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バレンタイン・バースデー・墓参り

あなたに会えるのは年に1度、あなたの誕生日だけ。それは奇しくもバレンタインデーと同じ日付。

なぜ年に1度しか会えないのかって?それは簡単。あなたの住んでいるところは、とても虫が多いから。虫が大の苦手な私は、冬にしか会うことができない。

東京から約800キロも離れた、山の中の薄暗い墓地。

昔より整備されたとはいえ、お墓に辿り着くまでは簡単じゃない。初めて行った時は、入り口を見つけるのも一苦労だった。細い入り口からどんとん山の中に入っていって、あたりは見渡す限りの墓、墓、墓。ちらりと目の端に留まった割れかけのお墓には苔がむし、側面には「慶応三年」と書いてあった。なるほど、この場所が異様に静かな理由が分かった。150年も前から、永遠の眠りについた人々を受け入れている場所なのか。

お墓と木々、たまに太陽の光が静かに差す、穏やかな朝。だんだん方向感覚を失いながらも、案内板に従ってなんとか進む。

あった。最後の案内板だ。インターネットで見たことがある。なんだかドキドキしてきた。早く会いたい。でも、このまままっすぐ進んでしまうのはもったいないような、少しじらしてしまいたいような、なんとも言えないこそばゆい感覚。

そうだ、写真を撮ろう。出逢えた記念に。ずっと、あなたが好きだった。どこが好きなのかと聞かれても困る。気づいたら、私の中心にいたんだもん。

お墓を目にした瞬間、心臓がきゅっとし、あったかい感覚に包まれた。

こんにちは。私はあなたをよく知ってる気がしてるけど、はじめましてなのね。あなたに出逢ってから、私の世界が広がりました。さっきね、あなたの出身地を歩いてみたの。すごくいい所ね。空気が澄んでて、山が綺麗で、あなたと出逢わなかったら、知ることのなかった世界。

恋人にするなら、自分に持ってないものを持ってる人がいい、という意見をよく聞く。彼は、私が知らなかったものを見せてくれた。そもそも首都圏で生まれ育った私が、他地方に出ることは珍しいことだった。そんな私の手を引き、新しい世界の扉を開けてくれた彼。彼は私に、旅することの楽しさ、出ようとさえすれば、東京から、住み慣れた場所からいとも簡単に出られるということを教えてくれた。

相手がすでにお空へ旅立ってしまった存在であっても、私を導いてくれる大切な存在であることに変わりはない。私の中心にいて、人生の道しるべになってくれる存在。本当に、まるで恋人のようね。

こうやってあなたに会いに来るのも3回目。今年はトリュフを持ってきたよ。喜んでくれるかな?お供えしたら持って帰って食べよう。おばあちゃんが言ってた。お供えしたものを食べると、その人と一緒に食べたことになるって。

生まれてきてくれてありがとう。私と出逢ってくれてありがとう。あなたの人生を誇りに思います。あなたが駆け抜けた歴史が紡いでいる今この時代、私も精一杯生きるから、どうか見ていてね。

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