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駄洒落小説 『愛は犬に宿る』 #シロクマ文芸部


 愛は犬に宿るという。
 そんな噂を聞いたからだろうか。


 道路を挟んだ向こう側に
 三人のおばあちゃんズが
 犬を連れて歩いているのが目に止まる。


 揃いも揃ってトイプードル
 一人は自分の歩行器に乗せ
 残り二人は歩行器とリードの両手使い。

 もはやどっちの散歩なのか……

 どちらにせよ
 健康的であることに違いはない。


 きっとおばあちゃんズも
 飼い犬を愛し 世話をすることで
 寂しさを埋め 自分達の行く末を
 案じる気持ちを抑えているんだろう。


 愛は犬に宿る。

 犬にかけた愛が
 あの世の行き先を決める……らしい。

 
 ったく、胡散臭ぇよな。

 コンビニ横の喫煙場所で
 俺は紫煙をくゆらせながら
 苦々しい気持ちを抱く。


 生憎、俺は愛犬家あいけんかじゃなく愛煙家あいえんかだ。


 きっとあのおばあちゃんズは
 嫌煙家けんえんかだろうなとも思いながら

 俺はまだ火をつけて間もない
 煙草を灰皿に押しつける。

 「ケント、待ちなさい!」
 
 叫び声よりも早く 行き交う車の隙を狙い
 県道を渡ろうとする少年の腕を掴む。

 「おい、小僧!
 ちゃんと信号機があるところを通れ。
 危ねぇだろ」

 
 少年は俺を見上げて表情を強ばらせ
 慌てて母親の元へ駆け寄る。

 母親も、すみません、と頭を下げながら
 俺から逃げるように足早に立ち去る。


 最近は人を見た目で判断するなと
 教えられないんだろうか。

 昔から目付きが悪いと喧嘩を吹っかけられ
 口が悪いと敬遠されるような
 人間だからまあ仕方ねぇか。

 学生時代に剣道に打ち込んでいたのも
 防具で顔が隠せるのが理由だった。 


 そんなことを思い出しながら
 おばあちゃんズに目をやると
 俺の動向を見守っていたのか
 揃いも揃って👍️ポーズを送ってくる。


 ったく、いちいち古臭ぇんだよ。
 ヒッチハイカーじゃねぇんだから。


 てか片手に犬連れてんだから
 歩行器から手を離すなよ。
 転けたら大変だろうがよ。


 もう一度コンビニに戻り
 煙草を吸おうと思ったが

 俺は諦め スマホを取り出し
 “愛”をタップする。


 『あら、賢太けんた? 久しぶりじゃない』
 「俺が喋る前に名前を呼ぶなって
 いつも言ってんだろ」
 『だって、あんたが
 この番号登録してくれたんだから
 賢太で間違いないでしょうよ』
 「それはそうだけど
 そういうことじゃねぇんだよ」

 普段から気をつけてねぇと
 オレオレ詐欺にひっかかるだろ。


 『で、何の用?』
 「いや、まあ、別に……」
 『金の無心以外なら聞くわよ』
 「しねぇよ。そんなこと」
 『それより聞いてよ。
 うちも犬を飼うことにしたのよ』

 なんとなく嫌な予感がするが
 あえて深掘りはしない。

 「……へえ」
 『保護犬のトイプードルなんだけど
 かわいい顔してうるさいのよ、あの子』

 出た。トイプードル。
 この世の他の犬種は滅びたのかよ。


 「……で?」
 『でも不思議とあんたに似てるのよ』
 「どこがだよ」
 『一匹狼のくせして寂しがり屋で
 なんだかんだ周りをよく見て
 気にかけてくれるところかしら?』

 それは買いかぶりすぎたろ。
 母親フィルターかかりすぎ。

 『だから名前は
 犬にあんたの太で犬太けんたにしたわ。
 これなら呼び間違えても大丈夫だし』

 
 ったく、意味わかんねぇよ。


 なんで俺と犬の名前を一緒にすんだよ。
 なんで呼び間違える前提なんだよ。


 それに……
 点の位置ややこしいだろうがよ。


 近所でよく見るおばあちゃんズのみ実話でいつもの如く、言葉あそびをしてみました。

 そしてつい最近、漢字の点を打つ場所問題を話していたばかりで……私は「氷」の点の位置がどうにも苦手で、書道の宿題で

「ええい! ままよ!」

と打った場所が反対だった時の切なさよ……(永は平気なんだけど、氷はよくゲシュタルト崩壊する不思議。犬もそうだけれど、点がつく漢字って基本的に右にあるイメージだから迷ったら、とりあえず右的な感じ。)


 『恋は猫』もよかったらどうぞ~😺
(続編書こうかしら? 思いついたらね!)

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