事だ。私は当時、両親から「一人でも大丈夫だろう」と思われていたし、自分でもそう思っていた。だから自分が不調になり苦しくなっても、「両親に助けを求めるのはいけない事だ。自分で何とかしなければならない」という謎の義務感に駆り立てられていた。愚かだったと思う。「ちゃんと一人でもやっていける自分」を保たなければいけないと思っていたのだ。結局、交際相手から私の父親に連絡が入り、両親が知るに至ったのだが、もし自分から両親に直接「助けて欲しい」とSOSを発することが出来ていたら、その後の展開は多いに異なっていたことだろう。この時の事が原因で、その後両親は必要以上に私に過保護になり生き辛くなっていった。今思い出しても、この時の過ちを後悔してもしきれない。  

 二度目以降の躁状態は、「今の置かれている状況が嫌で、ここからどこか遠くへ逃げ出してしまいたい」と最高潮に感じた時に波がきているように感じる。それが30歳の時の躁状態を引き起こした原因だ。主治医に「交際相手に依存的になるのね」と指摘されたとおり、「自立」できていない私は誰かの存在に頼りたくなる。そして相手の立場や都合を考えずに、自分の都合の良いように解釈して行動した結果、入院する事となってしまった。

  躁の波が起こる時、前兆として「眠れなくなる」ことや、昔の嫌だった事が「フラッシュバック」する。直近で躁の波が起こった時、今までと違い「ここから逃げたい」という気持ちはなかった。だが、結婚式の準備など面倒なことから「逃げたい」気持ちがなかったかというと、否定できない。また、夫のことをまだ全面的に信頼出来ずにいた。ただ、一年以上が経過してお互いの事を理解し合えるようになり、夫への気持ちは変わった。  

 私はここにいていいんだ、私はこの人を頼っていいんだと思える今、これまでとは違う状況に置かれている。もしこの次、躁の波が起こる時が来るとすれば、もしかすると「子育て」の時期かもしれない。そう考えると、積極的に子どもを育てたいとは思えない自分もいる。躁の時は冷静さや客観性を欠くので、落ち着いて振り返ると恥ずかしくて消えたくなる。もう、そんな思いはしたくない。

  だからこのまま、夫と二人で静かに暮らして生きたい。だが、もし子どもがいたらどうだろう、とも考える自分もいる。ただ、夫と過ごす日々は楽しく毎日笑っているので、それで十分なのではないか?  

 「躁の波」を起こさないために、どうすればいいのか。永遠の課題である。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?