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「御手の中で」〜とある老司祭の生涯‥6

              

司祭が、青白く、固まってしまったかのような今日子の横顔を大きな手のひらでさすった。顎を軽く持ち上げ、のぞきこむように見た。その、大きな青い眼に出会って、今日子は初めて自分がしばらく放心状態だったことに気付いた。

「ごめんなさい。ちょっといろんなことを思い出してしまって」

「いや、謝ることはなにもない。思い出せることは思い出したらいいし、思い出したくないことは思い出さなくてもいいんだよ」

そう言って彼は一呼吸置き、少しあらたまったような表情になった。どうしたのだろう。今日子がそう思う間もなく、

「不思議なことだが。君が頭の中で考えていることが、思い出していることが、分かるんだ。さっきから。だから、口に出さなくてもいい」

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